#156 スキルの本性
それは機械的な、感情の宿らない声から始まった。
《――ワタシ…私の名はスキル:冷瀑被」
"氷の魔女"の体を使い、そう名乗った。
「能力が、使用主を乗っ取ったの…?」
ルナが絶句する。
「そんな事、ある訳…」
《しかし、今この場に存在している。私は――》
杖を天に掲げる。
《貴様ら神格者が望んだ、"神人類"だ》
杖を振り下ろし、雪原へと乱暴に当てた。
そして、氷の結晶のような魔法陣が展開される。
「来る!」
吹雪、そして氷結。
「…ラファエル!」
「了解!」
絶対防御領域――その真髄は、あらゆる魔力物体の防御。
たちまち、円形のドームが出来上がった。
「とは言っても、このままだとジリ貧だぞ。作戦はあるんだろうな?」
フェイタルがそう言う。
ところが――
「作戦にはならないんだけど、完全に倒したくないんだよ」
乗っ取られているだけなら、もっとこう――
「"氷の魔女"の意識を復活させたいと言うことでしょう」
シフリスが付け加えた。
「そう。せっかく和解できたのにこんな事ないよ…」
「でも、意識があるかどうかすら分からないんじゃ――」
その時、全員の視線がルナに向いた。
「流石に嫌!そんなの死にに行くのと一緒じゃない!」
「神格者って死なないはずよね」
セレナが無情な一言を告げた。
「そうだけどさ…」
その渋り様は、"危険だから行きたくない"だけとは思えなかった。
「どうして行きたくないの?いつもなら我先に向かうのに…」
すると、ルナは静かに口を開いた。
「私達神格者が生み出した存在に、私はきっと――知らないフリをしていたの。記憶を知らず知らずの内に封印して、目を背けて――」
いつもの威勢は何処へやら、完全に意気消沈していた。
「罪悪感に悩まされている訳ね。そんなの簡単よ」
セレナは続ける。
「自分の行動は、自分の行動でしか消せないのよ」
どこか深みのある声だった。
そして、ルナは顔を上げた。
「――分かった。行ってくるよ」
そう言って1人出ていった。
追いかけようとも思ったが、しなかった。
「私達は…まだ倒れている人達を運びましょう」
今はカノンの言っている方が大切だ。
ルナなら一人で大丈夫だろう。
――情報確認は使える。
星巡記憶も、問題なし。
「⋯冷瀑被。話があるの」
優雅冷酷に佇んでいた冷瀑被が睨みつける。
《"生みの親"とも言うべき存在か。生憎、今は孝行の念など湧いていない》
「違う。"氷の魔女"本人と貴方が共存する道を探したいの」
会話している間に、"氷の魔女"の思念を探す。
しかし、その返事はあまりにも残酷だった。
《私が?不可能だ。もとより私は過去の人類を滅ぼすようにプログラムされている》
そう言い、武器を向けた。
《神に憧れた人類は、神の真似事をして神格者を生み出した。無論、その神格者から生み出された私も偶像でしかないだろう。だが、そう望んだのは貴様らだった》
声が不意に、機械的に戻った。
《ならば、身勝手なその歴史に終わりを告げよう。新たな神人類のために、滅びるがいい》
ひっ⋯
スキルの意思は冷徹だった。
思わず足が竦んだ。
無理!やっぱり帰る⋯!
すぐさま走り去ったのだった。
一方、湊達は"能力王"、"創壊王"、"時間王"、"法則王"の救出に勤しんでいた。
これら殆どはポラリスが倒したため、明確な位置がわからない。
その上、視界はほぼ真っ白。
手探りでなんとか探しているのだ。
「ポラリスさん。覚えてない⋯?」
剣が二度光った。
無理ということだろうか。
「ありました!」
二人セットで倒れているのは、"能力王"だろう。
そして、もう一人――
「こちらも。おそらく"時間王"かと」
後二人。
死ぬことは滅多に無いだろうし、安心して探せる――
刹那、足元に強烈な一撃が入った。
「痛!」
攻撃!?
しかし、そうではない。
"創壊王"が足を蹴ったのだ。
「居たの?」
「自己⋯防衛」
とっとと安置へと持っていく。
"法則王"も見つかったようだ。
そして、丁度ルナも帰ってきた。
「どうだった?」
「見つかりはした。けど⋯」
それ以上に冷酷だった。
「でも、大丈夫」
ルナの星巡記憶を、フェイタルの伝操統術で上乗せする。
「それならきっと⋯大丈夫なハズ」
シフリスの世界超越を使えば、効果範囲までは持っていけそうだ。
「後は、いつ突撃するか⋯」
その時、不吉な音がなった。
「すみません!これ以上は⋯耐えれません!」
刻一刻と、その時は近づいていた。




