#135 馬鹿
「おやおや。今まで散々寝ていたと言うのにまたお休みですか?」
レイズは革靴を鳴らし、ふてぶてしく歩く。
「――返事は無しですか。本当に寝ているのか、それとも…」
彼女から出る魔力が、一層濃くなった。
「なるほど。こうして膨大な魔力を維持していたのですか」
鼓動を鳴らすように、魔力が脈打つ。
一つの生物のように――そして、アル=ゼリオにもある魔力のように。
「使えるだけ、使わせて貰いますよ。後は――」
「何をするつもりだ?」
彼女の方から声がした。
レイズが振り向く。
「起きていたんですか。ならそうと言ってくれれば良いのに」
「それよりも、その後何するつもりだったんだ?約束だけはしっかり守ってもらうぞ」
「勿論です」
すると、彼女は再び目を瞑った。
「…本当に、馬鹿ばかりで助かりますよ」
隠す気の無い笑みを浮かべた。
「白石も、その仲間も、彼女でさえも…」
その高笑いは、他の誰の耳にも届かなかった。
「――」
「…」
セレナは、机に向かっていた。
対面に座っているのは、白石湊。
真横に座っているのは、カノンだ。
「――今更僕に説教ですか?どうぞ」
湊は放心しきった…と言うよりも、完全に意気消沈。
燃え付いて、冷笑族の仲間入りを果たしている。
「…今日は説教をしたい訳じゃないわ」
そして、一泊だけ待って言った。
「白石君は――もうこの世界に来なくて良いわ」
部屋が静寂に包まれる。
「帰るなら、ゲートがまだ残っている今のうち」
そう言って、突き放すように立ち上がった。
「それだけよ。さようなら」
そう言って、セレナは退出した。
湊はその言葉を、呆然と受け止めていた。
今までの行動からして、当たり前と言えば当たり前。
「――カノンは何しに来たの」
逃げるように聞く。
「ただ監察しているだけです」
冷たく言う。
今までの言葉の一つ一つが、湊に突き刺さった。
そして、湊は立ち上がり、歩いて何処かへ行った。
「…ルナ様が、浮かばれませんよ」
湊が退出したあと、カノンは一人で呟いた。
ユラリアの外は、もう雪が降り始めていた。
これから先、止めどなく降り続ける雪。
ゲートはそこまで遠い訳では無い。
しかし、今回は今までよりも遠く感じれた。
重い足を動かし、前へと進む。
その時、何を考えていたかは分からない。
ゲート手前まで来た時、不意に立ち止まった。
気が付けば、あの剣も消えている。
支えてくれる存在も全て失ったのだ。
再び、歩き出した時――
突如として、頬を殴られる。
「少年。それでいいのか?」
久しぶりに聞いた声。
そこに立っていたのは、湊に訓練を付けた筋骨隆々の人だった。
ポカンとしている湊に、彼は言う。
「それでいいのかと聞いているんだッ!」
周囲の雪が溶けてしまいそうな程の熱を向ける。
「逃げる事に文句は言わない。しかし!今まで助けて貰った人達を、この世界を見捨てる事など、この私が許さんッ!」
そう言って構えを取った。
「かかってこい!少年!」
湊に取って、きっと――いや、間違いなく勝ち目はない。
それでも、湊は…
「ハッハッハッ!強くなったな。少年!」
完全にのびている湊に言う。
結果は、大男の勝利。
「さらばだ!縁があればまた会うだろう!」
そして、大男は去っていった。
暫くして湊は立ち上がる。
ゲートを見る。
そして――歩き出した。
「カノン!」
部屋の扉が勢いよく開いた。
「神格者を蘇らせる方法を教えて下さい!」
頭を下げ、懇願した。




