表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

152/153

再び、あの場所へ

祐一は、また。あの場所の事が気になっていた。

***提案***


お茶を飲みながら、祐一が口を開いた。

「……実はさ」

全員が、祐一を見た。

「この風水スポット」

祐一は、窓の外の庭木を見た。

「あの場所にも、いくつか作ろうと思っているんだ」

部室が、静かになった。


あの場所、という言葉だけで、全員が分かった。

あの山のふもとの、集会所。

高原会長が守り続けてきた、あの土地。

誰も、すぐには答えなかった。

でも、否定する者も、いなかった。


峯川が、腕を組んだ。

少し考えるように、天井を見た。

それから、口を開いた。

「……それは、ナイスアイデアだ」

全員が、峯川を見た。

峯川は、続ける。

「集会所やあの周辺に、いくつか風水スポットを作っていけば」

「あの場所も……また、活気を取り戻せるかもな」

静かな声だった。

でも、確信があった。

星川が、身を乗り出した。

「複数のスポットを作れば、相乗効果で結界の働きも強くなる」

「あの土地には、長年の澱みがある」

「一度や二度じゃ、完全には変わらないかもしれないけど」

「続けることで、少しずつ……場の質が変わっていくはずだ」

祐一が、頷いた。


「僕たちにできる事は、霊を祓うことじゃない」

「でも、場を整えること。良い気を集めること」

「それなら……できる」

広末が、湯呑みを置いた。

「あの土地の人たちのためにも……いいよね」

「高原会長も、きっと喜んでくれる」

あゆみが、静かに言った。

「これが、私たちにできる事ね」

「専門家じゃなくても。霊能者じゃなくても」

「できることが、ある」

誰も、反論しなかった。


***準備***


翌日から、準備が始まった。

星川が、ノートに地図を広げた。

「まず、集会所の四隅にスポットを作る」

「それから、周辺の要所に……ここと、ここ」

鉛筆で、印をつけていく。

「全部で、七か所くらいが理想だな」

祐一が、リストを書き出した。

炭。水晶。エネルギーグッズ。

写経する半紙の枚数。

植える庭木の種類。


松井あゆみが、民俗学の文献を引っ張り出してきた。

「あの地域に縁のある植物を選んだ方がいいと思う」

「土地に合ったもので、場を整える方が……効果があるはずだから」

「調べてみるわ」

峯川が、高原会長に連絡を入れた。

電話口で、会長の声は明るかった。

「来てくださるんですか」

「……ありがたい」

その一言に、長年の苦労が滲んでいた。

小川が、車の手配を始めた。

「今度は……怖い目に遭わないといいけど」

「遭わない」祐一が、静かに答えた。

「今回は、違う目的で行くんだから」

小川は、少し考えて。

「……そうだな」

と、頷いた。


***出発***


週末の朝。

空は、よく晴れていた。

軽トラックに、道具が積み込まれていく。

スコップ。炭の袋。水晶。

丁寧に写経された半紙が、何枚も。

松井あゆみが選んだ、土地に縁のある植物の苗。

峯川が、荷物を確認しながら言う。

「……忘れ物はないか」

「大丈夫です」小川が答えた。

「よし」

全員が、車に乗り込んだ。

エンジンがかかる。

祐一は、窓の外を見た。

青空大学の景色が、ゆっくりと遠ざかっていく。

(また、あの場所に行く)

怖くはなかった。

あの時とは、違う。

今度は、自分たちから。

自分たちにできる事をしに、行く。

「……行くか」

峯川が、静かに言った。

「ああ」祐一は、頷いた。

車は、山道へと向かって走り出した。


***再訪***


集会所が、見えてきた。

あの時と、同じ景色だった。

山が、静かにそこにあった。

木々が、風に揺れていた。

でも、何かが違った。

あの重さが、なかった。

あの息苦しさが、なかった。

「……穏やかだな」

星川が、窓の外を見ながら言った。

「ああ」祐一も、頷いた。

「寮さんたちが、やってくれたことが……効いているんだと思う」

駐車場に車が停まった。

ドアが開く。

高原会長が、集会所の前に立っていた。

顔が、ほころんでいた。

「来てくださった」

深く、頭を下げる。

「本当に……ありがとうございます」

祐一は、答えた。

「今日は、霊の話じゃないですよ」

少し、微笑んだ。

「ただ、この場所に……良い気を集めに来ました」

会長は、もう一度頭を下げた。

今度は、何も言わなかった。

でも、その表情が、全てを語っていた。


***はじまり***


荷物を降ろして、全員が集まった。

星川が、地図を広げる。

「まず、集会所の東側から始めよう」

「太陽が昇る方角から整えていくのが、基本だ」

全員が、頷いた。

スコップが、土に差し込まれた。

炭が、丁寧に埋められた。

水晶が、そっと置かれた。

写経した半紙が、折り目を崩さずに納められた。

誰も、喋らなかった。

でも、静かな集中があった。

広末が、苗を植えながら言った。

「なんか……あの時とは、全然違う」

「同じ場所なのに」

「怖くない」

松井あゆみが、土を戻しながら答えた。

「私たちが、変わったのかもね」

「この場所も、少し変わった」

「お互いに……少しずつ」

一か所目が、完成した。

全員が、しばらくその場を見た。

風が、吹いた。

木の葉が、ゆれた。

「……いいな」小川が、呟いた。

誰も、返さなかった。

でも、全員が思っていた。

同じことを。

「次、行くか」

峯川が、スコップを持ち直した。

「ああ」祐一が、頷いた。

青空の下。

全員が、歩き出した。

あの山を、背景に。

静かに、でも確かに。

この場所に、良いものを残しに。

それが、今日の目的だった。

それだけで、十分だった。


***寮への電話***


 風水スポットの準備を進めながら、祐一は寮に連絡を入れることにした。

報告、というより。

相談に近かった。

電話をかけると、寮はすぐに出た。

「祐一君か。どうした」

「実は……」

祐一は、計画を話した。

集会所とその周辺に、風水スポットをいくつか作ること。

場のエネルギーを高めて、あの土地を少しずつ整えていくこと。

今回は、オカルト研究会の単独活動であること。

話し終えると、少しの間があった。

「……なるほど」

寮の声は、落ち着いていた。

「それは、いい活動だと思う」

祐一は、少し肩の力が抜けた。

「賛同してもらえますか」

「ああ」寮は、はっきりと答えた。

「確かに、あの場は色々な因縁が蓄積されている所だからな」

「祐一君の活動は、良いと思う」


***寮の言葉***


「ただ」

寮が、続けた。

「一つ、分かっておいてほしいことがある」

祐一は、姿勢を正した。

「なんですか」

「前回の活動は……あくまでも、一つの強力な怨霊を鎮めたに過ぎない」

静かな声だった。

でも、重かった。

「えっ」

祐一は、思わず聞き返した。

「それは……どういう事ですか」

寮は、ゆっくりと説明した。

「あの場所は、長い歴史を持っている」

「僕たちが対処した存在は、確かに強力だった」

「そして、それを鎮めたことは、大きな意味があった」

「だが……それだけじゃない」

「あの場所には、津波の被害もあった」

「多くの人が、あの地で亡くなった」

「悲しみが、苦しみが、恐怖が……長い年月をかけて」

「あの土地に、積み重なっている」

祐一は、黙って聞いていた。

「一つの強い怨霊を鎮めたからといって」

「その全てが、一度に消えるわけじゃない」

「まだ……完全には、整っていない」

電話口の向こうで、寮が少し間を置いた。

「分かるか」

「……はい」

祐一は、静かに答えた。

「分かります」


***だから***


「だから」

寮の声が、少し柔らかくなった。

「祐一君の活動は、意味がある」

「浄化活動や、パワースポットの設置で……場のエネルギーを高めていく事」

「それを、続けていく事が大切だ」

「一度や二度で、全てが変わるわけじゃない」

「でも、続けることで……あの場所は、少しずつ変わっていく」

「時間をかけて、丁寧に」

「それが、あの土地には必要なんだ」

祐一は、しばらく考えた。

(一つの怨霊を鎮めた。でも、それだけじゃなかった)

(あの土地には、もっと長い……もっと深いものが、残っている)

「……僕たちに、できることをやります」

祐一は、静かに言った。

「地道に、続けていきます」

「ああ」寮は、答えた。

「それでいい」

少し、間があった。

「何かあれば、連絡しろ」

「はい。ありがとうございます」

電話が、切れた。


祐一は、しばらくスマートフォンを手に持ったまま、立っていた。


***メンバーに伝える***


 集会場に戻ると、全員が顔を上げた。

「寮さんは、なんて?」星川が聞いた。

祐一は、椅子に座った。

一つ、息をついてから。

寮から聞いた話を、そのまま伝えた。

前回の活動は、一つの怨霊を鎮めたに過ぎないこと。

あの場所には、津波の記憶や、長年の悲しみが、まだ残っていること。

まだ、完全には整っていないこと。

部室が、静かになった。

峯川が、腕を組んだ。

「……そうか」

短く、言った。

「やっぱり、そう簡単じゃないんだな」

松井あゆみが、文献から顔を上げた。

「でも……だから、私たちの活動に意味があるってことよね」

「一度で終わりじゃない」

「続けていくことが、大事なんだ」


広末が、静かに頷いた。

「あの土地の人たちは、ずっとそこで生きてきたんだもんね」

「私たちが、ちょっと来て、全部解決、なんて……そんな話じゃないよね」

小川が、膝の上で手を組んだ。

「地道に、続けていく……ってことですね」

「ああ」祐一は、頷いた。

星川が、地図を広げた。

「だったら」

静かな、でも確かな声で言った。

「今回の七か所のスポット設置は、始まりに過ぎない」

「次も、また来よう」

「あの場所が、少しずつ変わっていくまで」

誰も、反論しなかった。

峯川が、ノートを開いた。

「記録して、考察して、報告する」

「今回の活動も、しっかり残しておく」

「次に来たとき、何がどう変わったか……比較できるようにな」

祐一は、全員の顔を見渡した。

怖い顔は、一つもなかった。

疲れた顔も、なかった。

ただ、静かな、前を向いた顔があった。

「……ありがとう」

祐一は、小さく言った。

「みんな」


誰も、答えなかった。

でも、全員が頷いた。

窓の外に、青空が広がっていた。

穏やかな、青空だった。

あの土地への道は、まだ続いていた。

焦ることなく。

でも、確かに。

一歩ずつ。

購読、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ