#145 新世界の神話
吹雪は服をかすめて、服は真っ白になっていた。
ユラリア発災地の一寸先も見えない雪原を歩く。
その足取りは決して軽くはない。
今から発動する――決戦というべき作戦はあまりにも無謀で、正直不可能だと思った。
それでも、語る目には希望が宿っていた。
「何かあったら私たちも行くから。一人で無理しないで…」
カノンには別れ際、そう言われた。
その時は「助かるよ」と返したが、呼ぶ気は毛頭ない。
自分がやらかしたことで犠牲になるのは自分だけで良かった。
しかし、想定外があった。
「どうして着いてきてるんですか」
セレナさんである。
てっきり愛想を尽かされたと思っていただけ、「着いて行く」と言われた時は頼もしさよりも先に驚きがあった。
「私は君達の保護者よ。最後までついていくわ」
顔はよく見えなかったが、声は決意に満ち溢れていた。
「死んでも知りませんよ」
「子供が何言ってるのよ。そんなことでは死なないわ」
戯けて言ったのか、それとも本気なのか。
「ところで、その"作戦"っていうのは本当に上手くいくの?」
作戦はこう。
先に神格者を全て復活させてしまって、その後に真打を叩く。
「作戦っていうのかしらね」
セレナが苦笑した。
「それに、レイズが見張っていると思うわ。バレずに行うだなんて不可能よ」
「その時は…」
「力技。ね…」
つい、ため息が漏れた。
もっとマトモな作戦を考えたかった。
「嫌いじゃないわよ。実力行使」
そう言って、セレンは武器を掴む。
「世界で一番簡単な解決方法だもの。"氷の魔女"が関わってくると厄介だけれど、それまでに間に合うのよね?」
「はい。推測ですけれど…」
無意識的に、槍の先を触った。
そして…皮膚がくっついた。
「…水とかないですか?」
「ないわよ。全部凍るもの」
「じゃあ火…」
「この空気で魔法を使うのは不可能ね。大気中の魔力が汚染されているわ。自分の息で解かしなさい」
「そんなぁ…」
ユラリア発災地、その中心――
12柱の氷塔が視界の先にうっすらと見えていた。
「これに神格者が封じられて…」
発動。
内側の魔力だけを使い、悟られないように行う。
「魔法解除」
神格能力以外のスキルを全て解除する究極のスキルだとか…
「これでしばらく待つだけです。後は…」
その時、空気が震えた。
「勝手に何をしているのですか。ここは我らの領域ですよ」
この声、レイズだ。
「先鋒、いや…挑発係が何の用だ。構っている暇などない」
セレナはそう言ってハルバードを構える。
「失せろ」
息もつかせぬ剣撃だった。
しかし…
「効きませんね。鈍ったんじゃないですか」
「何を…」
雪さえ溶かす、白熱した戦闘が幕を開けた。




