#114 "魂久王"ファント=ナイエクレ
夕日が射す空き教室に、鍵を開ける音が響いた。
遺跡探索から一夜経ち、僕らは今、三度目のゼルティア学園に来ている。
「一体、あと何回来ることになるのか…」
ため息も漏らしたくなるほど、今回の旅は過酷なもの。
何処にいるかも分からない残りの神格者を全員集める、とても無謀なものだ。
「ルナちゃん呼べないの?」
先輩が聞いた。
「それがね…百年に一度ぐらいしか会わないのよ。気分にもよるし」
ひゃ、百年!?
待っていると寿命が尽きてしまう。
「それに、都合が合わないこともあって、欠席することもあるの」
せめて、その日ぐらい空けとけ。
「だから、ここに来たんだよね。ファントなら、誰か知ってるかな――って」
ああ、そういうことね。
いきなり、「明日ゼルティアに行こう!」なんて言われたときは驚いたものだ。
そして、手元には黒紙と鉛筆。
テンビンサマを呼び出す、あの儀式だ。
「会える」と「会えない」を書いて少し待つと、文字が浮かび上がる。
すると、ファントに会える――
先輩が慣れた手つきで字を書いた。
「鉛筆っていいよね。白石君はシャーペンとパソコンだったっけ?」
先輩は軽蔑したような目をしていた。
「鉛筆でしか出来ないことがあるんだよ」
僕を諭すように言う。
「例えば?」
「鉛筆サイコロ」
「ズルじゃね―か!」
思わず、声を荒げてしまった。
「ズルじゃないわよ。私はこれで入試受かったんだからね!」
自慢できることでもないですよ――
「ねえ、何の話をしてるの?」
ルナが不思議そうに聞いた。
「受験っていう…よく分かんない事をするんだよね」
「ふーん」
ルナに何となく伝えた所で…景色が変わった。
空き教室から、暗い部屋へと。
「ここは、あの時見た――」
言いかけた時、後ろから声がした。
「また貴方達ですか。小生の廻廊を荒らすのは止めていただきたい」
その話し方は――ファント!
「久しぶり。早速だけど…これ」
そう言って、剣に"収納"していたポラリスの体を取り出す。
原理は知らない。
なぜこうなるのかが、さっぱり分からないのだ。
しかし、それが当然であるかのようにファントは話を進めた。
「成程。早い話、どうにかして魂を肉体に戻したいって事ですか…」
すると、ファントは首を横に振った。
「残念ですが、小生にはできません。他の神格者が――」
「それは知ってる。他のがどこにいるか知らない?」
すると、ファントは少し考えてから言った。
「いいですよ。"創壊王"でしたら知っています。ですが――」
「ですが?」
怪訝そうに聞き返す。
「少し、小生の仕事に付き合ってもらいますよ」
そして、ファントは頭を下げた。
「彼女――七番を助けたいので、力を貸してくれないか」
…七番って、ガーディアン?
訝しむ湊の隣で、ルナは意地悪な笑みを浮かべていた。
「ふーん?私に頼みごとをするなんて、少しは理解したようじゃないの」
「ええ。不本意ですが、小生のプライドよりも一大事ですからね」
ルナも言葉の重みを理解したのか、真面目な表情になった。
「――何があったの?」
「あれは…少し前の事でした」
ファントは、ゆっくりと話し出した。
「ガーディアンよ!ワタシが再び来てやったぞ!」
ガーディアンの廻廊に、高笑いとともにミヅハの声が響いた。
午後5時55分に図書館に入れば、だいたい会える――それが、ガーディアンの嫌う、"愚龍"を招き入れる要因だった。
しかし、今日だけは雰囲気が違う。
いつもなら、「また貴方ですか。帰ってください」と入った途端に突っぱねられるが…
その声はしなかった。
普通なら、少しおかしいと感じるもの。
しかし、恐れを知らないミヅハはそんな事もいざ知らず。
「遂にワタシの事を認めたか!」
勝利宣言を行い、さらに奥へと入って行った。
異変が起きた事にミヅハが気付いたのは、それからだった。
いつもいる所に、いない。
飛び回っている蝶も、それらしき気配もなかった。
ただ、静かなだけだった。
これには、流石のミヅハも不安がった。
「どうしたんだ?全く見つからないではないか!」
そして、帰ろうとした頃に、ガーディアンと出会った。
「ガーディアン!今日は何処へ行っていたの…」
明るい声は続かなかった。
ミヅハは、気配を感じ取っていた。
ガーディアンの、普段とは違う何かの…
視線が合う。
そして――
「今日は悪かった!帰るから許してくれ!」
目一つでミヅハを屈伏させ、何処かへ消えた。
その事を、ファントは聞いたのだ。
「不思議ね。ガーディアンがそんな事するようには見えないけど…」
それでも、3人の意見は一致していた。
「どうにかして、戻してあげよう!」
「おー!」




