#138 美術室の絵画、七不思議6番の思惑
パタパタパタ…と、翼を動かす音がかすかに聞こえる。
μ'sがコップを持ってやって来た。
「粗茶ですけど、これでもどうぞ」
そう言ってガーディアンが出したのは、紅茶。
つい、手が止まる。
「毒は入っていないので、安心して飲んで下さい」
気遣いはありがたいが、そもそもな話、僕は紅茶が飲めない。
隣でカノンが美味しそうに嗜んでいる。
…美味いのか?
そんな僕に気が付いたのか、机に砂糖が置かれた。
「…苦手なんですね」
「…キー」
μ'sも賛同するように頷いた。
「まだ高校生だから」
それが苦しい言い訳というのは、自分でも分かっていた。
しかし、特に言及はされなかった。
"スルーされた"のが正解だろうか。
「で、神格者を復活させる方法は…」
目の前に一冊の本が現れる。
「ここ。縁があってよかったですね」
カノンが本を開く。
「ここって…」
「そう。貴方の領土の一つ。"天界"」
その言葉は聞いたことがあった。
ワダツミが守っている世界樹の上に広がる世界である。
「神格者のルーツは天界にあるので、そこに行けば何か分かると思いますよ。もっとも、私が付いていくことは出来ませんが」
「…なんで?」
「幽霊だからですよ。私は所詮ゼルティアにしがみつく存在。離れたら消えてしまうのです」
知らなかった。と率直に思ったが、実は大変なことなんじゃないか?
そして、ガーディアンは重くなった空気を切り替えるように明るく言う。
「少し付いて来て下さい。見せたいものがあります」
そう言って、結界から追い出される。
ガーディアンやμ'sも一緒だ。
「美術室へ行きましょう」
中央校舎3階、美術室――
先の戦いで滅茶苦茶になっている。
夜の校舎であることも相まって、まさに幽霊でも出そうな空気感だった。
「幽霊なら既にここにいますが?」
そうだった。
「ところで、その"見せたいもの"って?」
すると、ガーディアンは壁にある一枚の絵に近付いた。
「これですよ。この絵です」
その絵はレリーフのような見た目をしていた。
他の絵とは一線を画す、赤基調の禍々しい絵。
「当時の生徒であり、今の七不思議六番が地獄の氷河の時に描いた絵なんですよ」
その絵からは、執念、憎悪などのどす黒い感情が感じ取れた。
思わず寒気が立つ。
「でも、この絵は完成していないんですよ。ここ」
そう言って指したのは、絵画の端っこ、ほんの少しの空白だった。
「きっと、未練があって七不思議になったんでしょうね。この絵が完成する前に、世界が終わってしまいましたから」
改めて絵を見る。
「何を書くつもりだったんだろう。こんな端っこで、しかも発災元の後ろ側に」
それを聞いたガーディアンは、気まずそうに言った。
「…神格者ですよ」
思わず聞き返す。
「とんだ皮肉ですよね。発災元の後ろに神格者が立ってるなんて」
世界を守るはずの神格者が、どうして…
聞きたいことがまた増えてしまった。
「それでも、自分の判断には従って下さいね」
ガーディアンもμ'sも、真剣な目をしていた。
「…もちろん。もう壊れたりしないよ」
それを聞いて安心したように頷いた。
「またいつか合うときまでお元気で」
去っていく後ろ姿が遠く見えてしまった。
「もう夜中ですもんね。まだ船が動いていればいいんですけど…」
「きっと大丈夫。ゆっくり行こう」
その後、とっくに最終便を逃していたことに気が付き、野宿することになったのは言うまでもなかった。
「…さて。準備だけ進めてしまいましょうか」
手をパンとたたき言う。
「キ」
μ'sがコップを持った。
その時だった。
――バシャン
ガーディアンが倒れ、水が跳ねた。
μ'sが気が付いた時には、霊力が消えかかっていた。
「キー!キー!」
慌てるように飛び回る。
それを見たガーディアンは細々と言った。
「フフッ。きっと、教えすぎてしまったようね」
禁忌に手を触れたのだ。
「安心して。"全解除"…」
μ'sの能力が全て解除された。
「私のことはいいから、ここから離れて…」
言い終わる前に、μ'sが魔力を出した。
そして、そのままガーディアンの体を包み込むように流れる。
「これは…あの時と同じ」
方法は一緒だった。
しかし、読み取れる感情が全く違う。
「…そんな事、しなくてもいいのに」
そのまま、μ's本体が消えた。
残ったガーディアンの目は、赤かった。




