帰還後の振り返り
祐一たちは、事件から一週間後、また、いつもの生活に戻っていた。
***一週間後***
青空大学に、戻って一週間が経った。
講義があった。
レポートがあった。
食堂でご飯を食べた。
友人と話した。
いつもと、変わらない日々だった。
それなのに。
時々、ふと思う。
(あれは……本当に、あったことなのか)
***部室にて***
放課後。
オカルト研究会の部室に、メンバーが集まっていた。
特に、理由はなかった。
ただ、自然と集まっていた。
峯川が、窓際の椅子に座って腕を組んでいる。
松井あゆみが、お茶を淹れていた。
小川が、床に座ってスマートフォンをいじっていた。
祐一は、テーブルに肘をついて、ぼんやりと天井を見ていた。
広末が、窓の外を眺めながら、湯呑みを両手で持っていた。
山田が、壁に背を預けて静かに座っていた。
誰も、喋らなかった。
でも、居心地は悪くなかった。
しばらくして。
広末が、ぽつりと言った。
「……あれ、本当にあったことなのかな」
誰かが、息を吸った。
「なんか……夢みたいで」
広末は、窓の外を見たまま続けた。
「あんなに怖かったのに。あんなに必死だったのに」
「普通に大学来て、講義受けてたら」
「だんだん、現実じゃなかった気がしてきて」
他のメンバーも、黙って頷いた。
中村真理が、静かに言う。
「分かる……。あれだけ強烈な体験をしたのに」
「現実的に考えると、やっぱり……信じられないって思う自分がいる」
鮎川も、腕を組んだ。
「俺も正直そうだ。あの影が……本当に存在したのかって」
「頭では覚えてる。でも、信じ切れない」
織田が、静かに頷く。
「怖かったはずなのに」
「今、こうしてここにいると……遠い話みたいで」
部室が、静かになった。
誰も、否定しなかった。
誰も、肯定もしなかった。
ただ、その感覚を。
全員が、共有していた。
***山田の言葉***
山田が、少し間を置いてから口を開いた。
「……それで、いいと思う」
全員が、山田を見た。
「信じ切れなくて、当然だよ」
山田は、落ち着いた声で続けた。
「普通に生きてきた人間が、あんな体験をして」
「翌週、何事もなく大学に来てる」
「現実的な視点で見たら、信じられない方が……普通だと思う」
広末が、山田を見た。
「じゃあ、山田さんはどう思うの」
山田は、少し微笑んだ。
「僕は……あったと思ってる」
「でも、それを証明しろって言われたら、できない」
「できないけど……」
少し、間があった。
「それでいいんだと思う」
***だから、オカルトなんだ***
祐一が、静かに口を開いた。
「ああ」全員が、祐一を見た。
「だから……オカルトなんだ」
短い言葉だった。
でも、部室の空気が、少し変わった。
「証明できない。信じ切れない。でも、確かに何かがあった」
祐一は、テーブルを見た。
「その、どっちとも言い切れない場所に……僕たちはいる」
「それが、オカルトなんだと思う」
誰も、反論しなかった。
広末が、小さく息をついた。
「……なるほどね」
納得したような。
でも、まだ少しもやもやしているような。
そんな顔だった。
***助かったから***
峯川が、腕を組みながら、ぼそりと言った。
「……同意だ」
少し、間を置く。
「だがな」
全員が、峯川を見た。
「そう思えるのは……助かったからだ」
静かな声だった。
でも、重かった。
「信じられない、夢みたいだ、オカルトだ……全部、俺たちが無事だから言える話だ」
峯川は、窓の外を見た。
「あの山で、誰かが帰れなかったら」
「こんな話は、できていない」
部室が、しんとした。
誰も、口を開かなかった。
峯川の言葉が、ゆっくりと全員に染み込んでいった。
***大変だった***
星川が、静かに言った。
「……今回の調査活動も、本当に大変だったよな」
どこか、遠くを見るような目だった。
「大変、なんて言葉じゃ足りないくらい」
頷く者が、何人かいた。
「俺、帰ってきてから……しばらく、山の夢見てた」
星川は、少し苦く笑った。
「怖くて起きたのか、自然に起きたのか……わかんなくなるくらい」
田村が、静かに続けた。
「俺もだ。あの暗さが、頭に残ってて」
「目閉じると、たまに出てくる」
岡村も、頷く。
「こっちに戻ってきてから、しばらく空を見上げるのが怖かった」
「なんか……あの紫の空が、出てきそうで」
全員が、黙って聞いていた。
言葉にならなかったものが、少しずつ、出てきていた。
***引き寄せられている***
松井あゆみが、湯呑みを持ったまま、ふと言った。
「……私たち」
全員が、あゆみを見た。
「霊的な渦に、引き寄せられているのかしら」
少し、首をかしげるように。
「なんか……気をつけているつもりなのに、気がついたら巻き込まれてて」
「今回だけじゃなくて、これまでの活動も振り返ると」
「妙に、ヤバいことに遭遇することが多い気がして」
全員が、少し考えるような顔になった。
祐一が、静かに答えた。
「ああ……確かに」
少し、遠い目をした。
「危ない事には近寄らないように、気をつけているんだが」
「……何故か、巻き込まれてしまう」
苦笑いとも、困り顔ともつかない表情だった。
「自分でも、なんでだろうって思う」
全員が、沈黙した。
部室に、静かな時間が流れた。
時計の音だけが、聞こえた。
***呪われているんですか***
小川が、おずおずと口を開いた。
「……あの」
全員が、小川を見た。
「それって」
少し、声が上ずっていた。
「僕たち……呪われているんですか?」
一瞬の、沈黙。
誰かが、息を吸った。
誰かが、視線を逸らした。
誰かが、微妙な顔をした。
全員が、答えに迷った。
その空気を読んだように。
峯川が、ゆっくりと口を開いた。
***俺たちのモットー***
「……こういった活動をしていると」
峯川は、腕を組んだまま、静かに言った。
「やっぱり、色々な出来事があって当然だ」
誰も、口を挟まなかった。
「普通の人間が踏み込まない場所に、自分から入っていくんだからな」
「何かに遭遇する確率は……当然、上がる」
峯川は、全員を見渡した。
「呪われているとか、引き寄せられているとか」
「そういう話もあるかもしれない」
少し、間を置いた。
「だがな」
全員が、峯川を見た。
「だから……ヤバかったら引く」
峯川は、静かに、はっきりと言った。
「それが、俺たちのモットーだ」
「記録して、考察して、報告する」
「そして、自分たちの手に負えないと判断したら……迷わず引く」
「プロに任せる。専門家を頼る」
「それだけだ」
部室が、しんとした。
でも、さっきとは違う静けさだった。
重くない。
ただ、静かだった。
小川が、少し息をついた。
「……じゃあ、呪われてはいないってことですか」
峯川が、小川を見た。
「さあな」
短く、答えた。
「ただ……今日もここにいる。それでいいだろ」
小川は、少し考えて。
「……まあ、そうですね」
と、頷いた。
広末が、小さく笑った。
「峯川さんって、たまにすごくまともなこと言うよね」
「たまに、ってなんだ」峯川が眉を上げた。
「いつも言ってるだろ」
「はいはい」
「返事は一回でいい」
笑い声が、部室に広がった。
窓の外に、青空が広がっていた。
ただの、穏やかな青空だ。
今日も、日常は続いていた。
全員が、ここにいた。
それだけで。
今は、十分だった。
購読、ありがとうございました。
色々とバタバタしていて、しばらく更新が停まっていました。




