#142 法皇の憂鬱
丁度湊たちが"四大聖霊"に会っている頃、下界のローラスでは…
「私は有事に備え、難民を受け入れようと思いますが、皆さんの意見を聞かせて下さい」
国の政治の代表や、教団の上層部をあわせた系8人が集められていた。
議題は今言った通りの、難民問題。
今後の国のあり方を決めるかもしれない重要な政策である。
その事に真っ先に口を開いたのは、反対側だった。
「難民なんぞ断固反対!異教の者をそこまでして救う義理などないわ!」
荒々しい口調で言い放つ。
その横に座っていた青年がこう付け足した。
「難民を受け入れることは犯罪率の低下や急激な人口の増加、更には雇用、食料問題など様々な方面に影響を及ぼします。私も反対です」
他の二人も賛同したように頷く。
「…分かりました。賛成側の意見も聞いてみましょう」
カノンが促す。
そして白羽の矢が立ったのは、ローラス教の司祭を務めている中年ぐらいの男性。
彼は静かに立ち上がる。
「――我がローラス教には、3つの教えがありました。"人を欺かない"、"人を殺さない"、"神を信じる"。皆様も知っているでしょう」
それに、さっきの男性が反応した。
「分かっているわ!それと今回の件、何の関係がある?」
再び荒くなったのを隣の青年が窘めた。
そして、中年男性はそのまま続ける。
「この中でも、"人を殺さない"ですよ。救える命がありながらも手を差し伸べない。まさに人を見殺しにしているじゃないですか」
賛成派も頷いた。
「確かに、難民問題というのは様々な危険を孕んでいます。上げるときりが有りません。しかし、もうそんな事を言える状況でもないことをどうか分かって頂きたい。以上です」
そう言って静かに座った。
しばらくの間、誰も何も話さなかった。
「――では、議会は閉幕とします。これ以降何か申したい方は、私に直接言いに来て下さい。期限は2日後、日昇までです」
これが、後の枢議員の始まりになった。
「――疲れた」
カノンは服を着たまま布団にへばり付く。
「もともと議会とか見たこともなかったのにどうしてこんな事しなきゃいけないのよ…」
愚痴を布団に向かって呟いていた。
その時、ドア越しにコンコンと音が鳴った。
「法皇様。祭事の準備が整いました。10分後に――」
「分かってます」
「では、失礼します」
完全に去ったのを確認してから、再び呟いた。
「こんな仕事するんじゃなかった。ただの一教徒として過ごしたかった…」
悔いてばかりでもいられないが、一人の時ぐらい自分でありたかった。
そして、心に決めて出ようとした所――
「貴方がカノン様ですよね?お迎えに上がりました」
白い翼を広げ、澄んだ声でそう言う。
「誰、貴方――」
すると、恭しく言った。
「申し遅れました。私、"聖霊王"エスピリト=ポラリス様の遣いをしております。本日はカノン様を天界へと連れて行くように承りました故、ここに降臨したというわけです」
「天界って、今白石が――」
「そうです。しかし、貴方様がいないと話にならないとのことで、私――"任務"のガブリエルが遣わされました」
そう言って、カノンの意識を飛ばす。
「手荒になることをお詫び申し上げます」
そのまま、一気に天界へと――
そして、10分後にカノンを呼びに来たユレールが気を失ったカノンを見て大騒ぎになるのだった。




