#129 ラストピース
リアエンド=フェイタルは庇うようにして言った。
「私はシフリスの夫、リアエンド=フェイタルだ!」
その声は、男にとって耳障りな妄想に聞こえた。
そしてもう一人――
フェイタルの後ろで顔を赤らめているのが、シフリスである。
(ど、どういう状況?いきなりそんな事…)
目が覚めるといきなりプロポーズされたような状態だったので、何が起きたのか分からず困惑していた。
そこには、胸の痛みなんか残っていない。
変わりに、心臓の鼓動が響いていた。
フェイタルにもし今後ろを向かれたら、恥ずかしくて逃げ出すかもしれない――
しかし、そのことには気付いていない。
フェイタルにとって、今向くべきは前の敵である。
「伝操統術!」
「世界超越!」
神格能力同士の戦いが今、幕を開けた。
先手を打ったのは、フェイタルだった。
剱に魔力とスキルを込める事で、刃に触れただけで支配出来る即死級の武器となった。
――勿論、殺しはしない。
スキルも全部奪って、二度と抗えないようにして終わるつもりだ。
一方、あの男は微動だにしない。
手に入れたばかりの世界超越をまるで自分のスキルのように使い、導線をことごとく阻んでいく。
こちらも、穴に触れたら終わり――
まさに真剣で斬り合うような、一つの油断が命取りとなる戦い。
「フハハ!馴染む。馴染むぞ!やはり私こそが神格能力を扱うべき存在なのだ!」
有頂天を表したような物言いに、フェイタルは苛立っていた。
こいつは赤の他人だが、大切な人のスキルを使っているのはいい気はしない。
「奪い返せ!伝操統術!」
能力強奪も伝操統術も能力を奪う事が出来る。
――ならば、格の高い方が有利。
フェイタルはそう踏んだが…
「無駄だ!神格能力から生まれし能力強奪を奪えると思うな!」
特殊能力でありながら、神格能力に匹敵するということ。
(神格者の中にも敵が…?いや、それよりも)
追い詰めたと思ったら、穴を作って逃げられる。
いたちごっこに翻弄され、フェイタルは勝機を見失っていた。
「そもそも、何で弱体化してないんだよ…」
すると、余裕に満ちた声で男が言う。
「当たり前だ。既にこのスキルの所有者はこの私に移っている」
すると、手を重ねたような動きをし…
「このような事も出来るのだ。神格能力とは、まさに神のスキル!」
同じ場所に穴を重ねて生成させたと思うと――突如として暴風が吹き荒れる。
「まさか…ブラックホールか!」
空間生成ならば無限の質量も余裕ということだろう。
なぜなら、空間自体が質量になるのだから。
「そんな無茶な事…」
「知らなかったのか?やはり彼奴は失敗作。扱うべき存在ではない!」
シフリスが手に入れた能力を使っておいて、横暴な…
とは言え、ブラックホールの生成はごく僅かな時間のみ。
それさえ切り抜けてしまえば、後は詰めるだけだと思っていた。
しかし、またもや知らない技がフェイタルを襲う。
視界が暗くなる。
魔力探知では、天井に大きなゲートが開いていた。
「視界操作まで…」
まさに防戦一方。
「そうだな。貴様のスキルも後で頂くとしよう。私の方が上手く使える」
…言い返す言葉もない。
もともと、伝操統術は戦闘向きではないのだ。
いっその事、殺す気でいけば…
そんな考えが頭を過ったが、すぐに捨てる。
あんな野郎でも一応は親なのだ。
失う苦しみは自分にも分かっていた。
分かっているのだが…
もう、我慢の限界だった。
「親ってのは、父親ってのは!一見したら厳しいことも言うが、それでも、本心では子供を愛するものだろ!実の娘を人外、気狂いみたいに扱って、それが家族か!?」
冷静さを失ったフェイタルの言葉を、男は冷然と止めた。
「だから何だ。所詮彼奴は何処に行っても役に立たない存在。こうして使われるだけでも有難いと思え」
――拳を握る。
すると、後ろから気配がした。
シフリスだ。
「起きたのか。良かった…」
すると、シフリスは何かを呟いていた。
よく聞いてみると、それは――
「いいですよ。あんなのは親じゃない。もうただの敵だから」
今にも消え入りそうな声で言っていた。
もし今までのことを全て聞いていたとするならば、きっと…
何も言わず、ただ抱きしめる。
そして、向き直して言った。
「分かった。しばらく待ってくれ」
伝操統術発動。
もう、手加減はしない。
剱を構える。
「まだ戦うつもりか?もう勝負は付いただろう。諦めて降参――」
しかし、言葉は続かなかった。
その殺気を、肌で感じてしまったから。
「まさか、今までのは本気では…」
交わす言葉など、必要ない。
圧倒的にねじ伏せるだけだ。
翼を広げ、高く舞う。
その姿は天使にも、そして悪魔にも見えた。
「伝操統術。スキルも、魂も、全て奪え!」
刃が音も立てずに突き刺さる。
世界超越が、シフリスの下へと戻る。
そして、断末魔一つも挙げずに、あの男の魂は――消えた。
奢ったものに相応しい、呆気ない最後だった。
「伝操統術…解除」
した途端に、シフリスが駆け寄る。
「…帰りましょうか」
もう、泣いていなかった。
「分かった。ちょっと待って」
「――まだ何か?」
シフリスが怪訝そうに効くと、フェイタルは言った。
「魔力切れだ。もう無理…」
そのまま、気を失った。
「…私も、もうゲートは作れませんね」
すると、フェイタルを背負う。
「…あの時聞けてよかったですよ。大好きです」
そして、帰路に着くのだった。




