幕間 勇者の休日 前編
epが100を突破しました!まだまだ続く白石たちの物語をお楽しみあれ!
『今日も都心は猛暑日になる地点がありそうです。熱中症対策をして過ごしましょう。来週からは少し涼しい日が出てくるかもしれません。今日の降水確率は――』
テレビを聞き流しながら、小説を書く。
家のエアコンは、今日も全開。
外では、うるさいほどにセミが鳴いていた。
――8月、どの学校も夏休みに入っている。
海や山、夏祭り、プール――
頭の中を右から左へ通り過ぎていく。
想像はつくのに全く、それらしいことをしていない。
「まあ、ずっと異世界にいたからね」
向かい合って小説を書いていた先輩にそんなことを言われてしまい、ぐうの音も出ないが――
せっかく高校生になったのに、青春のセの字もない日常ばかり。
「せめて高校生らしい夏を体験したい!」
「異世界に行ける高校生って青春じゃないかな?」
違う。特別なことじゃなくてもいい。普通の青春を過ごしたいだけなんだよ。
「それに、白石君には彼女がいるじゃない。ルナちゃんが」
――なんか違うんだよな。
僕が思ってた青春ってこう、もっと苦労するというか…
「青春で苦労しない勝ち組ウハウハハーレムもそう体験できないよ」
皆はそうかも知れないけど――
「白石君の話を聞いてると、今までモテてなかったらしいじゃない。素直に喜んだらいいのに」
言葉のナイフがグサグサと心に刺さっていく。
「結婚まで確定してるヒロインほど男が憧れるものはないし、この短い時間を大切にしなよ」
その時、書く手が止まった。
――このままでいいのか?
気付けば、ココノの言葉が頭で響いていた。
"神格者の長い寿命からすれば、この事など一瞬の時間じゃ"
いつか…忘れられるんじゃないか?
星巡記憶があるから記憶は失われない…という話ではない。
いつのまにか…寿命を迎えたとき、ルナの心から僕のことが消えてしまうのでは?
――そもそも、死んだらどうなる?
流石に、また生き返ることは――
「ほら、手が止まってる。まだ終わってないんでしょ」
先輩に尻を叩かれる。
慌てて向き合うも、言葉が浮かばなかった。
手が止まる。
それを見かねた先輩は言った。
「手が止まるなら、仕方ないね」
すると、おもむろに立ち上がり、部屋から出る。
「先輩、何処へ行くんですか…?」
「ちょっと待ってて」
それだけ残して、二階へ行った。
ちょっと待てよ?
「――僕の部屋に勝手に入らないでください!」
多分、聞こえていないだろう…
白石は、小さくため息を付いた。
――そのころ、此花はというと…
ゲートを通り、異世界へと向かっていた。
勿論、目的はミリア=ルナである。
「白石君も、恋愛に関しては三流だよね…」
少しボヤく。
「ルナちゃんをもっと大事にしてあげなよ。このままだといつフラれても文句言えないよ」
此花調べ、"フラれる理由"
・つまらないから
・飽きたから
一見薄情にも身勝手にも見えるが、恋愛の相手は非現実を望んでいるのがほとんど。
普通の生活に満足するはずがない。
最も非現実的なドキドキを味わえる行動――つまり、デートさせようという魂胆である。
長寿博識ルナちゃんが知らないもの、つまりはこっちの世界の事。
「水族館とか連れて行ったら喜ぶと思うけどな――」
少し、羨ましいと思ってしまったのは秘密。
私は、あくまで傍観者として――
光が見える。
異世界の扉が、また開いたのだ。
そして、たどり着いて思う。
――どこに言ったらいいんだっけ?
とりやえずギルドで"社長"に…
その時、白いドレスで胸のある美人――シフリスとすれ違った。
「此花様ですか。お久しぶりです」
彼女は恭しく頭を下げる。
「シフリス、ルナの場所知らない?」
「ルナ様ですか…確かフェイタル様と一緒にいたはずです」
「黒幕と?なんで!?」
まさか浮気――
「ちょうど、ルナ様に叱られています」
ああ良かった。いつも通りだ。
「良ければ…案内しましょうか?」
「勿論、お願い」
安心して、二人のところへ向かうのだった。
「入りますよ――」
跨いだ瞬間に、ルナの声が響いた。
「だから!もっとマトモな事できないの!?」
――どういう事?
「フェイタル様が手に入れたスキル:伝操統術の訓練だそうですが…」
なんとなく、想像がついた。
「まあ、簡単に懐柔されるわけないもんね」
「そのとおりです」
呆れ返ったようにシフリスも言う。
「フェイタル様がアレなのもありますが、ルナ様が乱暴なのも中々目に余ります。どうにかなりませんかね――」
その言葉をかき消すように、フェイタルの言葉が響く。
「そもそも、私は貴様に頼った覚えはない!スキルの修練ぐらい一人でできる!」
――修羅場だ。
頑固な男と女は混ぜるなキケン。
このままだと、いつ喧嘩を起こしてもおかしくない。
「このせいで、フェイタル様と一緒に過ごせないんです。私が無理矢理スキルで追い出すことも出来ますが――」
「相手は神格者、その上あのルナだからねー」
まあ、ラブラブな二人の邪魔を取り除くのも私の――
そうだ!この二人も一緒にデートさせよう。
お互いに結ばれてるから、大した事故も起きないだろうし…
「てなわけで、デートしない?」
「私と此花様でですか?ちょっと…」
「違う違う。"黒幕と一緒に行ったら"って話」
てか、今ちょっと…って言ってなかった?
「――まあ、フェイタル様を救うことには繋がりそうですね」
ちらっとフェイタルの方を向いた。
「もっと現実的な攻撃にならないの?これだから――」
今度はルナが攻めている。
――というか、ルナちゃんって相性悪い人多すぎでは?
白石君が特異なのかも…?
「ほら、行くよ!」
そして、白石はというと…
「――先輩って、どんな話書いてるんだろう」
突拍子もない考えだが、知的好奇心に駆られる要因になった。
「誰も見てないし…」
なにか自分の小説で参考になるかもしれないと思い、覗く。
「…シリウス?」
そこには、"シリウスと星降りの伝承"と書かれていた。
ぱっと見て思う。
…恋愛系っぽくないタイトル。
ファンタジーよりの話なのかな?
中身は…
「こらー!勝手に覗くな!」
真後ろから怒号が響く。
「先輩!?いつの間に帰ってきて…?」
気がつけば、そこに先輩がいた。
「他人の書いてる話勝手に覗くなんて最低だからね!」
――自分は他人の部屋に勝手に入っておいて…なんて言えない。
「だって、面白そうでしたから…」
そこで、褒める作戦に出る。
機嫌が治るか――
「そう?なら完成するまで待つことね」
…半殺しにされた感じがする。
「やっほーパートナー。来たよ」
後ろから、ルナが現れた。
「ルナ!?なんでここに…」
「私が呼んだのよ。彼女たちと一緒にね」
さらに、シフリスとフェイタルまで出てきた。
「…何しに来たの?」
「簡単よ。今からデートしてもらうだけ」
デ、デート!?
『今日も元気に行きましょう。行ってらっしゃい!』
テレビが1日の始まりを告げる。
その瞬間から――普通などない青春が始まった。




