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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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155/157

新たなる接触

 岡村達と1年生のグループは、再び公園の再調査へと向かった。


***午後・公園前***


空は、晴れていた。

でも。

午後の光は、どこか白く、薄かった。

岡村は、公園の入口で立ち止まった。

隣に、斎藤。

少し後ろに、山田と林。

誰も、すぐには口を開かなかった。

斎藤が、先に言った。

「……来ちゃったな」

軽い口調だったが、目は笑っていなかった。

山田が、小声で続く。

「俺、正直まだよく分かってないんだけど」

「何を、確かめるんだっけ」

林は、黙ったまま公園の中を見ていた。

岡村は、一歩踏み出した。

「俺も、うまく言えない」

「でも……行けば、分かる気がする」

三人が、岡村の背中を見た。

少しだけ、間があった。

それから。

斎藤が、ため息をついた。

「……まあ、ついてきたんだから」

「最後まで付き合うけどな」

山田が、苦笑いした。

林は、何も言わなかった。

ただ、静かに歩き始めた。

それが、答えだった。

四人は、公園の中へ入った。


***


砂場。

東屋。

桜の木。

昨日と、同じ場所がある。

子どもの姿は、今日もなかった。

斎藤が、辺りを見回す。

「……静かだな」

「平日の昼間だからか?」

山田が、腕を組んだ。

「どうだろ」

「なんか……来づらい雰囲気、あるよな」

林が、ぽつりと言う。

「足が、重い」

三人が、林を見た。

林は、続けた。

「さっきから、ずっと」

「気のせいかと思ってたけど」

「……やっぱり、重い」

岡村は、息を呑んだ。

(林も、感じてる)

斎藤が、眉を寄せた。

「俺は……どうだろ」

「特には感じないけど」

山田が、苦い顔をした。

「俺も、よく分からん」

「でも、林がそう言うなら」

岡村は、ゆっくりと歩き始めた。

「行こう」

「中央まで」


***公園・中央広場***


公園のやや中央。

広場に、四人は立った。

足を止める。

周囲を、見渡す。

人の気配は、なかった。

相変わらず。

ベンチは、空のまま。

遊具も、誰も触れていない。

風が、細く吹いた。

それだけだった。

岡村は、その場に立ったまま。

ゆっくりと、息を吐いた。

「……この辺りが、気になる」

小さく、呟いた。

独り言のような声だった。

でも。

三人には、聞こえていた。

全員が、静かに。

場に、集中した。

しばらく。

誰も、動かなかった。

やがて。

斎藤が、眉をわずかに寄せた。

「……確かに」

低い声だった。

さっきまでの余裕が、少しだけ、薄くなっていた。

「少し……気配を、感じた」

言いながら、自分でも確かめるように。

もう一度、周囲に意識を向ける。

「気のせい、じゃないかも」

山田が、腕を組んだ。

「でも」

「このくらいの感じ……」

言葉が、途中で止まった。

続けようとして。

続けられなかったような。

そんな間があった。

林が、何も言わずに。

ゆっくりと、周囲を見渡した。

東。

西。

南。

北。

一つずつ、確かめるように。

その目が、静かに動く。

岡村は、足元を見た。

昨日、夢の中で。

見ようとして、見られなかった場所。

今は。

ただの地面が、あるだけだった。

(……)

もう一度、意識を広げる。

感じようとする。

寂しさは、ある。

でも。

さっきまで感じていた。

あの「呼んでいる」感覚が。

今は。

どこにも、なかった。

「……やっぱり」

岡村は、静かに呟いた。

「気のせいか」

その声には。

安堵ではなく。

どこか、拍子抜けしたような。

それでいて。

納得しきれないような。

複雑な色があった。

林が、視線を戻した。

岡村を、見る。

何も言わない。

でも。

その目は、まだ。

何かを、探しているようだった。

斎藤が、小声で言う。

「まあ」

「考えてみりゃ」

「これまでの調査と比べたら」

「俺たち1年生4人で、十分だろ」

どこか、余裕を取り戻したような声だった。

山田が、大きく頷く。

「だよな」

「先輩たちも、近くにいるし」

「大丈夫だって」

少しだけ、間があった。

「……岡村の違和感も」

「気のせいかもな」

岡村は、何も言わなかった。

ただ、広場の中央を見つめたまま。

その言葉を、黙って聞いていた。

林が、静かに口を開いた。

「でも」

「油断は、禁物だ」

斎藤が、林を見る。

林は、表情を変えなかった。

ただ、まっすぐに前を見ていた。

岡村は、小さく頷いた。

「……装備品の再確認をしよう」

三人の視線が、岡村に集まる。

岡村は、カバンを開けた。

「カメラ」

取り出す。

問題ない。

「浄化スプレー」

確認する。

残量、十分。

「お守り」

胸元に、確かにある。

「霊府も――」

自分のポケットを確かめる。

「OK」

それから、山田を見た。

山田が、少し得意げに言う。

「俺は念のために、10枚持ってきてる」

カバンから、丁寧に束ねられた霊府を取り出した。

「これだけあれば」

「十分すぎるだろ」

斎藤が、目を細めた。

「……お前、意外と用意いいな」

「褒め言葉として受け取っとく」

山田が、にやりとした。

林は、自分の装備を静かに確かめていた。

何も言わなかった。

でも。

その目は、ずっと。

公園の中心を。

見ていた。

岡村は、深く息を吸った。

カバンを閉める。

「よし」

四人の顔を、見回す。

「さっそく、目的地に進もう」

斎藤が、軽く首を鳴らした。

「おう」

山田が、霊府をしまいながら頷く。

「行きますか」

林は、無言で一歩踏み出した。

それが、合図になった。

四人は、並んで歩き始める。

足音が、静かな公園に響く。

砂場を、過ぎる。

東屋を、過ぎる。

桜の木が、風もないのに。

かすかに、揺れた。


***公園の中心***


四人は、再びそこに立った。

岡村は、カバンに手を入れた。

取り出したのは。

小さな、水晶だった。

透明な、澄んだ色をしていた。

手のひらに乗せると。

午後の光を、静かに受けた。

四人が、それを見ていた。

岡村は、膝をついた。

地面に、そっと手をあてる。

土は、少し冷たかった。

ゆっくりと、掘る。

深くは、ない。

でも。

丁寧に。

確かめるように。

水晶を、そこに置いた。

土を、戻す。

手で、軽く押さえる。

立ち上がった。


斎藤が、腕を組んで言う。

「念には念を入れて置くのも」

「正解だ」

落ち着いた声だった。

山田が、埋設した場所を見ながら頷く。

「ああ」

「これで……」

一度、その場の空気を確かめるように。

静かに、息を吸った。

「違和感も感じられなくなれば」

「任務完了だ」

誰も、すぐには答えなかった。

四人で、しばらく。

その場に立っていた。

風が、ゆっくりと通り抜ける。

さっきとは、少しだけ。

空気が、違う気がした。

重さが、薄れたような。

気のせいかもしれない。

でも。

確かに。

何かが、変わった気がした。

林が、周囲に目を向けた。

「後は」

「周辺を見回って」

「撤収しよう」

静かな、でもはっきりとした声だった。

岡村が、頷く。

「そうだな」

岡村は、もう一度だけ。

水晶を埋めた場所を、見た。

土の上は、何も変わらない。

ただの地面だった。

でも。

(頼む)

心の中で、小さく言った。

それだけだった。

顔を上げる。

「行こう」

四人は、静かに歩き始めた。


***周辺・見回り***


広場を離れ。

四人は、公園の周辺を歩き始めた。

東屋の裏。

桜の木の周囲。

フェンス沿いの茂み。

一つずつ、確かめていく。

特に、異常はなかった。

空気も、さっきより落ち着いている。

山田が、小声で言う。

「やっぱり、問題なさそうだな」

斎藤が、周囲に目を向けながら頷く。

「みたいだな」

「水晶、効いてるのかもな」

岡村は、黙って歩いていた。

林も、無言で周囲を確認している。

そんな時だった。

「……あれ」

山田が、立ち止まった。

視線の先。

公園の北側。

人影があった。

一人ではない。

数えると。

六人。

全員、若い。

大学生くらいだろうか。

バラバラに散らばって。

それぞれが、真剣な顔で周囲を確認している。

リーダーらしき人物が、仲間に向かって落ち着いた声で指示を出していた。

「もう一度、北側を確認してくれ」

「ここは、まだ何か残ってる可能性がある」


斎藤が、眉を上げた。

「……俺たちと、同じことやってる」

林が、静かに言う。

「別の、サークルか」

岡村は、そのグループを見た。

装備は、それなりに整っている。

動きも、慌てていない。

素人ではない。

でも。

「特別、異変は感じられない……様だな」

岡村は、小声で呟いた。

斎藤が、頷く。

「ああ」

「ただ歩いてるだけ、って感じじゃないけど」

「危ない雰囲気は、ない」

山田が、少し安心したように息を吐く。

「じゃあ、俺たちはもう一度」

「こっち側を見回って終わりにするか」

「あのグループのことは――」

その時。

リーダーらしき人物が。

こちらを、見た。

目が、合った。

一瞬。

相手が、何かを確認するように。

岡村たちを、じっと見た。

それから。

ゆっくりと、近づいてきた。

落ち着いた歩き方だった。

背が高く、細身。

丸眼鏡をかけていた。

表情は、穏やかだった。

「君たち」

静かな、でもはっきりとした声だった。

「ちょっと、尋ねたいことがあるんだけど」

四人が、その人物を見た。

相手は、軽く会釈した。

「僕たちは」

「緑大学の、オカルト部」

一度、言葉を切る。

「部長の、西崎です」

岡村は、思わず斎藤を見た。

斎藤も、岡村を見た。

山田が、小声でぼそりと言う。

「……同業者だ」

林は、無言のまま。

西崎を、静かに見ていた。

その目は。

警戒でも、驚きでもなく。

ただ、静かに。

相手を、確かめているようだった。

岡村は、一歩前に出た。

「……僕たちは」

「青空大学の、オカルト研究会です」

「1年生の、岡村といいます」

西崎が、少しだけ目を細めた。

「青空大学……」

少し、遠くを見るような目をした。

「確か」

「ずっと以前」

「合同で調査していた記録が、残っている」

岡村は、思わず西崎を見た。

「合同調査……ですか」

西崎は、静かに頷いた。

「うちの部に、古い記録があってね」

「青空大学のサークルと、一緒に動いていた時期があったらしい」

「かなり前の話だけど」

斎藤が、小声で山田に言う。

「知ってたか?」

山田が、首を振る。

「初耳だ」

西崎は、続けた。

「ここ何年間の間」

「交流も、途絶えていたようだけど」

一度、言葉を切る。

「まだ、サークルが続いていたんだね」

その声は、穏やかだった。

どこか、安堵したような。

「良かった」

岡村は、その言葉に。

思わず、胸が少し動いた。

西崎は、丸眼鏡の奥の目を細めた。

「良かったら」

「また、君たちとの交流を再開できると嬉しいんだけど」

少し間があった。

それから。

「……部長は、君かい?」

岡村は、小さく首を振った。

「いいえ」

「今は、田中さんが部長です」

「私たちは、1年生で」

「今日は、先輩方に代わって」

「再調査に来ていました」

西崎は、小さく頷いた。

「なるほど」

「田中さん、か」

どこか、その名前を確かめるように。

静かに、繰り返した。

斎藤が、岡村の隣で言う。

「田中部長は、今日は別の場所で待機しています」

「連絡は、取れますが」

西崎は、頷いた。

「そうか」

「なら、ぜひ」

「改めて、部長同士で話ができると嬉しい」

少し、間があった。

山田が、おずおずと口を開く。

「あの……西崎さん」

「尋ねたいことがある、って言ってましたよね」

「それは……」

西崎の表情が、わずかに変わった。

穏やかさの中に。

少しだけ。

真剣な色が混じった。

「そう」

「実は」

公園の中心を、一度だけ見た。

「この公園のことで」

「君たちに、聞きたいことがあってね」

林が、口を開いた。

「……何を、ですか」

西崎は、林を見た。

少し、驚いたような顔をした。

それから。

静かに、言った。

「君たちが」

「ここに来るのは」

「今日が、初めてじゃないだろう?」

誰も、すぐには答えなかった。

岡村は、西崎の目を見た。

穏やかな目だった。

でも。

その奥に。

確かに何かを、知っているような。

そんな光があった。

風が、また細く吹いた。

桜の木が、静かに揺れた。

岡村は、まっすぐに西崎を見た。

「……昨日も、来ています」

一拍。


「何か、ご存知ですか」

西崎は、答える前に。

もう一度だけ。

公園の中心を、見た。

水晶を埋めた、あの場所を。

それから。

ゆっくりと、口を開いた。


西崎は、静かに言った。

「この場所は」

一度、公園の中心を見る。

「1つの、発端でしかない」

誰も、口を開かなかった。

西崎は、続けた。

「ここを解決しても」

「根本的な問題は」

「解決しない」

その言葉が、空気に溶けた。

しばらく。

誰も、動かなかった。


斎藤が、低い声で言う。

「……根本的な問題、って」

西崎は、斎藤を見た。

「詳しい話は」

「責任者同士でしたい」

「1年生の君たちに、今すべて話すのは」

少し、言葉を選ぶように。

「適切ではない、と思っている」

山田が、息を呑んだ。

林は、黙ったまま。

西崎を、じっと見ていた。

西崎は、岡村に視線を戻した。

穏やかな目だった。

でも。

その奥にある真剣さは。

さっきより、はっきりしていた。

「良かったら」

「田中さんと、連絡を取りたいんだけど」

一拍。

「取次を、お願いできるかい?」

岡村は、西崎を見た。

一瞬だけ、考えた。

(信用していい相手か)

(でも)

(この人は、何かを知っている)

胸の奥の、あの感覚が。

静かに、頷いているような気がした。

岡村は、まっすぐに西崎を見た。

「……分かりました」

スマホを、取り出す。

田中への連絡先を、開く。

発信する前に。

もう一度、西崎を見た。

「西崎さん」

「一つだけ、聞かせてください」

西崎が、静かに待つ。

「私たちの部員は」

「危険な状況に、ありますか」

西崎は、すぐには答えなかった。

少しだけ。

目を伏せた。

それから。

「今すぐ、ということはない」

「でも」

顔を上げる。

「早い方が、いい」

その言葉は。

短かった。

でも。

十分だった。


岡村は、頷いた。

発信ボタンを、押した。

呼び出し音が、静かな公園に響く。

一回。

二回。

三回。

「――はい、田中です」

部長の声が、聞こえた。

岡村は、一度深く息を吸った。

「部長」

「岡村です」

「今、公園にいます」

「緑大学のオカルト部の方と、接触しました」

「部長と、直接話したいとのことで」

少し、間があった。

「……緑大学」

田中の声が、わずかに変わった。

「西崎さん、という方です」

また、間があった。

今度は、少し長かった。

「……分かった」

「代わってくれ」

岡村は、スマホを西崎に差し出した。

「どうぞ」

西崎は、丁寧に受け取った。

「田中さん」

静かな、でもはっきりとした声で言う。

「はじめまして。」

「緑大学、オカルト部代表の西崎です」

「少し、込み入った話があります」

「直接、お会いできますか」

岡村は、その言葉を聞きながら。

公園の中心を、見た。

水晶を埋めた、あの場所。

(発端)

西崎の言葉が、胸の中で繰り返す。

(ここは、始まりに過ぎない)

では。

本当の問題は。

どこに。

何が。

あるというのか。

風が、また吹いた。

今度は、少し。

冷たかった。


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