#99 世界樹の番人
夜を越え、列車は目的地へ。
「そろそろ着くんじゃない?長かった…」
先輩が伸びのポーズをして言った。
「1日の寝台列車旅も良いものじゃないですか。先輩だって眠ってましたし」
昨夜部屋に帰ってきたら、いつの間にか寝ていたのだ。
「しょうがないでしょ。変に長かったし、秘書さんもどこかに行っちゃってたし…」
そう言えば、ルナはあの後どうしたんだろう。
記憶消しとくとか行ってたけど…
「ゴメン。何故かわかんないけど無理だった」
無理!?ルナが?
「最近、効かない人多くない?」
「なんでだろうね…もともとこうだったのかも?」
頻繁に使うようになったからかも…
「ルナちゃん。私たちには使ってないよね?」
それは恐ろしすぎる。都合の良いことだけ覚えてるだけかも…?
「流石にそんな事しないよ。自分が望む行動だけをする人って何が楽しいのか分かんないもん」
つまり、やろうと思えばできてしまうと。
「私には効かないから意味ありませんけどね」
髪を下ろしていた状態の秘書セレナが余裕たっぷりで言う。
「――悔しい!いつか絶対…」
ルナが悔しさをにじました頃、列車のスピードが落ちた。
「どうやら、着いたみたいね」
外を向いてセレナは言った。
ジャングルを通っていたとは想像もつかないほど、平野を走っている。
「ここが、さっきと同じ忘れられた地…?」
窓から顔を乗り出す。
ところどころ木が生えていて、奥には一本の――
「何だあれ。大樹…?」
すると、ふいに空が暗くなる。
とても、涼しい風が吹いた。
「いつか経験した――あの風…」
翼をはためかせる音。
やっぱり――竜だ。
「すごい…」
感嘆の声も、風の音にかき消されるほど。
「白石君ちょっとどいて!」
先輩に突き飛ばされる。
「先輩、もうちょっとゆっくり――」
その声も、興奮できっと届いていない。
「普段からこのような旅をしていたのです?厄介事に巻き込まれるはずだわ」
セレナが髪をまとめながら言った。
「もっと安定して旅をしたほうが、自分たちのためにもなるわよ」
「それは分かってるけど、ほら…」
向くだけで、分かってくれたようだ。
「貴方も、大変なんですね」
車内を、冷たい風が吹き抜けた。
駅は、ある街の近くにあった。
下車のときは、南だから暑いだろうと思っていたが、以外にも現実は違う。
「想像よりも、涼しい」
そうか、標高が――
「まさか、半ば諦めてたバカンスができるなんて!」
先輩は感極まって、草むらでゴロゴロ回っている。
「ほら、行きますよ。まずは宿を探さないといけませんからね」
とりやえず、近くの街へと移動を開始したのだが…
今まで見てきたところとは、すべてが違う。
地形も、生態系も、町並みも…
「過去の時代を残した街ね。常識すら通用しないかもしれないわね…」
そんなことは流石に――ないはず?
「それより、お金はあるの?」
ルナに言われる。
「そりゃ勿論。だって――」
ポケットに手を突っ込み、財布を出すが…
やけに軽い。
嫌な予感がした。
開けると――ほぼ入っていない。
「な、なんで!?確かに給料は貰ったはず」
他のところも、バッグをひっくり返してまで探したが、結局なかった。
「――どうしよう。このままだと強制送還を食らっちゃうことになる」
「え〜!どうにかしてよ」
「そんなこと言ったってないものは…そうだ、頼るのはアレだけど、秘書さん持ってませんか?」
癪だが、一縷の望みをかける。
「――しょうがないわね。あの"社長"にこき使われる仲間として払ってあげるわ。ここにつれてこようとしたのも私だし」
「ありがとう!神!」
ちょっと心の距離が縮まった気がした。
「さて、ここからどうする?」
「せっかくだし、自由行動でいいんじゃない?夜になったら帰ってくることにしてさ」
「そのほうが効率も良さそうね。私は賛成するわ」
「賛成!」
多数決で確定。
「なら、日が暮れたらここに戻ってくる。解散!」
と、言うことで、この世界に来てから珍しく一人で探索している。
先輩やルナも、今回はついてこなかった。
ルナは"聖霊王"さんのことを知りたいだろうし、先輩はどこかへ遊びに行った。
「僕は、何しようかな…」
あの大樹へ行ってみるか?
これは…大樹と言うより、世界樹だな。
雲を突き抜け、更に向こうへそびえ立っている。
幹もとんでもなく太い。
遠くで見てもすごかったが、近くだと迫力がぜんぜん違う。
「これ、見て回れるのかな?」
一歩足を踏み出す。
すると、縄に引っかかった。
鐘がなる。
「もしかして――」
言い終わる前に、どこからか声が響き渡った。
「世界樹を荒らそうとする不届き者め!この場で成敗してくれる!」
あ、あれは竜人族!?
ミヅハと似たような見た目だが、アレよりもさらにたくましい体つきをしている。
「違うんです!たまたまここに入っちゃっただけで…」
必死に弁明するが、聞き入れてくれない。
「誰がそんな事信じるものか!」
今にも襲いかかってきそうなほどに迫っている。
なにか無実を証明できるモノは…
そうだ!
「ほら、これ見てください。法皇様から授かった刻印です!」
ここもローラスだから通じるはずだ。
そう思ったが、予想は裏切られる。
「ローラスの小娘のどこが信じられたものか!問答無用だ!」
ええっ!
「お願いです。本当にそうなんです!たまたまここに来ただけで――真実を知りに来たんです。ミヅハさんから、ここに行けと言われたんです!」
ミヅハ…
その名前を出した途端、傭兵の態度が変わった。
「ミヅハ様?我等の長の妹君の…」
傭兵の一人が、「誰?」と呟いた。
それに、別の傭兵が反応する。
「口を慎め!ワダツミ様の令妹様だ!」
あら、話を聞く限り…凄いやつだった?
「だから言ったであろう!ワタシはニンゲンより優れた存在だと!」
頭の中でミヅハの声が響いた気がするが、もう気にしない事にした。
「客人様でしたか。申し訳ありません。これから貴殿を、我等の長の所に案内します」
お、いい感じ?
「ワダツミ様の所へと――」




