#117 "魂久王"その四
「小生は後方支援に回らせてもらいますね。巻き込まれると怖いので」
ファントはそそくさと戦線離脱。
「良いわよ。先輩の力ってのを見せてあげる」
槍を向けるは、操られた敵。
「記憶者どうし、勝負しましょう?」
その瞬間からそこは、二人だけの空間。
迂闊に入ると、無事でいられるかは分からない場所。
僕はそっと見守っておくのが良さそうだ。
「…」
ガーディアンは無言だが、ニタニタした笑みを浮かべていた。
そして、本体が一つの目で瞬きをした。
――ダンッ!
ルナが地面を蹴り、目にも止まらぬスピードで走り出す。
元いた場所は抉れた、音速レベルの槍での一突き!
ガーディアンは避けない。
その代わり――本体が翼で守る。
カァン…
鋼鉄のような音が響いた。
「バカだね。ルナちゃんのあの攻撃に触れたら…」
先輩が勝ち誇ったように言った。
その通りに、氷が生える。
「先輩、アレってどういう能力ですか?」
「簡単に言うと、力を全部失わせる氷なんだよね。丁度氷が体温を奪うのとおんなじ感じ。私も食らったけど、アレはきつかった…」
なら、もれなく力を失うだろう…
しかし、現実はそんなに甘くはなかった。
――無傷。
流石に、ルナも動揺を隠せなかった。
「な、なんで?確かに当たったはず」
そこで、ルナは気がつく。
この能力が、"生命力"を奪う能力だったこと。そして、相手が幽霊であること。
「あ、忘れてた」
しかし、くよくよしている時間はない。
ガーディアンは本を投げる程度の能力だが、本体の肉体?攻撃は凄まじい。
鋼鉄並みの翼を上から叩きつけたり、刺したりと様々。
「だったら」
ルナも翼を広げ、限界を超えたスピードで飛び回る。
「あいつの目が届かない後ろ側なら――」
すると、一冊の本が進行方向に現れた。
そして、ルナに当たる。
勿論、本体は全く動いていない。
ガーディアンの全身の目から、あらゆる方向を探知できるのだ。
「不意打ちも無理とは厳しいね。じゃあ…」
今度は本体を狙う、が――
翼で防がれる。
「まるで、全部分かっているみたい…」
先輩が言った。
あれ?たしか…
「そう言えば、ガーディアンも人の心読める!」
初対面のときにされたのをしっかり忘れていた。
「えー」
ルナがヒジョーに渋い顔になった。
その上、ガーディアンはゼルティア学園内にいる物体の情報を理解できる。
相手がどんなスキルを持っているかも、攻撃の性格も。
全てガーディアンが把握し、本体で攻撃を仕掛けてくるのだ。
「面倒くさ…私もするか」
攻防が止まる。
「あれ?動かなくなったけど」
「いや、これは…読み合いですね」
お互いが読んで、その結果を読んでの繰り返し。
先に動いたのは、本体だった。
「ちょっと!?まだ考えて…」
気がつくと、本体はなにも考えていなかった。
ガーディアンの方で考えていれば良い――
数の暴力が、ルナを苦しめた。
「あーもう!攻撃しようとしたら防がれるし、どうしろっていうのよ!」
矛先は、ファントに向かった。
「ファント!なに立ってるのよ。加勢して!」
「貴方が『良い』って言ったんでしょう。それに、小生も精神を遡上しています。頑張ってくださいよ」
ルナが頭を抱えた。
「それに、先輩の威厳とやらはどこへいったんでしょうね?」
ファントが追い打ちをかける。
「…」
すると、牢獄――僕に向かって歩いてきた。
「それ、貸して」
言われるままに、剣を差し出す。
「幽霊には聖霊よ!」
ルナが持った瞬間に、形が変わる。
弧と弦を持った、一つの弓へと。
「ええ!?槍はどうするの?」
そして、直上に向かって矢を一本放った。
「ゼルティアで使ったことのない戦法なら…」
一本だった矢は光に包まれ、何十倍にもなって降り注ぐ。
最初のときに見せたあの技。
「栄光ノ矢群!」
攻撃を読まれるなら、対処できないうちに全体攻撃を仕掛ければ良い――
あの弓を伝って、考えが分かる気がした。
大半は翼によって防がれるが、流石に全てを受けきることは出来なかった。
相手が一瞬怯んだ。
「なら次は…」
上空へと舞う。
相手に向かって打たれた矢は、軌道を描きながら増える。
湊も知らない技。
しかし、相手は既に順応していた。
全身の目から、一瞬にして技の特徴を把握。
今も、学習を続けているのだ。
「同じ技は効かない…」
今度は、相手が攻撃を仕掛ける。
本体が上を制圧し、ガーディアンが地を攻める。
「流石に…」
両方を封じられては、手も足も出ない。
「ファント!まだなの?」
「後もう少しだけかかります。揺さぶり続けてください!」
すると、今度は弓と槍。
「そんな持ち方できるの!?」
弓、打てないでしょ…
しかし、いとも簡単に予想はひっくり返った。
槍を弓に差す。
「まさか!」
ギリギリと弦が音を鳴らした。
そして――発射される。
「そんな乱暴な…」
驚いたのは、相手も同じだった。
判断が遅れる。
そして翼が間に合わず、ガーディアンに直撃!
ガーディアンに、氷が生える。
「でも、生きて無いから意味が――」
しかし、ガーディアンは膝をついて倒れた。
「相手の、"霊力"も奪えるのよ!私だって成長してるんだから!」
その瞬間、ファントから魔力が溢れる。
「遡上、終了!"盟友の絆"よ。解き放て!」
それは、勝利宣言となった。
ガーディアンの支配が消えたのだ。
本体の一つの目が見開かれた。
「終わりよ!」
本体が墜落する。
ガーディアンが起きたのは、少し経ってからだった。
「起きたか。気分はどうだ?」
ファントが覗き込むと、ガーディアンは顔をしかめた。
「もっと早く出来なかったんですか?」
「先に感謝しろ」
その一方、ルナは本体を摘み上げていた。
「こいつどうする?ちっちゃくなったけど――」
本体は、手の平サイズにまで縮小していた。
「――成仏させる?」
先輩が言った。
「悪霊退散!って感じで」
ま、悪霊だもんな。
納得していた。
「その剣で切ったら、多分大丈夫かと」
聖霊力で…
すると、一つの目の視線はガーディアンに向いていることに気が付いた。
「――どうしたの。後悔しても遅いと思うよ」
うなだれたような表情になった。
そして、最後の力を振り絞るように、跳ぶ。
ガーディアンの頭へ。
「また操られちゃうんじゃない?」
誰もが危惧したが、最早操る力も残っていなかった。
ガーディアンが摘んで、頭から引き剥がす。
「小さくなりましたね。なんで私を操ったんですか?」
そこで、ガーディアンは怒っていないことに気がつく。
こいつは「キー」と鳴くだけだった。
もっとも、ガーディアンには伝わったようだが。
「…」
沈黙が続いた。
「ルナ。アレなんて言ってたの?」
「えっと、『忘れ去られるのが怖かったから』だって。だからって、虫が良すぎるよね!」
ルナは少し怒っていた。
すると、ガーディアンは魔力?を本体へと注いだ。
目を疑う光景だった。
「ガーディアン!?一体…」
「常々、従者が欲しかったんですよね」
…生かす気のようだ。
「小生は気にしませんよ。お好きにどうぞ」
すると、どこかへ歩いていった。
「ちょっと!まだ"創壊王"の場所聞いてない!」
すると、「ゲルゼズにいますよ」と言って、どこかへ消えていった。
『本日も心霊放送の時間になりました。今回は、"音楽室の亡霊"について!使われなくなった楽器の怨念が――』




