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幕間 勇者の休日 後編

『まもなく、二番線に各駅停車中野行きが参ります。黄色い点字ブロックの内側でお待ちください』

スピーカーがアナウンスを告げる。

水色のラインが入った車体がホームに入線しているのだ。

「来たよ白石君。何してるのよ!」

内側にいる先輩は焦っていた。

それは、僕も同じことだが…

「券売機を使う機会が滅多にないんですよ。最近は定期とICカードでしたから」

えーと、3人分で――ルナは子どもか?

それとも高齢者割引使えるのかな…?

「別格レベルのシニアだけど、いくらなんでも怪しいでしょ」

そりゃそうか。

「はいこれ。フェイタルたちの分も」

切符を三枚手渡す。

「どうも。支払いは銀行から送金――」

フェイタルの丁寧さよりも、今は間に合わせることだけを優先しなければならない。

「その話は後で。今は走るよ!」

無常にも、時間はどんどん過ぎていく。

『まもなく発射します。扉にご注意ください』

目前にして、車掌が指差し確認をしていた。

「すみません!乗りまーす!」

結果、無事に駆け込み乗車をすることになったのだった。

そして後々になって気がつく。

次の電車を待てばよかったな…


移り変わる景色も、荒川を越えたら地下区間へ。

「先輩、どこかアテはあるんですか?」

電車内なので小声で話す。

「それを考えるのは白石くんの仕事でしょ」

「先輩が勝手につれてきてるのに?」

「白石君が決めたほうがルナちゃん喜ぶと思うけどなー」

そう言われると、そんな気が――

「でも、僕今までデートやったことないんですよ。いきなり決めろって言われても…」

自分で言っていて、情けなくなる。

「――そっか…ならAIにでも聞いたら?」

なんでそんなぶっきらぼうなんですか。

それ以降、先輩は何も話してくれなくなった。

仕方ないし頼ってみるか。


茅場町⇒人形町、水天宮前⇒押上

乗り越し精算に戸惑ったこと以外は大きなトラブルもなかった。

そして、この場所は都内に詳しい人――いや、日本国民なら誰しも知っているシンボルがある。

()()世界一の高さの電波塔だ。

AIによると『吊り橋効果がお互いの距離を近くする――』とのこと。

僕自身も入ったことはなかったので、お互い知らない状況。

「この世界にもこれほど高い建造物があったとは、驚きです」

シフリスからの反応も上々。

頼って正解だった。

勿論、受付でだいぶお金は取られるんだけど。

1600×5で8000円。

結構痛い――

そう思っていたら、受付の人が「高校生四人と小学生一人ですね。7400円になります」ってことを言った。

そうか、知らない人から見たらルナは小学生か。

それでも600円しか変わらないけど。

「すまない。今は持ち合わせていないので口座番号等々を後で教えてくれ。私とシフリスの分はまとめて振り込んでおく」

それだけでも、ありがたいよ…

「入ろうよーー」

ルナに連れられ、中に入る。

端から見れば――カップルと言うより、兄妹のように見えた。


だいたい50秒ぐらい、虚無の時間とも言えるエレベーター待機時間が待っている。

夏休み中というのもあって、中は結構混んでいた。

ちなみに、今回買ったのは2つある展望台のうちの一つ…低い方だけを買った。

先輩には睨まれたが、バイトしていない僕にとっては散財待ったなし。

ちょっとだけでも浮かせたいのだ。

「もっと一気にドーンと使わないと向いてくれないよ?」

「じゃあ先輩の分は自分で払ってくださいよ」

「え、やだ」

これだから…

それに、親睦を深めるのが目的。

ルナはもう既に向いてるから…

いや、最高の体験をさせてあげたほうが良かったか?

葛藤が頭を悩ませる。

そして、悩んでるうちに展望台に着いた。

エレベーターのドアが開く。

そして見た景色は――

「おー高い」

まるで子どものような感想が出てしまった。

それもそのはず。今まで下から見上げた建物が上から見下ろす感じ。

「高いところっていいよねー」

そうそう――って、まるで見たことあるような言い方が引っかかった。

「――来たことある?」

恐る恐る聞いてみる。

「ううん。でも高いところはほら…飛んで見れるんだよね」

ああ大失態。

翼を持ってるヒトを高いところに持っていって、ドキドキするわけないよな。

まさに、鳥が高所恐怖症のようなモノ…

AIも異世界人には対応していなかった。

ええい。次だ!


11時を回った頃、同じく押上の隅田川近くの水族館。

AIに出されたときは"水族館ってもっと海沿いにあるイメージが強いけど、こんなところにも"と驚かされた。

予想外のルートを出すのがAIのいいところ。

流石にこの世界の生き物は知らないだろう。

「水族館か…最後に行ったのはいつだろうな」

フェイタルも久しぶりってことは…

勝ったな!

無論、2000×4と1400円がのしかかるわけだが…

そして、例に漏れずここも混んでいる。

まあ、大型ではない分、簡単に回れるだろう。


…一通り巡り、ペンギンにクラゲまで全てを余すところなく見た頃…

「いやー楽しかったよ。私の記憶にないものばかり。ありがとね」

ルナは笑顔で言ったが、なにか違うなと思ってしまった。

これは"僕といるから"ではなく"まだ見ぬものを見れたから"では?

いや、それをやったのは僕自身だから…

すると、悩ましい顔をしていたのかフェイタルが言った。

「相手ってのは、当人の感情を読んで行動するんだ。そんな顔してたら出来るモノも出来なくなる」

その言葉には、なんとなく響く何かがあった。

「――昼ごはんにしようか。この辺りの…」

流石にファミレスかな。

いっそ高級フレンチ――とでも思ったが、服装の時点で門前払いを食らう自信がある。

無難な方がいいだろう。

またもや睨んでくる先輩は放っておくことにした。


さほど離れていないファミレスにて――

今いるのは、全国でチェーンを展開しているあのお店だ。

勿論、僕は楽しい断食ライフ。

ドリンクバーオンリーだ。

ちょうど先輩がフェイタル、シフリスといっしょに取りに行っている。

「白石君の分も取ってきてあげる」と、悪い予感しかない言葉を残して。

でも、少しでも節約――

「パートナー、楽しんでる?」

「え?」

いきなり、ルナからそんなことを言われてしまった。

「私が振り回してばっかりだったから、もしかしたら――楽しめてないんじゃないかって思ったの」

「…そんなことないよ。全然楽しんでるよ」

明るく繕う。

心の内では、星巡記憶(エターニティメモリー)があるからそんな事意味ないのに――と思いつつも。

「――ならいいけど」

それ以降、そのことには言及しなくなった。

…気まずい。

救いを求めて通路を見ると、ちょうど先輩達が帰ってきていた。

「なんですかそれ?」

――とんでもない色のジュースを持ちながら。

いや、ジュースと呼んでいいのかもわからないシロモノ。

「いつものお返し(しかえし)にね」

フェイタルが済まなそうな顔をして言う。

「私は止めたんだが、どうしてもと言って聞かなかったんだ。すまない」

フェイタルが謝ることないのに――

「せっかく注いできてあげたんだからね」

絶対イヤガラセだろう。

「パートナーこれ飲むの…?」

見ろ!ルナまで引いちゃってるじゃないか。

体調管理(コンディション)あるから大丈夫だって!」

先輩こそそう言うが、とんでもないぞこれ――

「ほら、一気に行っちゃって!」

パワハラだー!と思いながら、一気に飲み込む。

その瞬間、なんとも言えない不快な感覚が舌を襲った。

レモンの酸っぱさに炭酸の感覚、優雅なはずの紅茶ももはや毒と化している。

中和剤になることを期待した乳清飲料も意味をなさず、見事なまでに不味い!

「長々と食レポありがとね」

先輩も飲んだらいいのに。

「そんなことより、次の場所決めてるの?」

「それなんだけど…」

実は想像以上にお金を使っているので、下手をすれば帰れなくなる可能性があるのだ。

「――なら近く」

マップを見ていたら…いい場所があるじゃないか。

葛西の臨海公園。

家からすぐ近くだ。

そうと決まれば早速行こう。


浅草⇒銀座⇒八丁堀⇒葛西臨海公園駅

ついたときには2時をまわっていた。

行きを逆走しても良かったが、そうなると西葛西から結構歩くことになる。

これが僕なりの優しさ。

体調管理(コンディション)あるから疲れないんだけど…」

不発!

完全に忘れていた。

「電車代も、私のスキルである程度は軽減できますが…」

ああシフリスまで。

どうしてこんな目に。

「そんな気持ちも、この海と比べたらちっぽけなことじゃない」

電車代以外出してない先輩には分からないでしょうね!

…というか、今日の先輩なんかツンケンなような――

「ねえねえ、何アレ?」

ルナが指したのは観覧車。

説明しようとして、言葉に詰まる。

…なんて言ったらいいんだ。

「ゴンドラに乗って景色を見るアトラクションだ」

見かねたフェイタルが代わりに言った。

「でも、それだけだから特に何も――」

あの高さで驚かなかったルナが、これだけで――

そう思っていた。

「乗りたい!」

…なんで?


800×4()、3200円。

久しぶりに乗る観覧車は、いつもより遅く感じた。

先輩も一緒に来てくれたらいいのに。

そして、フェイタルとシフリスは別のゴンドラに乗っている。

つまり――ルナと僕の二人だけなのだ。

そう考えると急に変な感じになった。

よくよく考えると、今まで二人きりになったことは少ない。

今が…正念場!

でも、なんて話せばいいか分からない。

これだからモテなかったのかも。

「景色、綺麗だね」

「うん…」

――話が続かない。

皮肉にも、心の叫びだけは後を絶えなかった。

そんなとき、今度はルナが話してきた。

「どうしてだろうね。普段見てた景色も変わって見えるのは」

ルナは、窓の外だけを見ている。

「――それは、多分だけど…僕が一緒にいるからじゃないかな」

心は赤面。

しかし、勇気を出して正解だったようだ。

ルナは景色を見るのを止めた。

正面で向き合う。

…特にそういう関係でもないはずなのに、不思議と緊張が起きた。

静寂を打ち破ったのもルナだった。

「さっきも言ったけど、今日はありがとうね。楽しかったよ」

言うのは…今しかない。

「僕も楽しかったよ。普段見れないところも見えたし、それに――確認もできたし」

「確認?なんの?」

「その――今でも、僕のことが好きかどうかって話」

ルナは少し笑った。

「なにそれ。今でも好きだけど…」

「…怖かったんだ。いつか忘れられるんじゃないかって思うと、本当に胸が苦しくなるんだ」

心の中から漏れ出た不安。

「きっとルナよりも…僕のほうが先に消える。その時、僕のことを覚えてくれるか怖くなったんだ」

こんなこと言ったって、何も変わらないのに。

「…」

少しだけ、長い時間口を閉じてしまった。

「そんなわけないよ。いまでも、これからも私の大切な記憶――いや、人だもの」

聞こえたときには、もう最後。

涙の雫が落ち続けるだけだった。

「ちょっとパートナーどうしたの!?」

観覧車よ。もう少しゆっくり回ってくれ。

今だけは――

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