表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/157

岡村の提案

 公園の調査を終えたが、1年生の岡村は、なにか気になる違和感を感じていた。

***その夜***


その日の夜。


岡村は、一人で寮の部屋にいた。


机の上には、今日まとめたメモ。


公園の見取り図。


気になった場所に、小さな印がいくつもついていた。


(……土台、か)


祐一の言葉を思い出す。


間違っていない。


それは、分かる。


でも。


胸の奥に、まだ何かが引っかかっていた。


岡村は、ペンを手に取った。


見取り図の中央。


公園の中心に、小さく丸をつけた。


(あそこ……)


目を閉じる。


昼間、あそこに立った時の感覚を思い出す。


寂しい。


それは、確かだった。


でも、それだけだっただろうか。


何かが、もう一つ。


ごく薄く。


引っかかるような感覚があった気がする。


岡村は、目を開けた。


「……気のせいか」


小さく呟いた。


でも、その手は止まらなかった。


丸の横に、小さく書き込む。


――“中心、要再確認”


ペンを置いた。


その時。


カタン、と。


部屋の隅で、小さな音がした。


岡村は、顔を上げた。


誰もいない。


窓も閉まっている。


「……」


しばらく、動かなかった。


やがて、小さく息を吐いた。


「疲れてるな……」


そう言って、立ち上がる。


電気を消そうとした、その時。


ふと。


机の上の見取り図に、視線が戻った。


中央に書いた、小さな丸。


その周囲だけ。


なぜか、ほんのわずかに。


紙が、湿っているように見えた。


「……?」


近づく。


指で触れる。


乾いている。


何も、おかしくない。


岡村は、眉をひそめた。


そのまま、しばらく見つめた。


やがて、首を振る。


「……考えすぎか」


電気を消した。


部屋が、暗くなる。


ベッドに横になる。


すぐに、目を閉じた。


疲れは、確かにあった。


だから。


眠りは、すぐに来た。


***


その夜。


岡村は、夢を見た。


誰もいない、公園。


昼間と同じ場所。


でも、少し違う。


空が、暗い。


風が、ない。


音も、ない。


岡村は、公園の中央に立っていた。


動けなかった。


体が、重い。


視線だけが、ゆっくりと動く。


東屋。


砂場。


桜の木。


どれも、そこにある。


でも。


どれも、少しずつ。


遠ざかっているように見えた。


(……?)


足元に、違和感。


何かが、ある。


見ようとする。


でも、視線が落ちない。


まるで、見てはいけないように。


無理やり、止められているような感覚。


その時。


――誰かが、いる。


はっきりと、そう思った。


公園の“下”に。


岡村の喉が、ひくりと動いた。


声は、出なかった。


次の瞬間。


足元から。


冷たい何かが、ゆっくりと――


***


岡村は、飛び起きた。


荒い息。


全身に、汗。


部屋は、暗いままだった。


時計を見る。


深夜、三時過ぎ。


「……っ」


言葉にならない声が漏れた。


胸を押さえる。


心臓が、早い。


しばらく、そのまま動けなかった。


やがて。


ゆっくりと、視線を机に向ける。


暗闇の中。


見取り図が、そこにある。


中央に描いた、小さな丸。


岡村は、ベッドから降りた。


足音を立てないように、近づく。


手を伸ばす。


紙に触れる。


冷たい。


「……」


しばらく、黙っていた。


やがて、小さく呟く。


「……もう一回、行くべきだな」


その声は、震えていた。


でも。


迷いは、なかった。



***翌日・部室***


翌日。


部室には、いつも通りの空気があった。


窓から、柔らかい光が差し込んでいる。


湯呑みから、湯気が立っている。


峯川が、資料をめくり。


星川が、静かにノートを取っていた。


その中で。


岡村は、少しだけ様子が違っていた。


落ち着かないように、指先が動いている。


祐一は、それに気づいていた。


「……岡村」


静かに声をかける。


岡村が、顔を上げた。


少し、迷っている顔だった。


でも。


すぐに、口を開いた。


「部長」


一呼吸。


「昨日の公園なんですが」


部室の空気が、少しだけ変わった。


峯川が、顔を上げる。


星川のペンが、止まる。


岡村は、続けた。


「もう一度、調査したいです」


はっきりとした声だった。


小川が、眉をひそめた。


「……なんでだ?」


岡村は、少しだけ言葉を探した。


「うまく言えないんですけど」


「何か……引っかかるんです」


「昨日の調査で、十分だったとも思います」


「でも、それとは別に」


「見落としているものが、ある気がして」


部室が、静かになる。


広末が、やわらかく言った。


「気のせい、じゃないかな?」


「場の状態も、かなり良くなってたし」


「子どもたちも、そのうち戻ってくると思うよ」


峯川も、腕を組んだまま言う。


「俺も、あれで一区切りだと思うな」


「危険な感じは、なかった」


「深追いする必要はないだろ」


小川も、頷いた。


「正直、あれ以上はやることも少ないと思う」


「無理に“何かあるはず”って考えるのは、逆に危ないぞ」


岡村は、黙って聞いていた。


否定は、できなかった。


みんなの言うことは、正しい。


それでも。


「……それでも、行きたいです」


小さく、でもはっきりと、言った。


視線は、祐一に向いていた。


部室の空気が、少し張り詰める。


祐一は、すぐには答えなかった。


岡村を、じっと見ていた。


その目の奥を、確かめるように。


やがて。


静かに、口を開いた。


「理由は、“違和感”か」


「……はい」


「具体的な危険の兆候は?」


「ありません」


「ただ、感覚的に……です」


祐一は、少しだけ考えた。


それから。


ゆっくりと頷いた。


「分かった」


全員が、祐一を見る。


次の言葉を、待っていた。


「再調査は、やろう」


岡村の表情が、わずかに変わる。


安堵と、緊張が混じった顔だった。


だが。


祐一は、続けた。


「ただし」


その一言で、空気が引き締まる。


「今回は、全員では行かない」


峯川が、眉を上げた。


「どういうことだ?」


祐一は、落ち着いた声で言う。


「岡村が感じた違和感は」


「まだ、はっきりした“危険”ではない」


「でも、完全に無視するのも違う」


「だから――」


一度、言葉を切る。


「1年生だけで、再調査に行ってみるといい」


部室が、静まり返った。


「……は?」


峯川が、思わず声を上げる。


小川も、目を見開いた。


「それ、大丈夫なのか?」


祐一は、頷いた。


「だからこそ、だよ」


静かに続ける。


「今の段階で」


「いきなり強いものに当たる可能性は、低い」


「昨日の時点で、場はかなり整っている」


「もし“何か”があったとしても」


「表層ではなく、もっと浅い違和感のはずだ」


星川が、腕を組んだ。


「なるほど……」


祐一は、続ける。


「そして」


「岡村が感じたものを、岡村自身が確かめること」


「これは、成長に繋がる」


岡村が、息を呑んだ。


祐一は、視線を合わせる。


「ただし」


もう一度、念を押すように。


「絶対に、無理はしないこと」


「少しでも異常を感じたら、すぐに引く」


「その判断も、訓練の一つだ」


岡村は、強く頷いた。


「はい」


広末が、少し心配そうに言う。


「私たちは……?」


祐一は、穏やかに答えた。


「待機」


「連絡は、常に取れるようにする」


「必要なら、すぐに向かう」


峯川が、ため息をついた。


「……まあ、完全に無茶ってわけでもないか」


小川も、渋々頷く。


「軽い再確認、って位置づけならな」


星川が、岡村を見た。


「いい機会だ」


「自分の感覚を、ちゃんと観察してこい」


岡村は、まっすぐに頷いた。


「はい」


その声には、昨日とは違う強さがあった。


祐一は、最後に言った。


「じゃあ、決まりだ」


「準備をして、午後にでも行くといい」


岡村は、深く息を吸った。


そして。


静かに吐き出した。


(確かめる)


あの違和感の正体を。


自分の感覚が、正しいのかどうかを。


部室の窓の外。


空は、穏やかに晴れていた。


けれど。


どこか、昨日とは違って見えた。


 購読、ありがとうございました。しばらく忙しい日が続いた事から更新が停滞していました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ