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#149 一等星の錨草

ずっとずっと、ルナのことが嫌いだ。

私にとってあの人は格別。

それでも、私は年だけ取った何にもできないダメ女で。

彼のことを否定したりはしない。

いるか分からなかった私なんかより、言葉で寄り添ってくれたルナを選ぶに決まってる。

今までもずっとそうだった。

私が自由になった今でこそ、その関係なんてのは変わらない。

二人を見るだけ。

一人羨ましがるだけ。

私はいつも、蚊帳の外――

どうして?

あの顔が嫌いだ。

一人知らずに幸せに、世界中の幸福を体現したようなあの顔。

憎い。

苦労も知らずにのうのうと生きることが、どれだけ羨ましいか。

怖い。

自分の欲望が、400年間蓄えられたどす黒い感情が、波になって押し寄せる。

理性が流されて消えてしまいそう。

好きになるのにかけた時間も、私のほうが遅かった。

それでも、私の方が先に逢っていた。

誰よりも彼に尽くしてきた。

それなのに、また報われない。

それなら、いっそ奪ってしまえばいい。

完全に壊してしまえばいい。

彼の命なんて指一本で消せる。

跡形もなく消し去ってしまえば、またあの世界で逢える。

そうしたら…きっと向いてくれるはず。

世界の命運だとか、神格者としての努めだとか。

そんなものはもうどうだっていい。

私が"聖女"?

とんでもない。

私は立派な悪女だ。

彼のためなら、全て擲ってみせる。


「――邪魔」

カァンと不思議な音を立てて、また一人神格者が倒れる。

「うえ…怖」

ポラリスはさっきからずっとバーサク状態で戦場を駆け回っている。

「…あの人、どんな人なの?」

ルナに聞くのも久しぶりで、少し懐かしいと思った。

「もう浮気しないって約束する?」

「…うん」

「何今の間?まあいいや。私の姉で、"聖霊王"――なんだけど、詳しいことは私もよく分からないんだよね。覗くこともできないし」

うん。それでそれで?

「ちょっと考え深い所があるよね」

そうなの?

「あと、すごく真っ直ぐ」

そう言って、ルナは指を指した。

"能力王"の二人がのめされている。

しかも、あの四人衆とは違って徹底的に。

「怒らせると一番怖いんじゃないかな?」

部類が違う気がする…って、また来た。

「また一人、終わりましたよ!」

"終わりました"じゃないよ!

「貴方のためなら何でもしてあげますから。頼ってくれてもいいんですよ」

「それは…ありがたいけど遠慮しておくよ」

ルナは何とも言えない目で見ている。

そして、それを上から見下ろすポラリス。

その顔は笑顔だったが、目が笑っていない。

当人であるはずの湊はいざ知らず、争いは激化していた。


さて、その間にカノンはと言うと…

「セレナ様!なにか分かりましたか?」

共同作業。

あの四人衆の洗脳を解こうとしているのだ。

「…氷とかですかね」

「その可能性は高いわね。探してみましょう」

服をめくる。

女性かつ最も軽装だったシフリスを被検体にして…

「ごめんなさいね。また後でこの子も見るんでしょうけど」

この子…つまりフェイタルの事である。

彼は18と聞いた。

つまり、そういうお年頃…おっと、これ以上は不味いわね。

とにかく、起きる前に解除。

そうやって服を脱がしていると、硬いものが当たった。

「この感覚、やっぱり…」

氷だ。

心臓に突き刺ささるように存在していた。

「"仲間を思いやっている感情"を奪う…といったところかしらね。厄介なこと」

「解除方法はどうします?」

すると、セレナは少し考え込んだ。

「そうね。こういう時は…」

ハルバードを出す。

「力技で行ってみるしか無いわね」

一歩間違えたら首が飛ぶが、まあ問題ないだろう。

だって神格者だから。

カノンは慌てて止めていたが、聞き入れず一撃…

その時、真横から強大な魔力が発生した。

リアエンド=フェイタルである。

「秘書セレナ!貴様には消えて貰う!」

ギリギリのところで刀で防ぐ。

起きた途端にシフリスに全力で武器を向けられていた。

考えるより先に体が動いた。

「シフリスに武器を向けた事を後悔しろ!」

セレナは武器で攻撃をいなす。

「勘違いしているようだけど、私は傷つけようとしたわけではなくて…」

「ならなぜ首に向かって振り下ろした!?」

カノンが手で顔を抑える。

ぐうの音も出ないからだ。

「私が悪かったから。落ち着いて話を聞いて…」


――数分後。

無事に武器をおろしたフェイタルと共に、戻す方法を模索していた。

ちなみに…フェイタルの氷は砕けていた。

なぜなぜなのかは自分でもよく分かっていないとのこと。

「やっぱり愛かな」

セレナが呟く。

「ベターだけど王道」

「…貴様の愛は信用ならん」

そして、セレナを睨みつけるフェイタル。

「私は結構マシだと思うけれど?」

嬉々として他人の恋愛不幸を聞いていながら一体どの口が言っているのだ。

「そんなのだから相手が出来ないんじゃないですか?」

すると、明るく言った。

「もう彼氏は作らないことにしているのよ。恭司ってやつね」

装っていた。

自分で言っておいてだが、なんとも居心地の悪い話題だ。

シフリスに向き直る。

それが愛だと言うのなら、愛の証明である"契約の絆"を使う。

正気に戻せばこちらのものだ。

「…好きな人を操るって、悪趣味な…」

「純潔を注いだから問題ないということでしょうか?」

「私にはもう分からないわ」

後ろで勝手に話していろ。

私は私なりの方法で愛を証明するのだ。

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