#158 二人だけの使者
「…私は、もう駄目ね」
"氷の魔女"は死を覚悟していた。
スキルによる身体の負担で、体はボロボロだった。
「良かったわね。解決して」
何も良くない。
心では、"悪役"の立ち位置が入れ替わっていた。
「…"仲間"って、もしかして…」
ルナが何かに気が付く。
「そう。私と一緒に逃げた仲間よ。少しお願いしてもいいかしら?これは、貴方達に頼みたい」
そう言って、魔女はゆっくり立ち上がった。
「私の仲間を、探して欲しいのよ。一人はラグナ帝国
北東、もう一人は南にいる」
「でも、400年前の話じゃ…」
すると、魔女は確信を持って言った。
「生きているわ。確実に」
何があってもおかしくはない世界。確かに生きていても不思議ではない。
「…君の名前は?」
そうなると、いつまでも魔女呼びは違うだろう。
「被検体629よ。リツカでいい」
「分かった。じゃあ…」
ルナが静かに前に出た。
神格者が助けるのを嫌がるかもしれないけれど、それでも生きて欲しいと思ったからだ。
「魂、少しだけ預かっておくね」
フェイタルの援護あっての神業だ。
そうして、そこは静かになった。
「…最大の敵の言うことを聞くって、正気なの?」
だろうね。
そう言われるのは分かっていた。
しかし、自分ではどうにもならないほどのオヒトヨシなのだ。
そこに敵とかは関係なかった。
「私達は復興作業をするから、4人で行ってらっしゃい」
そんなこんなで、ラスボスの頼みを引き受けたのだった。
「――足下、気をつけてください。段差があります」
手元の松明は、視線の先だけを照らしていた。
「新たに発見されたこの遺跡には、誰かがつい最近も立ち入った痕跡が残されていました。つまり、共和国時代まで使われていたということです」
遺跡の壁棚には、すり減った苔と木の棒があった。
「誰がこんな所を好き好んで…」
始まりは、タイガの大森林を散策していた部隊が、意外な報告とともに帰ってきたことだった。
"森の中に、遺跡がある――"
そこまでの道は、草が薙ぎ倒されていた。
「それは、この先を見てもらえば分かると思います」
案内役は、重厚な扉に手をかけた。
それは、重い音を鳴らしてゆっくりと開く。
そして――鼻をつんざく様な悪臭が漂った。
「まさか…死体置場か」
鼻を押さえて言う。
白骨化したものから、腐敗中のものまで全てが安置されていた。
「――探索、始めてください」
体調管理とマスクを使い、遺跡を探す。
「にしても、よくもこんなものを…」
見た所鎖をつけられたままの死体が殆どだ。
恐らく、犯罪者を収容していたのだろう。
または、粛清対象をここに連れてきて…
「太刀の悪い事しやがる…」
遺跡の奥から、案内役の声がこだました。
「こちらです。下に降りれるようです」
そこには、苔にまみれた梯子が残ってあった。
一段欠落していて、降りにくい。
「下は…何もないのか?」
箱の中は死体ばかりだった。
それは、まるで地獄のように見えた。
夢半ばに倒れたものも少なくないだろう。
自然と、手を合わせる。
これが、今できる最大限の礼儀と謝罪だ。
その時――不意に、死体の一つが動いた。
「なんでしょう?"イセキネズミ"⋯ですかね?」
遺跡に住み着く小動物の一つ。
探せばそこら中にいる。
しかし、その死体だけは違った。
暗闇の中で、紅い目が光る。
悪寒と恐怖が背中を走った。
「まだ、生きて⋯!?」
死体だと思っていたものは、死体ではなかったのだ。
「…大丈夫か?」
もしかしたら、まだ間に合うかも知れない――そう思い、手を伸ばす。
すると、ソレは手には目も向けず、起き上がった。
「歩けるなら、病院へ…」
その時、気が付いていなかった。
スキルが既に発動しているということに…
「なんだこの音!?耳が――」
音のなる方を見上げる。
そこには、数少ない光を集めたような、歪な珠があった。
「まさか!」
気が付くと同時に、爆発。
煙が遺跡内に充満する。
「クソッ――大丈夫か!?」
その時、アレが前にいない事に気が付く。
「遺跡の外にいる者に告げる!出入り口を封鎖!発砲も許可する」
『分かりまし…封…』
声は途切れ途切れになっている。
「ジャミング――いや、電波が悪いだけか。にしても、一体どうして…」
遠くで、数字を言う音が聞こえた。
「出入り口、封鎖だってよ」
「こんな夜間じゃ、通っても分からんだろ」
「爆発音みたいなのしなかった?」
遺跡の入口を警護していた部隊は、突然の命令に困惑していた。
「発砲許可って、ヤバいことになってるんじゃ…」
一人が冷や汗を垂らした、その時だった。
再び、甲高い音が鳴る。
「――伏せろ!」
誰が言ったその声の通りに、反射で従う。
直後――爆発。
「敵か!?戦闘準備――ウッ…」
声の主が倒れた。
ソレを皮切りに、一人、また一人と倒されていく。
銃を持つ手に、力が入った。
頼れるものは、己と月明かりのみ。
そして――森林の奥から、一つの光が現れた。
「来る…!」
銃を出し、威嚇する。
ソレに怯んだ様子もなく、突っ込んでくる!
トリガーに手をかけ、発砲。
不慣れな弾は、見当違いの方向へ。
「…ヤバい」
次は無い。
「ええい。ままよ!」
すかさずもう一発発射。
今度は上手く飛んでいった。
しかし、それが返って災いとなる。
突如として、銃弾が光を放ったと思うと、消えた。
「え!?」
今度は撃てない。
即座に防御結界を展開するも、あえなく突破された。
そして、また一人倒れた。
ソレは、再び暗闇へと走り去った。




