表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

153/153

日常活動へ

 オカルト研究会は、本来の平穏な活動へと戻っていた。


***日常***


あの集会所への初訪問から、数ヶ月が経っていた。


オカルト研究会の活動は、静かに、でも着実に続いていた。


物置の調査。


庭の調査。


古い蔵の調査。


依頼が来るたびに、全員で向かった。


でも、ほとんどの場合。


結論は、同じだった。


「心霊現象ではない、と思います」


「ただ……少し、整理してみましょうか」


気がつけば、スコップを握る時間より、ほうきを握る時間の方が長くなっていた。


***それでも***


それでも、星川は必ず、こっそりと炭を埋めた。


広末は、水晶をそっと置いた。


祐一は、誰にも気づかれないように、一枚の写経をたたんで土に戻した。


掃除が終わり、依頼人が「すっきりしました」と言うたびに。


全員が、少しだけ目配せをした。


それだけで、十分だった。


***依頼***


そんなある日。


部室に、一枚のメモが届いた。


近くの公園のことで、相談があるという。


子どもたちが、怖がって近づかなくなった。


夜になると、妙な気配がする。


ただそれだけが、書かれていた。


全員で、地図を確認した。


市の管理する、小さな公園だった。


遊具がいくつかと、古い東屋。


桜の木が、数本。


特別、曰くのある場所ではなさそうだった。


「……行くか」


峯川が言うと、全員が頷いた。


***公園へ***


当日の朝。


全員が集合した。


道具を確認する。


スコップ。炭。水晶。


そして、祐一が丁寧に書き溜めた写経の束。


山田が、荷物を見ながら言った。


「……また、掃除活動になりそうですね」


誰も笑わなかった。


でも、否定もしなかった。


松井あゆみが、鞄を肩にかけながら答えた。


「そうかもね」


少し間を置いて。


「まあ……社会貢献には、なってるわ」


峯川が、首の後ろを掻いた。


「オカルトなのか、清掃活動部なのか」


「だんだん、分からなくなってきたぜ」


星川が、道具袋を持ち直しながら、静かに言った。


「それでも、こっそり場を浄化したり、エネルギーグッズを埋設したりはしてるんだから」


「結果的には、オカルト活動になってるけどね」


小川が、頷いた。


「そうそう。特別、悪霊退治をしなくても」


「場を清めているわけだから」


「十分、オカルト活動だよ」


祐一は、写経の束をバッグに仕舞いながら言った。


「今回は公園だし、書き溜めた写経を埋設して清めることも出来る」


「調査も、きちんと行う」


「良いトレーニングには、なるよ」


全員が、祐一を見た。


祐一は、続けた。


「いきなり、強力な悪霊と対峙して……危機に陥るよりはさ」


「少しずつだけど、メンバー全員、確実に能力を高められている」


「それだけで、十分なんだよ」


しばらく、誰も喋らなかった。


峯川が、バッグを肩に担いだ。


「……まあ、そうだな」


それだけだった。


でも、全員の顔が、少し柔らかくなっていた。


***公園***


公園は、住宅街の中にあった。


小さな入り口。


錆びかけた鉄棒。


砂場には、誰かが忘れたバケツが、ひっくり返ったまま置いてあった。


東屋の屋根に、枯れ葉が積もっていた。


桜の木が、静かに立っていた。


「……誰も、いないな」


山田が、あたりを見回した。


平日の午前中だったが、子どもの姿は一人もなかった。


「依頼人の言う通り、近づかなくなっている感じがするな」


星川が、目を細めた。


「気は……重くはない」


「でも、澱んでいる」


「長い間、誰にも気にかけてもらえなかった場所みたいだ」


祐一は、公園の中に一歩踏み入れた。


足の裏から、何かが伝わってくるような気がした。


怖くはない。


ただ、寂しかった。


(誰かに、気にかけてほしかった場所なのかもしれない)


そう、思った。


***始める***


全員が、道具を降ろした。


星川が、手帳を開く。


「まず、全体を一周してみよう」


「気になる場所を、確認してから」


「それから、スポットを決める」


全員が、頷いた。


一人ひとりが、公園の中を歩いた。


松井あゆみが、東屋の柱に手を当てた。


小川が、桜の根元にしゃがみこんだ。


山田が、砂場のバケツをそっと立て直した。


峯川が、フェンス沿いを歩きながら、何かをメモした。


祐一は、公園の中央に立った。


目を閉じた。


風が、吹いた。


枯れ葉が、少し舞った。


(悪意は、ない)


(ただ……長い時間、忘れられていた)


目を開けた。


「……ここは、祓うというより」


「また、賑やかにしてあげた方が、いいかもしれない」


星川が、隣に来た。


「同感だ」


二人は、しばらく、公園の中を眺めた。


子どもたちが、また来てくれるといい。


誰が言ったわけでも、なかった。


でも、全員が思っていた。


同じことを。


「よし」


峯川が、スコップを手にした。


「始めるか」


青空が、公園の上に広がっていた。


***部室にて***


公園の調査から戻った翌日。

全員が、部室に集まった。

お茶が、湯気を立てていた。

峯川が、報告書をまとめている。

星川が、考察をノートに書き込んでいる。

今回の活動も、無事に終わった。

怪我もなく。

危険もなく。

静かな、穏やかな調査だった。

全員が、それぞれ頷いていた。

そんな中。

岡村が、少し迷うように口を開いた。

「……部長」

祐一が、顔を上げた。

「今の活動は、充実しています」

岡村は、湯呑みを両手で包んだ。

「でも……」

言いかけて、止まった。

もう一度、口を開いた。


「これで、いいんでしょうか」

部室が、静かになった。


***それぞれの感覚***


祐一は、少し考えてから、答えた。

「ああ……」

「入学早々、色々な事件があったから」

「今の活動は、ぬるま湯みたいに感じるのかも知れないね」

峯川が、腕を組んだ。

「確かにな」

「ほとんど、ギリギリで助かって来たから」

「今の活動は……物足りなさがあるのは、分かる」

小川も、静かに頷いた。

「自分の魔法が、全く通じない相手と対峙してきた分」

「今は……ぬるま湯に浸かった感じ、かもな」

星川が、ペンを置いた。

「確かに、やりがいという点では」

「物足りなさがあるだろうね」

岡村が、少し安堵したような顔をした。

自分だけが、そう感じているわけではなかった。

広末が、首を横に振った。

「私は……今の活動でも、十分楽しいです」

穏やかな声だった。

「少しずつ、場が良くなっていくのが分かるし」

「私たちの身の丈に合った活動だと思うから」

岡村が、広末を見た。

それから、また俯いた。

「でも……なんというか」

言葉を選ぶように、続けた。

「限界を超えたスリルとか」

「全力を出し切った活動では、ないです」

「このままでは、僕たちは……大きく成長できないと思います」

誰も、すぐには答えなかった。


***祐一の言葉***


祐一は、しばらく黙っていた。

岡村の言いたいことは、分かった。

間違ってもいない、と思った。

でも。

「実践が、一番の成長に繋がる」

静かに、言った。

「それは、そうだ」

「でも……」

一度、息をついた。

「もし、失敗したら」

「命が、ない可能性もあるんだ」

岡村が、顔を上げた。

祐一は、続けた。

「そういったスリルに慣れてくると、物足りなくなる」

「もっと強いものと、やり合いたくなる」

「その気持ちは、分かる」

「でも……それで一生、ダメになってしまうリスクも、あるんだ」

部室が、静まり返った。

峯川も、小川も、星川も。

誰も、口を開かなかった。

祐一は、全員を、ゆっくりと見渡した。

「僕たちは、学生なんだ」

「霊能者じゃ、ない」

「サークル活動として……そういった危険なことに、自分から飛び込んでいくのは」

「避けた方がいいと、思っている」

岡村は、黙って聞いていた。


 反論は、しなかった。

でも、何かがまだ、胸の中に残っているようだった。


***峯川***


 しばらくして、峯川が口を開いた。

「俺も……正直、祐一と同じ考えだ」

岡村を見た。

「あの時、俺たちが助かったのは」

「実力だけじゃ、なかった」

「運も、あった」

「寮さんたちの助けも、あった」

「それを、忘れちゃいけないと思う」

小川が、続けた。

「魔法が通じなかった時」

「俺、本当に怖かったよ」

「今、思い返しても……背筋が寒くなる」

「あの経験があったから、今の活動がぬるま湯に感じるのかもしれないけど」

「あの経験は、二度としたくない、とも思ってる」

岡村は、俯いた。

「……そうですね」

小さな声だった。


***星川***


星川が、静かに言った。

「成長したい、という気持ちは正しい」

「でも、成長の仕方は一つじゃない」

岡村が、顔を上げた。

「今やっていることを、深めていくことも……成長だ」

「掃除一つにしても、場の気を読みながらやるのと」

「ただ掃いているのとでは、全然違う」

「写経を埋設する場所の選び方も」

「エネルギーの流れの読み方も」

「少しずつ、確実に上手くなっている」

「それが分かるか」

岡村は、少し考えた。

それから、小さく頷いた。

「……言われてみると」

「最近、場に入った時の感覚が、変わってきた気がします」

「最初の頃より……何かが、分かるような」

「そうだ」星川が、頷いた。

「それが、成長だ」


***広末***

 

 広末が、温かい声で言った。

「強い敵と戦わなくても」

「場を読む力は、確実についてきてるよね」

「公園に入った時、みんな……最初に来た頃とは、違う目で見てたと思う」

岡村は、広末を見た。

「……確かに」

「入学当初の自分だったら、ただの古い公園にしか、見えなかったかもしれないです」

「でも今日は……なんか、この場所は寂しがってるな、って」

「自然に、そう感じられました」

広末が、微笑んだ。

「それって、すごいことだよ」


 ***祐一、最後に***


 祐一は、岡村を見た。

「焦らなくていい」

静かに、でもはっきりと言った。

「強くなりたいなら、今の活動を、丁寧にやり続けることが一番の近道だ」

「土台のない力は、いざという時に崩れる」

「僕たちは、今、土台を作っているんだと思う」

岡村は、しばらく祐一を見ていた。

それから、ゆっくりと頷いた。

「……分かりました」

「もう少し、今の活動を……ちゃんと、見直してみます」

祐一は、頷いた。

「また、何か感じたら言ってくれ」

「それも、大事なことだから」

岡村は、少し表情が緩んだ。

「はい」

部室に、静かな空気が戻った。

峯川が、報告書の続きを書き始めた。

星川が、ノートを開いた。

広末が、お茶を注ぎ足した。

窓の外に、夕暮れが広がっていた。

穏やかな、橙色だった。

何も、解決したわけじゃない。

岡村の中の、何かがなくなったわけでも、ない。

でも、今日の話は、した。

それで、十分だった。

今は、まだ。

土台を、作る時間だった。


購読、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ