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10 ワーウルフキング

「恋次様、お出かけしませんか?」


 ミオンが寝室のベッドでくつろいでいる俺に話しかけてきた。

 

「お出かけ!行きたい!お姉様!」


 俺の太腿の上に頭を乗せ、髪の毛を撫でられていたリオンが元気に答える。


「いいわね、今日は天気も良いし」


 涼子も賛同する。


「そうだな、行くか、みんなで」

「それでは、行きましょう、場所はちょっと遠いですが」

 

 その場所は遠かった、まさか数時間も歩くことになるとは思ってなく、涼子も疲れていた。猫人族の二人は軽やかに飛び跳ねて遊んでいたが。猫人族のちょっと遠いはこれから信じないことにする。


「涼子、大丈夫か?おぶろうか?」

「良い?さすがに疲れちゃった、デスクワークばかりしてたから身体がなまったみたい」


 涼子に村の全てを任せてた身としては耳が痛いな。


「ほれ、乗ってくれ」


 俺が涼子の前に座ると涼子が俺の背中に身体を預けてきた。中学生以来か、涼子をおぶるのは、背中に成長した証を感じるな。お尻も昔より広がっ…。


「…おぶっている女の子のお尻の考察したら嫌われることくらい…わかってるわよね?」

「わ、わかってるさ、お、俺は体重のことを考えてたんだ」


 …幼なじみってここまで心が読めるのか?


「…おぶっている女の子の体重を考察したら殺されても仕方ないことくらいわかってて言ってるのよね?」


 いつの間にかライトニングソードが俺の首筋で光っていた。


「そ、そうだ、気になっていたんだが、このライトニングソード俺も出せるじゃないか?俺が出したライトニングソードは俺に無害だが、涼子が出したライトニングソードも涼子には無害だろ?実験で涼子のライトニングソードで俺の髪の毛数本当ててみてくれないか?」

「恋次、ハゲになりたいの?」

「…数本だぞ?!」

「ふふふ、わかったわよ」


 涼子が数本俺の髪の毛を掴みライトニングソードを当てた。結果、無害だった。俺と涼子のライトニングソードは共有の効果みたいだ。


「やっぱり無害か、そうじゃないかと思っていたが確かめられて良かった、これでリオンの能力にもあれができるかもしれないな」

「あれって?」


 耳元に涼子の吐息を感じて懐かしくなる、昔の涼子とはいつもこのくらいの距離で会話してたもんな。高校に上がってから徐々に遠くなったが。


「必殺技だよ」


 俺も昔みたいに首をひねり涼子の耳元に口を近づけ囁くように言った。涼子は驚いて片手で耳元を押さえる。そして、残ったライトニングソード持った手で俺の頭をポンポン叩いてきた。ハゲにならないのはわかっていても少し恐怖する。


 目的地に到着したのはさらに数時間後だった。朝早く出発したがもう昼を過ぎたあたりだろう。あたり一面草原が広がる広場に俺達は荷物を置いた。


「お出かけにぴったりの広場だな」

「そうね、空気も美味しいし、来て良かった」

「ありがとうございます、ここは猫人族にとって大事な広場なんです」

「ミオン姉様〜ごはん〜」

「あ、はいはい、今、用意するわね」


 ミオンが食事の用意をしているあいだに俺はさっき思いついたことを試そうとリオンに話しかける。


「リオン、ディメンションホールを出してくれないか?」

「はい、ディメンションホール!」


 なんの疑いもなくリオンが黒い穴を自分の目の前に出す。改めてリオンのディメンションホールを見たが俺のよりもでかいな、人も入れられそうだ。


「ありがと、じゃ、ちょっと、手を入れるな」

「え?」


 驚くリオンを横目に俺はリオンのディメンションホールに手を差し入れた。そして、いつも自分のディメンションホールにしている、あること、をした。


「よし、できた!これで…」

「ウオオオオオオオオッ!」


 リオンのディメンションホールから手を出した次の瞬間、天地を裂くかのような雄叫びが草原に広がった。


「な、なんだ?」


 俺達は雄叫びがしたほうに目を向けると、背丈が三メートルはありそうな狼の頭をした化け物が立っていた。


「そ、そんな、あ、あれは、ワーウルフキング!い、いますぐ、に、逃げない、と」


 ミオンの言葉が言い終わらないうちにワーウルフキングの姿が消えた。


「ミオン!リオンを!…フラッシュレッグ!」


 俺の指示を聞いたミオンがリオンを抱えて飛び去る。俺は涼子を抱えてフラッシュレッグを使ったが遅かった。


「ドゴーン!」


 先ほどまで俺達がいた場所の地面がえぐれて無くなった。ワーウルフキングが地面をパンチで殴ったからだ。


「恋次!足が!」


 なんとか、涼子を抱えてフラッシュレッグで逃げたが間に合わなかった。俺の両足はあらぬほうに曲がっていた。フラッシュレッグは自身のスピードを上げてくれるが元がただの男子高生だから仕方ない。それでも、涼子を助けられて良かった。痛みで気を失いそうになりながらそんな事を思っていたら。


「…あたしの、恋次になにしてんのよ!」


 涼子がワーウルフキングに向かって吠えた。わたしの恋次か、昔、イジメっ子から俺を守ってくれてたときよく言ってたな。ひさびさに聞けて緊迫してる状況だけど感慨深くなる。


「…ライトニングソード…最大出力!死になさい!」


 涼子かライトニングソードを振った。光の束が辺り一面に振り注ぐ。光が止むとワーウルフキングが立っていた草原ごとなにもかもが消えていた。


「やったか?」

「ダメです!上に逃れました!」


 ミオンの言葉に空を見上げるとワーウルフキングの巨体が空中にあった。


「逃げましょう!ワーウルフキングは倒せません!誰にもです!」

「そんなに強いのか?」


 ワーウルフキングはさっきの涼子の攻撃を警戒してか空中から降りてこない。足を交互に空を蹴り空中で静止していた。


「過去、勇者パーティーが挑んで全滅しています。魔王ですら戦おうとしません。ワーウルフキングの速度は世界一で攻撃が当たらないのです、あのワーウルフキングは自身に向かってくる攻撃の意思を読んでしまうんです、だから倒すには攻撃するという意思を持たないでワーウルフキングの速度を上回る攻撃するしかありません。そんなこと、誰にも出来はしません」


 意思を持たないで攻撃か…。


「ウ、ウオオオオオオオオ!」


 空中から雄叫びが聞こえた瞬間、ワーウルフキングが空を蹴ってこっちに突進してきた。


「ディメンションホール!ライトニングソード✕五十!スターゲイザー!」


 空中だったからか地面よりも速度の遅いワーウルフキングに向かって俺はライトニングソードを五十本発射した。が、ワーウルフキングは空中で片足を横に蹴りライトニングソード✕五十を軽く避けた。


「はは、確かに…勝てないな、これは…」

「恋次…」

「恋次様…」


 俺が諦めたのを感じた二人が俺を左右から抱きしめてきた。その俺達を見たワーウルフキングはゆっくりとした足取りで近づいてくる。


「だ、旦那様…」


 ちょうどワーウルフキングを挟んで反対にいるリオンが震える声で言う。すっかりワーウルフキングに怯えて動けないようだ。そして、リオンの前にはディメンションホールがまだ残っていた。


「…なぁ、なにがそんなに面白いんだ?…まぁいいか」


 ワーウルフキングの顔が獣が獲物をいたぶるときに見せる様な顔になっていた。そんな、表情を見据えたまま俺は自分のディメンションホールを近づいてくるワーウルフキングに向けた。ワーウルフキングは正面のディメンションホールに注意を向けてくる。


「お前の敗因は俺がいたことだ!スターゲイザー!」


 次の瞬間、ワーウルフキングの胴体がまっぷたつ裂け、ワーウルフキングの顔が笑いから悲壮へと変わっていく。ワーウルフキングの身体が裂けたのは後方からライトニングソードが光の速度で飛んできたからだ。このライトニングソードは俺がさっきリオンのディメンションホールに入れた物だ。リオンはなにを入れられたのか知らない、だから意思の無い攻撃ができた。


「う、うそ、ワ、ワーウルフキングを倒してしまいました!」

「恋次!凄いじゃない!」


 興奮した二人が俺に強く抱きついてくる。


「いた、いたた、痛いーー」


 折れた足の痛みに耐えかねた俺の絶叫が響き渡る。こうして、ワーウルフキング討伐というただのお出かけが終わった。


 

 

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