#137 幽霊と聖霊
氷に包まれた世界は、ほぼ全ての生物が生きることが出来ない極寒の星。
そこでは下位種族も人間も上位種族も等しく蹂躙される。
大気中の魔力量も大幅に減るため、攻撃魔法の使用も困難になる。
そのため、持てるもの全てを持って地下へと退避するのだ。
それは、例え実体がなかろうと例外ではない。
人がいなくなった国立図書館で、必死に準備をしている者がいた。
一つの使い魔を持った、丸眼鏡をかける女性――
ガーディアンである。
"黒蝶"は大気中の魔力に依存するため、回収しないと文字通り死んでしまうのだ。
なぜ困っているのか。"黒蝶"は命令さえ下せば勝手に帰ってはくれる。
しかし、廻廊が開いている時間が問題だった。
その時に図書館内にいないと、回収することは出来ない。
都市国家とはいえ広大なゼルティアを、"黒蝶"のとてつもなく遅い移動速度で駆けるには限度があった。
それ故、必死になっていたのだが――
突然の襲来に、更に目を回す事となる。
一人の教徒が、廻廊に侵入した。
幽霊は聖霊相手にはめっぽう弱いため、追い出すことになる。
しかし、干渉しようとしても、全て拒まれるのだ。
情報も何故か確認できなかった。
それは教徒どころか法皇であるカノンだからこそなのだが…それにガーディアンが気付く由はない。
それで、隣りに居る白石に説得を試みることにした。
不安げな使い魔も連れて。
「なんですかあの敵!?全身目だらけで怖いです!」
だからと言って、僕の後ろに張り付かないで頂きたい。
「法皇なら怖がらずに除霊――じゃなくて、対話でもしたらどうなの?」
「怖いものは怖いんですよー!」
ガーディアンは敵対しないと思うんだけど…
それと、聖霊具が痛い。
ものすごく痛いのだ。
確か希望之槍…だったっけ。
それが、さっきからずっと背中に刺さっている。
カノンに僕を傷つける気がないから、大きな怪我も無いのだが…
ガーディアンが近づいていた時に力まれたら終わり。
…背中に、冷や汗が一筋垂れた。
「ガーディアン。ちょっとお願いがあるんだけど…」
「それは私も同じです。この子を外に出してください。さっきからずっとμ'sが怯えています」
そう言って指したのは、やはりカノン。
――ちなみに、μ'sよりもガーディアンの方が怯えているのは秘密である。
「そこをなんとか。カノンは除霊とかお祓いはしないから」
その言葉を聞いて、ガーディアンの目が丸くなった。
「…見た感じ、法皇ですよね。新しくローラスで就任したって言われてる…」
すると、カノンが僕の後ろからおずおずと出てきた。
"会話ができるタイプ"と踏んだのだろう。
「――私だって、特に変なことをやらかしていない貴方達を払うつもりはありませんよ」
虚勢を張った、強がった声で言う。
「ただ、神格者を復活させる方法を教えてほしいだけ」
そこには切実さが込められていた。
ガーディアンが振り向く。
「付いてきて下さい。カノンさんはくれぐれも者に触れないように」
ガーディアンの後ろをμ'sが追った。
「怖かったです!白石様から聞いていましたが本当にいるとは思いませんでした」
力が抜けたようにへたれこむ。
「今まで僕が嘘ついてると思ってたってこと?」
「違います!あの幽霊のことですよ!」
確かに、アレは初見だと吃驚するわな。
「目がいっぱいあって、見るからに禍々しい。単眼の従者までつけてるなんてもう…」
…これ、力じゃなくて腰が抜けてるのでは?
「行くよ。置いていかれたら迷子になるから」
カノンを起こして、奥へと進んだ。




