番外編 シフリスとフェイタル その2
「我が娘を迎えに来た。リアエンド=フェイタル」
耳に届く前に反射で振り向く。
どうして、私の名前を知っている…?
「何者だ?なぜここに来た?」
質問たっぷりのフェイタルを止めたのはシフリスだった。
「…お父様。どうして…」
震えた声で言う。
「勿論、迎えに来ただけだ。身の程を知らぬ愚か者に入籍したと知って、飛んで来たのだよ」
"愚か者"が少し癪に障ったが、我慢しろと自分に言い聞かせる。
これも、少しでも多く情報を聞き出すため――
「では、帰ろう」
――は?
"自称親"が言った発言を飲み込むのには時間がかかった。
「お言葉ですが、私は既にこの人と…」
シフリスの言葉を、親は強く遮った。
「黙れ!こんなろくでもない奴、すぐに裏切るに決まっている」
――我慢だ。我慢…
爆発寸前だが、まだ耐えれる。
「全く、こんな年になっても人を見る目がないとは、育て方を間違えたかもしれんな」
プチッ――
何かが切れる音がした。
気がつけば、拳を握っていた。
手には、日本刀。
二度と持たないと思っていた武器を召喚していた。
しかし、それを見た親は特にうろたえる様子もない。
「流石は操った黒幕、名実ともに馬鹿とは傑作だ。この大衆の中でそれを振れるとでも思っているのか?」
冷笑と同時に、誰かの悲鳴が聞こえた。
「ッ――!」
どう振っても巻き込んでしまうのは確実。
諦めるしかないのか…?
――私にとって他の有象無象などどうでも良い。シフリスさえ無事でいれば…
その時のシフリスの顔は、悲しそうな表情をしていた。
無言で、剣を戻す。
それを見た親は、歪んだ笑みを浮かべていた。
「残念だったな。それが貴様の限界だ」
そう言って、消えた。
完全な、敗北だった。
大衆はもうとっくにどこかへ避難していた。
広い道に一人呆然と立ち尽くしていると、後ろから声がした。
気がつけば、なぜかあの秘書がいた。
「見事にやられたわね。寝取られもいいとこだわ」
淡々と言ってくる事に、また腹が立った。
「煽ってるのか?」
セレナを睨みつける。
「そんな趣味はないわよ。ただこれ以上私の仕事を増やさないでほしいだけだけど…そうも言っていられる状況じゃないわね」
周囲は、いつもと変わらない。
――変わらないのが問題。
「魔力の痕跡も、発動痕跡もなし。人間業とは思えないわ」
神がかったところを見ると…まさか、同族か?
「それに、最初から全部見ていたけどかなり嫌な感じね。家庭内暴力でもされてないと良いけど……おそらく、黒ね」
分かっていた。
シフリスの反応が明らかにそれだった。
でも、動けなかった。
「それでも、私は賢い選択だと思うわ。大衆を守り抜いたもの」
そんなフォローも何も響かなかった。
「守ったのはシフリスだ。私はたった一人さえ、守れなかった」
…むしろ、奪おうとしてしまった。
最悪だな。
「そう悲観しないの。まだ希望があるわよ」
「…何のことだ」
「丁度、白石達がユラリアにいるわ。きっと呼び出せばすぐに援軍になってくれるわよ」
セレナは完全に湊を便利屋だと思っている。
「…自分一人で行く。わざわざ呼ぶ必要はない」
「あら、場所も分からないのにどうやって…」
「"契約の絆"がある。大体の位置は特定可能だ」
それを聞いたセレナは驚いた顔をした。
「"愛の力"かしら。喜ばしい事」
フェイタルは、目的地に向かって一人で歩いていった。
最後に残ったセレナは呟いた。
「いつか私の始末対象になるのかしら。早いうちに対応したほうが良いのかもしれないわね…」
そして、フェイタルの進行方向とは反対にある、ギルドの方へと歩いていった。




