#97 ローラスとフロンティア
ユラリアの西南側に位置するローラスは、少し日が照っていた。
飛行機から出た途端に、熱風を肌で感じる。
飛行機の足元には――人だかりができていた。
「久しぶりですね!白石様」
タラップ車を降りると、そこには豪華絢爛な法王服をきた女性、カノンが迎えてくれた。
「カノン!わざわざ来てくれなくてもいいのに」
こちらからしたら、予想外の客人。
しかし、それは向こうも同じだったようで…
「ローラスを通過するときは言ってくださいね。いつでもお迎えしますよ」
そんな大層な用事じゃないんだけどな。
「――って、誰から教えてもらったの?」
疑問が口から漏れる。
「利用できるモノはすべて使うのが仕事の理念です」
後ろから聞こえたときは耳を疑った。
「まさか――君が呼んだの?あと、モノって呼ばないでくれ」
モノじゃなくて友人だ。
「すみません。仕事のクセが抜けないもので」
――怖い。
「バカンスなんだから、もっと方の荷下ろしてもいいのにね」
これは先輩に同意。
「いちおう、調査も兼ねてるけどね…」
ルナが付け加えた。
「そうですか。忘れられた地に行くのでしたら、鉄道を使ってくださいね」
あれ、そうなの?
「あの地域は土地柄で飛行機が入れないんですよ」
カノンが説明までしてくれた。
「原生生物の保護を行っているため、大きな音を鳴らす物は入れないんですよね」
一体どんな土地なんだ。
「――ならしょうがないね。ゆっくり行くのも大事」
そうだな…
離れようとしたとき、一つのことを思い出した。
「あ、そういえば」
腕をまくり、あの刻印を出す。
「これのおかげで、とある幽霊を撃退できたんだよね。ありがとう」
どんなのかはカノンには教えないほうが良さそうだ。
「なら良かったです!でも、一体どんな旅をしていたんですか?」
カノンが尋ねてくる。
「いやーちょっとした調査でね」
秘技を使用。"笑ってごまかす"
「そうですか。変なこと聞いてすみませんね。この先もお元気で」
カノンとは、鉄道駅で分かれる。
出会いと分かれが生まれるのも旅だ。
「パートナー、フェイタルと似てるね…」
言う程似てるか?
「めっちゃ似てるよ。旅をやけに楽しむところも…」
「その割には、帰省してないけどね。親への反抗?」
――うるさい。
「わかるよ。思春期だもんね」
先輩がニヤついてる気がするが、気のせいだろう。
車内は貸し切られていて、ちょっとした部屋ぐらいの広さはあった。
「元気にしててよかったね。"支配者になって人が変わった"なんてことにもなってないし」
先輩がくつろぎながら言った。
「でも、カノンも大変だと思うけどな――だって、教団のトップ兼支配者でしょ。私はやだね」
確かにルナなら、向いてなさそうだ。
「ちょっと、変なこと考えなかった?」
「いいや何も」
変わってなかったら、それでいいか。
いきなり人が変わることなんてないんだから。
「――レイズも、そうだったのかな」
いつの間にか心を病んでしまったパターンかも知れないと思ったのだ。
「そんな事ないない。だってあんな真っ黒な心初めて見たもの」
「同じ真っ黒のフェイタルとは違う感じ?」
「うん。フェイタルは"見えない黒"だったんだけど、レイズのは"見える黒"なんだよね」
じゃあ違うパターンなのか。
「でも、一体どうやったらあそこまで染まるんだろうね」
それは不思議だ。
「本人に聞いたらわかるんだけど、話してくれなさそうだからなー」
上を見上げる。
車内はそこまで暑くもなく、丁度涼しいぐらいの気温に保たれていた。
そして、セレナはさっきから何か書いている。
「ソレ、なんですか?」
試しに尋ねてみた。
「レイズの情報を整理していました。いつか私が対応することになるかもしれません」
意味が深い、"対応"
「あ、このことは口外しないでくださいね。私が減給処分を食らってしまいます」
社会人になったら僕もこんなのになってしまうのか?
「働くのは楽しくも苦痛でもあります。あの人の下だと特にそういうものです」
そして、"社長"の愚痴を言い続けていた。
「――この人も大変なんだね」
大人って生きづらそう――
「子どものままでいたいもんね。わかるよその気持ち」
子供姿のルナが言っても説得力はない。
「言っとくけど、神格者にだって仕事はあるんだからね!」
「え、そうなの?」
「そうだよ。例えば世界を覗いたり」
ソレ、自宅警備員の言い分では?
「パワーバランスが崩れないように会議とかもするんだから」
神格者自体がハズレ値――なんてのは言えない。
「あと、能力決めたりもするし――」
要は、管理職モドキと。
「だったら、神格者の異様に強い能力だけどうにかならないの?」
万力統一やら星巡記憶やら不死凋霊。
「それは無理。そういうものだもん。神格者だって世界を変えるほどの力は持ってないよ」
そうなのか。てっきり世界の権威そのものだと思っていた。
「今まで10番以降いなかったから全員揃ったのは始めてだよ」
となると、最後はだいぶ急スピードでカウントが進んで――
「――妙に早くない?」
先輩が言った通りだ。
「今まで長く生まれてこなかったって事。でも、最後は1ヶ月ぐらいしか経ってない」
違和感…というか、"何か"が起きた?
「でも、その人達が私たちの仲間じゃない。変に動かし過ぎちゃったんじゃない?」
先輩が言ったが、そういうことかな…?
「それより、もうすぐ国境じゃない?」
ルナが話題を切り替える。
窓を見ると、景色は大きく変わっていた。
田園風景から森林へ。
「なんか、未開拓地って感じ…」
だから、忘れられた地?
森の中を、鉄道は突き進んでいく。
ちょっと待てよ。ローラスのさらに南が忘れられた地ってことは…
行く所間違えた!
「バカンスは次の機会だね」
調査に専念するか――と、肩を落とすのだった




