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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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帰還へ向けて

祐一達は、留まり周辺の調査を行い、帰還の予定だった。

***帰還***


 車のエンジン音が、静かな山道に響く。

誰も、口を開かなかった。

窓の外に、山が流れていく。

青い空。

緑の木々。

何事もなかったような、穏やかな景色。

だが、車内の全員が知っていた。

あの山が、今も静かにそこにあることを。

公会堂が見えてきた。

駐車場に車が停まる。

ドアが開く。

「……戻ってきた」

誰かが、小さく呟いた。

誰の声か、分からなかった。

全員の気持ちだったから。


***再会***


公会堂の扉を開けると。

山田が立っていた。


その顔が、ほっとしたように崩れる。

「無事だったんだ」

「良かった……本当に、良かった」

その声には、隠しきれない安堵があった。

「ああ」

祐一は、小さく頷いた。

「何とかね」

山田は、もう一度全員の顔を確認するように見回した。

十人。

全員、揃っている。


中村真理、広末摩耶、鮎川、織田、田村、岡村達も集まって来た。


「なんとか終わったみたいね」広末が口を開く。


 峯川「まぁな」と素っ気なく答えた。


亜里沙の大学のメンバーたちも、奥から駆け寄ってくる。

「西峰部長!」

「良かった、連絡が途絶えて……!」

「心配しました……!」

亜里沙は、少し照れたように目を細めた。

「大げさね」

だが、その声は柔らかかった。


集会所の奥から、高原会長が歩いてくる。


 高原会長は、静かに、頭を下げた。

「ありがとうございます。これで……静まるといいんですが」

その声には、長年抱えてきた重さがあった。


 祐一は、会長に向かって答える。

「この場所は、色々な問題が蓄積されています。」静かに、話す

「津波の被害。戦の記憶。様々なものが積み重なっています」

「完全に、全ての霊を浄化できたとは言い切れません」


 高原会長の表情が、曇った。

祐一は続ける「ただ、大きな禍根は、断ち切れたと思います」


会長は、もう一度深く頭を下げ「……ありがとうございます」

と、答え、しばらく、沈黙し「様子を見ながら、また、あの場所を復興します」

その言葉には、静かな決意があった。


長い年月、この土地と共に生きてきた揺るぎない、決意が感じられた。



***別れ***


翌朝。空は、よく晴れていた。

寮、春香、陽菜、橘美紀の四人が、荷物をまとめている。

祐一は、集会所の前に立っていた。


「寮さん」声をかける。


寮が、振り返る。

「ありがとうございます」祐一は、頭を下げた。

「今回は……本当に」言葉が、続かなかった。

あの山での出来事が、頭をよぎる。

首の痕。

影。


消えていった無数の何か。

「今回は、けっこうきつかったな」

寮は、短く言った。「でも、解決できてよかった」

「はい」

「ただ」寮の目が、祐一を見る。


「あの存在は居なくなった。だが、油断するな。引き続き、気を付けて調査しろよ」

「……分かりました」

春香が、祐一に近づく。

数珠を、静かに握っている。

三粒、欠けたままの数珠を。「お気をつけて」春香は、微笑んだ。

「また……何かあれば、連絡します」祐一は、頷いた。

陽菜は手を振り「またね、よく頑張ったね」と軽く笑顔で話す。

橘美紀は、祐一を見て「あの山。また、何か変化があれば教えて」


祐一が答える「分かりました」


 寮たちの乗った車は、走り出していった。

遠ざかり小さくなってやがて、見えなくなった。

祐一は、しばらく。その場に立っていた。


***余波***


それから数日。

祐一たちオカルト研究会は、元の集会場へ戻り、その周辺を調査して回った。

浄化と、調査を兼ねて。調査結果は、穏やかな場に戻っていた。


心霊現象は、ほとんど静まっていた。


場所が、呼吸を取り戻しているようだった。


その日の夕方。

集会場の縁側に、数人が腰を下ろしていた。

峯川が、空を見上げながら言う。

「……やれやれ」

誰も、返さなかった。

間があって。「今回は、想像以上にきつかったな」

峯川の声は、珍しく疲れていた。本音だった。


 亜里沙が、静かに続ける。

「私たちの申し出が、こんなことになるなんて、思ってもいなかった」

膝の上で、手を組む。

「でも……」顔を上げた。


「オカルト研究会のみなさんと、寮さんたちのお陰で大きな問題は解決できました」


「また次の調査のときも、協力をお願いします」


その言葉に。祐一が、静かに口を開いた。

「僕たちは」ゆっくりと、言葉を選ぶ。

「ここまでの心霊調査や、解決を……望んでいるわけじゃないんです」

亜里沙が、祐一を見る。


「僕たちには、そんな力はない。。。。今回は、寮さんたちがいたから、何とかなった。。。それだけです」

松井あゆみが、続ける。

「いくらなんでも、ここまで危険な事になるなんて想定外だったわ」

静かな声だった。

だが、はっきりしていた。

「私たちの研究会は、あくまで不思議を研究するのが目的で悪霊と対峙する専門家じゃありません」

広末が、頷く。「本当に……こんなに怖い目に遭うとは思っていなかったね」


祐一がまとめる。「だから、心霊問題に深く首を突っ込むのは辞めたいと思っているんだ」

「僕たちオカルト研究会は、安全第一が方針だからね」


沈黙が落ちた。否定する者は、いなかった。

あの山で見た存在があまりにもおぞまく禍々しいだった。これは、趣味の領域ではなかったと。

峯川が、空を見たまま言う。

「……同感だ」全員が、峯川を見た。

峯川は、続ける。

「俺たちは、記録して、考察して、報告する。それが、活動目的だ」

「祓うのは……専門家に任せよう。自分たちの限界を知ることも」誰も、反論しなかった。

夕陽が、西に傾いている。

空が、オレンジ色に染まっていく。

今度は、紫ではない。

ただの、夕暮れだ。

美しい、夕暮れ。

祐一は、空を見上げた。首に、痛みはない。熱もない。

ただ、静かだ。

「……行こうか」

祐一は、立ち上がった。


「夜ごはんは、どうする?」  


「そうだな、腹が減ったな」と、峯川が答える。

「私も」と、松井あゆみも同意した。

「珍しく意見が合いましたね」と、小川が突っ込みを入れる。


「うるさい」と、峯川が反論する。

笑い声が、小さく広がった。久しぶりの、笑い声だった。

夕陽の中を、全員が歩き出す。


それだけでよかった。夕陽が、山の稜線に沈んでいく。

オレンジが、少しずつ紺へと変わっていく。

「また来ることはあるのかな」誰かが、呟いた。

誰も、答えなかった。全員が、前を向いて。

歩いていた。それだけで今は十分だった。


***それでも***


「それでも私たちにしか出来ない事もあります」亜里沙が話す。

歩みが、少し緩まった。


全員が、亜里沙を見た。

亜里沙は、立ち止まった。

振り返り、全員の顔を見渡す。

「今回の心霊現象に……私たちが関われたのは」

言葉を、選ぶように続ける。

「偶然じゃないと思っています」

誰も、口を挟まなかった。

「最初に高原会長から相談を受けたのも、私たちでした」

「今回調査を決定したのも、私たちでした」

「寮さんたちと繋がれたのも」

「……結果として、この場所に居合わせたのも」

亜里沙は、少し俯いた。

「私たちじゃなければ、この問題に気付く人は、いなかったかもしれない」

「誰も、動かなかったかもしれない」

静かな言葉だった。


でも、重かった。

峯川が、腕を組みながら空を見上げた。

「……否定は、できないな」

祐一も、黙って頷いた。

確かにそうだった。

専門家でもない。

霊能者でもない。

ただの、大学のオカルト研究会。

だからこそ。

垣根なく、あの場所に踏み込めた。

だからこそ。

高原会長の言葉を、真剣に受け止めた。


「怖かった」松井あゆみが、静かに言った。

「本当に、怖かったわ。もう二度と、あんな思いはしたくない」

その言葉に、全員が頷いた。

「でも」亜里沙が、顔を上げる。

「あの土地の人たちの長年の苦しみを、少しでも和らげる事が出来たと思います」

「それは……私たちが、ここにいたからだと思います」

夕風が、ゆっくりと吹き抜けた。

誰も、反論しなかった。

しばらく、沈黙が続いた。

虫の声が、遠くから聞こえ始めていた。

「……行こう」祐一が、静かに言った。

「ご飯にしよう」

「賛成です」と小川が即座に答えた。

小さな笑い声が、夕暮れの中に広がった。


***帰還***

翌朝。

空は、よく晴れていた。

集会所の前に、車が並んだ。

荷物が、積み込まれていく。

高原会長が、見送りに立っていた。

「本当に……ありがとうございました」

深く、頭を下げる。

祐一は「どうか、お体に気をつけて」と答えた。

会長は、頷き、もう一度深く礼をした。

亜里沙のゼミのメンバーたちが、先に出発する。

「部長、また連絡します」

「気をつけて帰ってください」

口々に声をかけながら、車に乗り込んでいく。

亜里沙は、最後に祐一の方を振り返った。

「また……よろしくお願いします」


「こちらこそ」祐一は、頷いた。

亜里沙の乗った車が、走り出す。

砂利道を抜けて、山道へ消えていった。

次に、オカルト研究会の車が出発する準備を整えた。

峯川が、助手席のドアを開けながら言う。

「……帰るぞ」

それだけだった。でも、十分だった。

全員が、車に乗り込む。

エンジンがかかる。

山道を、ゆっくりと下っていく。

窓の外に、山が流れていく。

青い空。

緑の木々。

あの山が、静かに遠ざかっていく。

誰も、振り返らなかった。

でも、全員が感じていた。

あの場所で過ごした時間が、確かに自分たちの中に刻まれていることを。

山道が、平地へと変わっていく。

見慣れた景色が、少しずつ戻ってくる。

「……ただいま」

誰かが、小さく呟いた。

誰の声か、分からなかった。

でも、全員の気持ちだった。

車は、静かに走り続けた。

日常へ向かって。

それぞれの場所へ向かって。



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