#148 愛憎と制圧
その日始めて、神以外の手によって生命が誕生した。
双子と呼ぶべき存在は、生まれた日を除いて大きくかけ離れていた。
与えられた役割も、感情論も、その後の運命さえ混じり合うことはなかった。
勿論、本人は始めはそれを知らなかった。
"いつの間にか生まれた、自分の出身地すら知らない存在"
そういう記憶が定着していたのである。
その事を疑いもしなかった。
しかし、真実を知る機会は必ずしも訪れる。
きっかけは、"能力王"が生まれたことだった。
その瞬間、自分が誰かを疑った。
"能力王"は、切れ者であったが故に――悲劇的とも言えるスキルを生み出した。
"生活魔法"のうちの一つ、情報確認。
自分が何かを知るきっかけになった。
二人は早速、それを試した。
ほんの出来心だったのかも知れない。
しかし、真実に触れてしまった。
その瞬間、世界の色が変わる。
その後、片割れはその事を忘れた。
自らの心に蓋をしたのだ。
しかし、もう片方は忘れなかったのだ。
なぜなのかは本人しか知らない。
皮肉な事に、その事を忘れた方が"憶奏王"であった。
後のミリア=ルナである。
ちなみに、真実に対する絶望――それが長い時の中で積もり、ミネルヴァと共に七不思議七番を生み出したが、それは別の話。
本人達は知る由もなかった。
時は流れ、現在――
自分の弟・妹分ともとれる神格者達を相手に、"聖霊王"ポラリスは意気立つ…いや、浮き立っていた。
自分の身体で動く感覚。
久しぶりの外界はいい景色ではなかったが、それで十分。
「やっちゃいましょう!"四大霊王!」
そう高々に叫ぶと、上空に光の塔が出現した。
"四大霊王は4体の上位聖霊を召喚して戦うスキル。
"属性"のウリエル
"福祉"のラファエル
"任務"のガブリエル
"戦闘"のミカエル
それぞれが完全自動で相手に対して的確な攻撃を放つ――言うなれば放任主義になれるスキルだ。
しかし、そこにポラリス本人もしっかり戦ってくるため、戦力としては5人分である。
4対1のはずが、いつの間にか4対5。
これが"四大霊王の強み。
しかし、他の神格者も黙ってはいない。
それぞれが得意とするスキルで相手を翻弄する――
そのはずだった。
その事に最初に気が付いたのは"荘厳王"リゼリア。
万力統一で相手の動きを封じようとしたものの――
霊体には重力が効かなかった。
"魂久王"ファントの選択も躱され、"宿命王"フェイタルは本体の制圧を試みる。
剣撃による支配――
しかし、圧倒的な力を持つポラリスには一切効かない。
逆に支配される可能性を探知し、引き下がる羽目に。
残りの"空間王"シフリスは、空間丸ごとテレポートを開始。
厄介な四体を遠ざけ、別次元に閉じ込めてしまおうという魂胆である。
しかし、どうしても隙が生まれてしまう。
四体からの集中攻撃により、発動は不可能となった。
相性、最悪である。
結果として、ポラリスの圧勝ということとなった。
パンと手を叩く。
「この程度なら朝飯前」
そう言って、再び湊の所へ戻るのだった。
同刻、白石湊は困惑していた。
武器なし。
弁明の余地なし。
希望もなしのこの状況を打開する方法を必死に考えていた。
バカ正直に本当の事を言ったところで、聞く耳を持ってはくれないだろう。
寧ろ怒りをヒートアップさせてしまう恐れまである。
そうなった時、待つのは死のみ。
きっと生き返ることもできない。
浮気じゃないのに…だなんて火に油。
女性が浮気と見ればハグも浮気だ。
え?ハグは流石に…?
そんなのは知ったこっちゃない。
兎に角、どうにか説得するしかないのだ。
しかし、方法が分からなかった。
沈黙のあと、声を出したのはルナから。
「さっきの女、誰?」
顔は笑っていた。
しかし、声は完全に怒っている。
「"聖霊王"エスピリト=ポラリス…」
「違う。何をしていたのか聞いてるの」
アレは完全に事故では?
僕が望んだわけではないし――
いや、年上の人に抱きつかれるのも中々――
首を横に振る。
「アレは僕じゃなくてポラリスさんが…」
すると、ルナは早口でまくし立てた。
「やっと復活させて自由に動けると思ったらすぐにイチャイチャして!そこまで私が嫌いになったの!?なら良いよ!もう好きにして!」
ルナは泣いていた。
「あれ?洗脳解けて…」
「解けてない!」
あ、解けたパターンだ。
とはいえ、もうあの槍まで出しちゃって完全に殺る気だ。
そして、不運なことに――丁度ポラリスが戻ってきた。
「どうして僕にいきなり抱きついたの?お陰であんな事になって――」
すると、あの時の四大精霊達が出現した。
ポラリスは無言で命じる。
すると、ルナの猛攻を全て防いでいる。
話す時間が欲しい――ということだろうか。
「この通り。今となってはもう解決方法は一つしかないですよね?」
解決も何も話が現在進行系でややこしくなっているんだが…
「と言うことで、キスしましょう」
は?
「取られそうになったら、ルナは愛を思い出してくれるはず」
「いや、それでももっといい方法を…」
流石にそれはゴメンだ。
こんな所で最初を使いたくない――というのが率直な感想だった。
そもそも、今日まで僕は殆ど見たことなかった相手と…というのが嫌だった。
しかし、ポラリスの力は強い。
抜け出すのは困難だった。
押し倒され、覆い被せられる。
「ほら。早く戻らないと…取られちゃいますよ?」
――赤面真っしぐらである。
ちょっと前まで思いもしなかった展開。
セレナさんが遠くで興味深そうに見ているが…今そんな感じなんだろうか。
ラッキーを通り越してアンラッキーである。
あと、剣として使っていた時には全く想像しなかったが、ポラリスさんは結構美しい。
少し子供っぽさが混じるルナとは違って、まさに大人の風格。
その整った顔が徐々に近づいてくるのだ。
心の中でルナに助けを呼んでいた。
(早く助けて…)
一方、ルナは葛藤していた。
操られているフリはもう済んだため、戻るのは自由。
しかし、"操られていた"という大義名分を使ってポラリスを懲らしめることが出来る。
湊のことは浮気されたからもうどうでもいい…と思う反面、まだ間に合うかもしれないとも思っていた。
「…!」
結果、走り出した。
気が付いたポラリスはスキルを解除。
――舌打ちをして。
それを湊は至近距離で聞いた。
(え、怖…)
次の瞬間には、ポラリスは立ち上がり、少し離れたところにいた。
そして、入れ替わるようにルナが来る。
「…後で説明してもらうよ」
乾いた返事しか出なかった。
ポラリスは未練がましそうな顔をしつつも、優越感に満ち溢れる複雑な表情をしていた。
「私が無事なんだから、ルナに洗脳なんか効いてるとは思えなかったからね」
そう言えば、ルナから見れば姉妹的存在なのか。
どっちが妹だろう。
番号順だとルナだけど、成長しているのは明らかにポラリスだし…
すると、ポラリスが向いた。
変な笑みを浮かべている。
(まさか、さっきのは本気で…)
嫌な考えはよそう。
僕も彼女のことがよく分かっていないのだ。
「このヘンタイ!」
悔し紛れにルナが叫んだ。
そして、ポラリスは他の神格者のところへ向かった。
"氷の魔女"がいない内に、形勢は大きく変わっていたのである。




