#104 まだ見ぬ者達
「いやー!怖い!」
森に入ってすぐに、先輩の悲鳴が響き渡った。
「先輩、くっつかないで下さい」
「だって…」
そんな子供みたいなこと言っても、同情する余裕はない。
なぜなら――今既に戦っているからだ。
「スキル:情報確認発動!」
高々と叫ぶ。
[上位精霊:悪魔竜]
悪魔が竜族に受肉した姿。
通常攻撃の他に、精神攻撃を併せ持つ種も存在する。
悪魔のくせに精霊なのかよ。
しかも、『精神攻撃』
先輩が引っかかっているかもしれない――
「早く倒したいのにー!なんで倒しちゃいけないのよ!」
それを聞いて、何故か安心した。
「上位種族は希少だから保護しなきゃいけないの」
ルナが説明する。
「だから、ちょっとずつ体力削っていって、最後に逃げよう!」
「――って事は私、もしかして今無能!?」
そりゃ、大規模攻撃しか覚えてないからでしょう。
「先輩は下がっていてください。ここは僕が…」
剣を構え、走り出す。
狙うは…足下や皮膚の先など、致命傷になりにくい場所。
「これでも食らえ!」
飛び立つ直前を狙って斬りかかる。
ドラゴンは、効いたような素振りは見せない。
「まだまだ!」
再び一撃。
「もう一回――」
しかし、ドラゴンは飛んでしまった。
上空から、攻撃する機会を見計らっている。
「ルナも攻撃してよ。僕一人だけ?」
「だって私がやると根絶レベルになっちゃうし――」
攻撃力のインフレが悪い方向に出てしまっている。
「なら、僕一人で…」
諦めた時だった。
「私がいることを忘れていない?」
その声は――セレナから。
「秘書さん戦えたの!?」
驚きの声が上がってしまった。
すると、セレナはそれを舐められたように聞いたのか――
「いいわ。格の違いを見せてあげる」
すると、跳んだ!?
なんて身軽な身のこなし。
手に持っているのは…なんだアレ?
見慣れない武器で迷ってしまう。
それは、真っ黒の太い針のような見た目。
あんな武器、初めて見た。
「貴方に罪は無いけど、私が舐められたままだと困るのよ」
そのまま、ドスッ――
首の後ろ辺りに一撃!
ドラゴンの咆哮が響いた。
そのまま、もう一撃…
「殺しはしないから――安心して眠りなさい」
声も立てず、ドラゴンは倒れた。
セレナは無言で針を抜く。
――いや、怖いんですけど。
なに?あんな動きできたの?
血を拭いている姿も全部が恐ろしい。
「終わったわ。フォローしてくれても良かったのよ」
いや…できませんよ。
「一応聞くけど、生きてるよねこれ?」
「ええ。殺しはしないと言ったでしょう。それより、早く逃げるわよ。この気絶もあくまで一時的なものだから」
そう言って、スタスタと歩きだした。
「あんなに強かったんだあの人。秘書だから戦闘が不向きだと思ってた」
先輩が追いかけながら言う。
「先輩の場合は、もっと使い勝手の良い魔法を覚えておいてくださいよ」
味方まで巻き込む魔法ばっかり。
「何よ。炎華爆発以外にも私覚えてあるからね」
「例えば?」
「空気圧縮とか…」
それ確か、カルナが使った空気で押しつぶす技だったような――
「電雷双奏とか…」
同じくカルナが使った、電気を出す魔法だ。
「…やっぱり、範囲攻撃ばっかりなんですね」
「うるさいわね!何でも良いでしょ!」
先輩が声を荒げた。
「静かに!」
そして、ルナに怒られる。
「まだ近くにいるかもしれないのに、そんな大声出さないでよ」
「いや、この辺りまで来れば多分大丈夫だと思うわ」
やっとか。
「でも、結構珍しいやつだったよ。来てよかったね」
追っかけられるのも思い出か…?
「悪魔のくせに精霊だし、名前の定義どうなってるのよ!」
「悪魔も精霊だからよ。名前より本質が大切なのよ」
「訳わかんない!」
先輩が理解に苦しんでいる間にも、さらに森の奥地に進むのだった…




