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#96 忘れられた地

デートから少し時間がたった。

今日も今日とて暑い日を送っている。

電気代なんて知ったことか。この至福の時間を――

「で、結局話はどうするのよ」

なぜか今日も先輩は僕の家にいる。

「なんで今日もいるんですか。自分の家にいてくださいよ」

「まるで、"私がいるのが嫌"みたいな言い方するじゃない」

――ここまでの電車代だってバカにならないのに、なんで毎日毎日来るんだ。

なんだか、夏休み中ずっと顔を合わせている気がする。

「先輩。せめてバイトぐらいしたらどうですか」

フェイタルはしっかり払ってくれましたよ。シフリスの分まで。

「嫌よ。自由にあの世界にいけなくなるじゃない」

だからといって、僕の家に居座り続けるのは止めてほしい。

「自由に入りたいから合鍵くれない?」なんて言い出したときもあった。

シフリスに先輩の家にもゲート作ってもらおう。

「それより、白石君のタイトルすら決まっていない小説はどうするのって話」

なんとも耳が痛い話だ。

「内容自体は私小説ですから簡単なんですけどね。タイトルが――」

見合ったタイトルが思い浮かばないのだ。

「異世界っぽさも大切にしたいし、でも泥臭い感じも…」

大切なんだよな。

遠くで鳥が鳴いた。

「――どこか行きたいな」

白石は考えることを止めた。

せめて、鳥のように宿題の追われることもない場所へ。

「デートしたでしょ。あれじゃ足りないっていうの?」

「バカンスとは言えないじゃないですか。もっと涼しいところで、人がいないところ…」

近場だと日光、それとも軽井沢?

「夏休みに、そんな都合のいい場所あると思う?家が一番適してるよ」

なら早く帰ってください。

「でも、そうですよね…」

そんなところ…

そのとき、頭の中に閃きが走る。

「そうだ!あっちの世界なら…」

善は急げ。荷物をまとめる。

「そういうことか白石君。頭いい!」

この世界より人口少ない上に、秋になっているなら…

「エアコンも電気も切りました。行きましょう!」

再び、あの世界へと誘われる時だ。


同じ頃、ギルド、社長室にて。

「本日の成果です」

秘書セレナが出したのは、たった1枚のレポート。

しかし、"社長"を喜ばすには十分だった。

「ご苦労。よくやってくれたね」

「光栄です」

書かれていたことは、その二人以外は知る由もない。

「つくづく邪魔をしていたから、ちょうどいい時期を探っていたのだよ」

「私にかかれば楽勝でした。もう少し早めても良かったのでは?」

もっと早くしたかった――と、セレナは不満げな表情を浮かべる。

「成熟してから行動を起こさないと、世間からどんな反応を食らうかは分からない。万全な時期に行動するほうが、コストも安くなるからな」

その目は、白石達と合うときとは違う、経営者の目をしていた。

「で、白石達とは仲良くなれたかね?」

メインの任務に話を切り出す。

「…どうも私は子供が苦手な故、対処に追われています」

それを聞いて、"社長"はため息を付いた。

「まだまだ青いね。一流たるもの人と触れ合うスキルがないと」

「お言葉ですが、あの子達は私が扱うものでは…」

セレナが不服そうに言い返す。

しかし、"社長"は分かっていた。

「高校生を子どもとして扱うかはさておき、相手も一人の人間なんだ。君がいつもやってくれているような行動ではきっと馴染めないだろう」

「――そうですか」

セレナは折れた。

「まあ、時間はまだまだある。()()()()()()じっくりと信頼関係を築いてくれたら問題はないさ。――例えば、休暇でも使って、どこか一緒に行ってみてはどうだ?」

セレナが、後ろに引き下がる。

物理的に。

「なんだ。そこまで嫌か?」

"社長"が聞いた。

「勿論です。数少ない休暇にまで任務を持ち込むなんて言語道断ですよ」

非常に嫌そうなのが声ににじみ出ていた。

「しかし、運命はそれを望んだようだぞ」

情報確認(パラメーターチェック)が反応を告げる。

丁度そのタイミングで、白石がやってきたのだ。

「――なんて都合の良い事。貴方の采配じゃないですよね?」

「もちろん。私ができることなんてもっとちっぽけなことだ」

「…ならいいですけど。ボーナス入りますか?」

「それは君の活躍次第だ。白石達には運命が纏わりついている。行った先で事件に巻き込まれるなんて日常茶飯時だからな」

セレナは再び難色を示した顔をするのだった。


「と、言うわけで――」

セレナは軽く手を叩いた。

「今からどこかに行きましょう」

いや、どこか行きましょうって…

いつの間にか呼び出されていたルナもこの顔。

「どこかいい場所はあるの?」

先輩が聞く。

「それは貴方たちにおまかせします。私は仕事しかしてこなかったので」

――第1印象は、面白みのなさそうな社畜秘書。

"今回のも任務だ"って言われたら、楽しむ気なくすよな…

「でも、そういえば"何処かに行け"って誰かから言われてたよね。ねえルナちゃん」

こういうときに便利な星巡記憶(エターニティメモリー)

「私をメモ帳扱いしないでよね」

そうは言いつつも、しっかり掘り起こしてくれる。

「確か…忘れられた地(フロンティア)だったよね?」

そうだった。

ガーディアン達が、真実があるから――って言ってたんだった。

「じゃあ、そこにする?」

涼しければどこでもいいよ。

「フロンティアですか。私…任務でも行ったことありませんね」

「…任務って何なの?」

いよいよ怪しい。

「秘密です。フロンティアへはローラスを通る必要があります。空港へ向かいましょう」

その言葉には、少し違和感を覚えた。

「前はなかったよね。就航したの?」

「国交正常化記念だそうです。私のところももっと…言い過ぎました。今のは聞かなかったことにしてください」

――この人、なにやら不穏だ。

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