11 幼なじみは介護士
「早く出してよ」
「そ、そうはいっても、なぁ」
俺はいま、ベッドの縁に下半身丸出しで座っていた。目の前には尿瓶を持った幼なじみがいる。ワーウルフキングとの戦闘で俺の両足が骨折してから毎日この状況だ。
「もう、ひと月近く同じことしてるのにまだ緊張して出ないなんて言うつもり?」
「お、男は繊細なんだよ!」
好きな女の子にあそこを見られながら小便をするという羞恥プレイを耐えていた俺だが別のことにも耐えていた。それは立たせないということだ。
「それにしても本当に成長しないのね、昔見たときとあまり変わってないじゃない」
「お、男は繊細なんだょ…」
中学生の頃、両手を骨折した俺をいまのように涼子が介護してくれた。その時もいまも俺は根性で立たないように耐えた。だから涼子は知らないのだろう、本当の漢は立ってからだということを。
「ジョボジョボジョボ」
「はい、よくできました」
本当の介護士みたいな口調で涼子は尿瓶を持って部屋から出ていった。俺はズボンを履くとベッドに寝そべり、泣いた。
「どうしたの?足痛いの?」
帰ってきた涼子が俺に聞く。
「心が痛い」
「なにそれ、ああ、さっきの気にしてるの?悪かったわよ、なにしてほしい?今ならなんでもしてあげるわよ?」
「…膝枕」
俺は頭の中で十八禁を目まぐるしく思考したが、結局、日和った。俺は繊細なんだよ。
「はいはい、ほら、おいで」
涼子が両手を広げて膝に迎えてくれる。頭を膝に乗せ、涼子の顔を見上げた。涼子が笑ってくれる、その時間がなによりも幸せだった。
だが、幸せの時間は永くは続かないものだ。俺は意を決し、自分の身体をうつ伏せにするべく動いた。動いてる途中、俺の意図を察した涼子と目が合う。
「…いいわよ」
涼子の肯定の言葉に歓喜して、俺は膝枕の上でうつ伏せになる。そして、念願の息を吸う。至福の匂いがした。
「なんで、スカートの匂いなんか嗅ぎたいのかしらね」
スカートの匂いを嗅ぎたいんじゃない、膝枕をうつ伏せになり匂いを嗅ぐ、その行為が男のロマンなんだよ。そうして、俺のささやかで幸せな時間が過ぎていった。
翌日も涼子に膝枕をしてもらいながら俺は何気なくステータス画面を見ていた。
ん?片思いの能力がレベル二になってる?試しに寝ながら両手を前に出しライトニングソードを出してみた。
「へ〜二つ同時に出せるようになったのね」
俺の両手から出たライトニングソードを見た涼子が言う。
「そうみたいだ片思いの能力がレベル二になってた。長さも少しだけ伸びたみたいだな」
涼子のライトニングソードと比べるとまだまだ短いが果物ナイフから普通のナイフくらいには伸びた。
「能力は伸びるのにね」
「…なにが言いたいんだ?」
「別になんでもないわよ、それより見て、わたしも二つ出せるようになったわよ」
自分のステータス画面を見ていた涼子が画面を閉じると両手からライトニングソードを二つ出した。前よりも…。
「わぁ、太く、長く、なったわね…」
「…なにか含みがないか?」
「ないわよ、細かく気にしすぎよ?男でしょ?」
…男だから気にするんだがな。
そんな、片思いの幼なじみとひと月以上過ごしていたが、その間、村では相当な変化があった。まず、村は今回のワーウルフキング討伐報酬で町に格上げされていた。その対応に両足を骨折している俺のかわりにミオンとリオンがあたってくれていた。
「申し訳ありません、忙しくてお見舞いにも来れなくて」
ミオンが部屋に入るなり頭を下げてくる。今日も今日とて膝枕中の俺は返事した。
「いや、気にしなくていい、それより大変そうだな」
「大変なんてもんじゃないです!ワーウルフキングの魔石を見るために各地の猫人族が毎日押し寄せてくるんですよ〜」
リオンが泣き崩れながら叫ぶ。
「そんなに凄いのかあの魔石は?」
「はい、なにせ、世界に一つしかありませんから、魔王や竜の魔石ですら世界には複数存在します、魔王も竜も倒されればまた新たに復活しますから、ワーウルフキングは過去に討伐されたことのない相手です、ですから世界初で世界に一つなのです、希少価値は魔王の魔石を上回ります」
そうなのか、ミオンの言葉に俺はワーウルフキングとの死闘が蘇る。たしかに、勝てたのは運だしな。
「それに、ワーウルフは猫人族の天敵です、そのキングを倒したことで、恋次様は猫人族の英雄になりました」
「それにしても、よく、倒せたよね、わたし、理由わからなかったもん、自分のディメンションホールからイキナリ光が出たと思ったらワーウルフキングが倒れたから、あれ、狙ってたの?」
リオンの質問にその場にいる全員の視線が向けられる。
「いや、運だな、だって、リオンのディメンションホールにライトニングソードは入れたが本当に入ってるかは俺にはわからないし、俺のスターゲイザーに反応してくれるかもわからなかったし、もし、スターゲイザーで発射されてもアイツに当たるかもわからなかったしな、全部、運だ」
「…あんた、倒すときに、お前の敗因は俺がいたからだとかなんとか言ってなかった?」
「あれはカッコつけたかっただけだ」
その場にいる全員のなんとも言えない視線を感じながら俺は外を眺める。今日も良い天気だな。




