#98 上位種族
忘れられた地。
それは、太古の生態系を残した地。
地獄の氷河の被害をなんとか免れ、唯一の楽園となった場所でもある。
今ではローラス法皇国の領地内にあり、保護を受けている――
「こういうことだったんだね。忘れられた地って」
車内に置かれていたパンフレットを眺める。
「なになに、様々な上位種族の生き残りが…」
ミヅハも水龍だったし、そういうのがいっぱいいるのか。
「バカンスじゃなくて、ホントの調査になっちゃうね」
ルナは他の本を読みながら、受け入れたように言う。
「ほかにも、ワイバーンとか、フェニクスみたいなのもいるんだって」
先輩が写真を見せる。
「ほら、これ」
指してたのは、火に包まれた羽を持つ鳥。
「――確かに」
誰が見ても納得できる見た目だ。
「後は…精霊とか?」
先輩が何気なく言った。
すると、ドサッと音がなる。
ルナが本を落としたのだ。
「どうしたの…?」
すると、パンフレットをひったくるように獲った。
そして――無言で見つめている。
「先輩。何かあったんでしょうか?」
「わかんない。不思議な子だね…」
僕にも、先輩にも分からない。
「人が不思議な行動をするときは、何か自分に思い当たる節がある時と、狂った時だけよ」
部屋の片隅から声が飛んできた。
「あれ、秘書さん敬語キャラやめたの?」
ホントだ。
「貴方達と親しくなるという任務があるからよ。誤解しないことね」
「任務任務言わないでよ。頭おかしくなりそう」
「そもそも、どんな任務なんですか?わざわざ仲良くならなくても、指揮だけで十分なはずですけど」
もともと"社長"からはそう言われてたからな。
「こっちの事情ってのがあるのよ。貴方達もいずれわかると思うけど」
「…出た。最後まで行ってくれないやつ。親しくなりたいんだったらちゃんと話さないと」
先輩のそれは一理あるが――
「ルナも結局ほとんど教えてくれてないからな…」
ルナはまだパンフレットを凝視していた。
「そう考えると、この人は狂ってる方に入るのかもしれないわね。白石の狂信者と言えなくもないし」
それは否定できないのがまた…
「ま、ルナらしくていいじゃない」
先輩がまとめた。
でも、いつか知りたいんだよ。
「教えてくれないかな…」
そう思っている間にも、列車は森の奥へと突き進んでいく。
山を越え、いくつかの谷を越えた。
「そろそろ着いてもいい頃だと思うけどな…」
「日が暮れてから森の中に放り出されるのも嫌だし、私はこのままでいいかな」
「――でも、することないですよ」
下調べも全て車内で済んでしまった。
「ちょっと景色見てきます」
ふらふらと、何処かへ行く。
到着を待つのみなんだが、やけに遠い。
夜空には月が輝いている。
「綺麗だな――」
その美しさは、つぶやきが漏れてしまうほど。
「こういうのが落ち着いて見えるのっていいよね」
真横にルナが立っていた。
「あ、読み終わったの?」
「うん。ちょっと心当たりがあってね」
「その心当たり――聞いていい?」
すると、ルナは少し考えてから言った。
「そうだね。パートナーならいいよ」
「昔、神格者の中に"聖霊王"がいたんだよね」
「聖霊王…?」
聞き慣れないフレーズ。
「いや、女王が正解かな?それは私もなんだけど――地獄の氷河の発生源を封じたときに、いなくなっちゃった」
「それって…」
「あの人、自分を犠牲にして止めたんだよ。神格者は死なないのに…」
「他の生命を守ったんだね」
「でも、私は――信じれなかった。神格者だもん。そんな簡単に消えると思っていなかったの。だから――探した。それこそ、400年間ずっと」
「400年も!?」
「諦めても良かった。諦めかけた。でも、その時――」
ルナが、始めてこっちを向いた。
「流星の夜で、不思議な剣を持った勇者が現れたって聞いたの。それで、もしかしたら――って」
「それって、もしかして――」
「そう。パートナーのことだよ。もともと、私は剣が目的だったから、特にパートナーのことを意識してなかったんだ。ごめんね」
「ま、そんな気はしてた。いきなりモテはじめるわけないからな…」
でも、ちょっとショックだな。
「それで、持ったときに確信したの。ポラリスだって」
「ポラリス?」
「名前。4番"精霊王"エスピリト=ポラリス。いい人だよ」
「――そんなことが…って、剣の中に入ってるってことだよね?」
「そうだよ」
「なら僕、多分だけど…合ったことある。とんでもない攻撃を仕掛けてきた――」
たしか、淵源彗霊だったっけ。
「ちょっと神秘的で、口数の少ない――」
「そうそう」
「攻撃的で、上から目線の――」
「多分、攻撃力だけなら一番強いんじゃないかな。アレ」
そんなのが、この剣に?
「スキルは、四大霊王だよ。精霊を使って戦うんだ」
ああ、だからルナは"精霊"に反応したのか。
「ガーディアンの真実って、こういうことなのかな…?」
それとも、また別の――
「真実は一つじゃない。真実の反対も真実よ」
「秘書さん!?いつからいたんですか?」
後ろにセレナが立っていた。
「貴重な話をベラベラとありがとう。片隅に入れておくわ」
そう言って、何処かへ行った。
「――後であの人から記憶消しとこうっと」
ルナがぼそっと、恐ろしいことを言ったのだった。




