#139 天門戦略
遠くからは薄っすらと光をまとっていた。
それが結界だと気が付いたのは近づいた時だった。
「これって…」
「そうです。ローラスの叡智を結集させて作った完全な結界、完全防御です!」
すごい響きだが、効果はあるのか?
しかし、それはすぐに実感した。
「温かい…」
まるで春先ぐらいの温かさ。
「気温をある程度緩和することが出来るんです。これがあれば地獄の氷河なんて――」
フラグを立てようとしたところを慌てて止める。
「それ以上言わないほうがいい」
そして、中では…
「法皇様、お待ちしておりました」
片膝を付いて謙る者が一人いた。
何となく、見覚えがある顔だった。
「大司教のユレールです。レイズが変装していたあの人」
カノンがそう言うと、ユレールはいきなりもう片方の膝をつく。
「あの時は私の偽物がとんだご迷惑をおかけしました!」
地面に頭をつけた。
「土下座までしなくていいから!大げさですよ」
カノンは窘めるように言った。
しかし、彼は土下座を止めない。
「そのような訳には行きません!どうか処罰を…」
これは対応に困ってしまう。
ちらっとカノンを見たが、もう呆れただけだ。
僕自信もそうなりかけた時、一体の龍が飛んできた。
大司教も遂に顔を上げる。
「ワダツミ!?」
龍形態はミヅハに瓜二つだったから、すぐに分かる。
「白石、久しぶりだな」
上空で人型に変わり、華麗な着地を決めて言った。
「とっとと行くぞ。今は時間が惜しい」
切羽詰まっていることがすぐに分かった。
「その前に、まずは私の処罰を!」
まだ言っているのか。
「もう適当でいいんじゃねえの」
ワダツミが言う。
「なら…カノンの補佐を全うするとここで誓うこと」
ぱっとユレールは顔を上げ、即座に言った。
「勿論です!私が持つ全ての力を使ってお支えいたします!」
なんとか納得してくれたようだ。
「それじゃあ行くぞ――」
しかし、今度はカノンが止めた。
「その前に、これを…」
そう言って出てきたのは、真っ黒な槍だった。
勿論、見覚えがあるものだ。
「レイズがもともと使っていたものですが、一応神具ですので…」
「ありがたく使わせてもらうよ」
慣れない槍だが、格好がいい。
装飾量も、あの剣とは大違いだった。
「それと、あの…もし戻らなかったら、私と…」
そこまで言いかけて、カノンは言うのを止めた。
「いや、何でもないです。頑張って下さいね」
そう言って、ユレールと帰っていった。
「ありゃ完全に惚れてるな」
ワダツミが呟いた。
「誰に?」
「なんで気付かないんだよ…お前だ」
「え?」
空気が止まった。
「鈍感な野郎だ。ま、嫌いじゃないけどな」
そう言って、再び龍へ戻る。
「乗っていけ。振り落とされんなよ!」
そして、僕を乗せて勢いよく上がっていった。
天界への門へと…




