表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

146/153

山の霊異譚

祐一達は、悪霊が潜んでいる山に向かう事を決めた。

ここで、一気に悪霊を浄化する事で決着をつけるつもりだった。

***出発***


朝の空気は澄んでいるはずだった。

だが、山を見上げた瞬間、誰もが同じ違和感を覚えた。


山頂付近だけ、白い靄がゆらりと漂っている。

風はない。それでも霧は、まるで呼吸をするように、ゆっくりと膨らんだり縮んだりしていた。


「……晴れてるのに、あそこだけか」

峯川が小さく呟く。


高原会長は腕を組んだまま、険しい顔で山を見ている。

「昔から、あの辺りだけはな。天気と関係なく霧が出る」


祐一は視線を逸らせなかった。昨夜、女の霊が消えた瞬間――天井へ抜けた何か。あれは、あの山へ戻ったのではないか。


「行こう」

寮の声は落ち着いている。だが、その瞳は鋭かった。


車は二台。

先行は、祐一、亜里沙、寮、陽菜、春香。

後続に、峯川、橘美紀、小川、松井あゆみ、星川かせ乗車した。


エンジンがかかる。


山道へ入ると、舗装はすぐに荒れ始めた。昨日も通った道。それなのに――妙に長い。


「こんなにカーブ、多かったかしら?」

亜里沙がぽつりと言う。


寮は地図を確認する。

「同じ道だ。間違いない」


だが、車内の空気は重く感じられた。



カーブを曲がるたび、木々が車窓を擦る。ザザッ……まるで爪で引っ掻くような音が響く。


祐一は無意識にバックミラーを見た。後続車は、いる。だが、一瞬だけ、見えなくなった気がした。


「……」


次の瞬間、普通にそこにある。白い車体。峯川の運転する車。


気のせいだ。そう思い込む。


山道の途中。昨日、悪霊が現れた地点に差し掛かる。全員、自然と口数が減る。


陽菜が小さく息を吐く。

「……まだ、霊気が残っているね」


空気が、ひやりと冷えた。窓は閉めている。それなのに、首筋を撫でるような冷気を感じられた。


後続車から無線が入る。

『問題なし。順調だ』峯川の声だ。だが、どこか遠く感じられた。


 祐一が答える。「了解」


やがて、道は途切れた。山の中腹。ここから先は、車では無理だった。


祐一がドアを開け、地面を踏むと、土が柔らかく感じられた。


「ここから先は歩いて行こう」


全員が頷く。


エンジンが止まり、山は、急に静まり返った。


鳥の声がしない。

風もない。


ただ、遠くで――


カン……


小さな金属音がした。


誰も何も言わなかった。


祐一は山頂を見る。霧が、少し濃くなっている気がした。


それはまるで、こちらを待っているかのようだった。


全員が歩き出す。


昨日と同じ山道。だが、足音がやけに大きく響く。


祐一はふと、気付いた。自分たちの足音は、五つだ。


先頭は五人。

後ろには五人いる。

合わせて十人。


だが。


響いている足音は――


十一人だった。


誰も、そのことに触れなかった。


山は、黙ったまま彼らを飲み込んでいく。



***白い影***


山道を進み始めて、どれほど経ったのか。木々の隙間――ふいに、白いものが揺れた。


「……あれ」


祐一が足を止める。


少し先。細い山道の曲がり角。


白い着物。長い黒髪。背を向けた女が、静かに立っている。


霧は出ていない。だが、その周囲だけ空気が歪んで見えた。


「昨日の……悪霊かも……」


祐一の声は、かすれていた。


寮の目が鋭くなる。


「後を追うぞ」


その一言で、空気が張り詰める。


祐一、亜里沙、寮、陽菜、春香。小走りに山道を進む。


女の姿は、ゆらりと奥へ動いた。歩いているのか、滑っているのか分からない。足元が見えなかった。


「待て!」叫んでも、振り向かないまま先に進む。


後続の峯川たちも、慌てて後を追う。


道は急に狭くなり、崖側の土が柔らかかった。


祐一たち5人が細い道を抜けた、その直後――


ズズッ……


低い音。


「……?」


次の瞬間。


ドォッッ――!!


地面が崩れた。


「うわっっっ!」

「キャーーーっっ!!」


後続の峯川、松井あゆみ、橘美紀の足元が一気に沈む。土砂が滑り落ち、身体を飲み込もうとする。


だが――橘美紀が叫ぶ。


「式神、来なさい!」


白い紙片が舞う。


空中に浮かぶ式神が、崩れた土を押し止める。見えない力が、斜面を固定する。


ギギギ……と嫌な音を立てながら、土の流れが止まった。


数秒の沈黙。


やがて、土煙が落ち着く。


「……やばかった……」


峯川が、荒い息のまま呟く。


祐一は異変を感じ、振り返る。


「大丈夫か!?」


小川と星川も駆け寄る。


「美紀さん! あゆみさん!」


橘美紀は額に汗を浮かべながら頷いた。


「……なんとか。完全に崩れてはいない」


松井あゆみは青ざめている。峯川が肩を貸して支える。


小川が顔を上げる。


「俺たちで救助する! 先を急いでくれ!」


星川も強く頷く。

「ここは任せてください!」


その瞬間。


山の奥で、カン……と音が鳴った。


まるで、何かが石を打ったような。


寮の視線が奥へ向く。


白い着物の女が、まだ見える。少し先で、立っている。


距離は縮まっていない。


「……ここであの霊を浄化しないと」


寮の声は低い。


「僕たちは先に進む。小川くんと星川くんは、美紀たちの救助を頼む」


一瞬の迷い。


だが、時間はなかった。


祐一は女から目を離せない。


「……行こう」


五人は再び走り出す。


背後から、土をどける音が聞こえる。


その音が、妙に遠く感じられた。


亜里沙が小さく言う。


「私たちだけで行って……大丈夫でしょうか?」


不安が滲む声。


寮は前を見たまま答える。


「まずは、あの女性の霊を浄化しないと問題は解決しない」


少しだけ間が空く。


「急ごう」


女は、曲がり角を曲がった。


五人もその後を追う。


だが、角を曲がった瞬間。


女の姿は、消えていた。


代わりに道の中央に新しい足跡が残っている。


裸足の跡。


それは、山頂とは逆方向へ続いていた。


春香の数珠が、カラリと鳴る。


その音は――


なぜか、六回響いた。


五人のはずなのに。


誰も、口に出せなかった。


山は、静かだった。


静かすぎた。



***朽ちた建物***


裸足の足跡は、湿った土の上を真っ直ぐに続いていた。


やがて、木々の間にそれが現れる。


朽ちた木造建築。屋根は崩れ、壁は黒く変色し、蔦が絡みついている。


「……こんな建物があったなんて」亜里沙が小さな声で囁く。


祐一は呟いた。


「隠れ家……だったのか……?」


落ち武者。追われた者たち。最後の拠点。


入口の扉は半開きだった。風はないのに、ギィ……とわずかに軋む。


五人は慎重に中へ入る。


中は薄暗かった。。。床が抜け落ちていた。周囲は妙に冷たく感じられた。


春香が数珠を握る。

「……ここ、嫌な感じがします」


そのとき。


ぼそ……


誰かが、すぐ背後で呟いた。


「……たすけて……」


祐一の背筋が凍る。


「……助けて……」


若い女性の声。か細い。震えている。


祐一は振り返る。


そこに、立っていた。


白い着物。だが、昨夜の女とは違った。


若い。青白い顔。涙を流している。


「大丈夫ですか……?」


祐一は思わず声をかけた。


その瞬間。


女の顔が歪んだ。


目が、黒く染まる。


口元が裂けるように広がる。


次の瞬間――


冷たい手が、祐一の首を掴んだ。


「――ッ!!」


息が止まる。


氷のような指。異様な力。


足が床から浮きかける。


声が出ない。


喉が潰れる。


視界が暗くなる。


耳鳴り。


その奥で、女が囁く。


「……どうして……」


「……どうして、来たの……」


「祐一!!」


亜里沙の叫び。


印を切る。


「破邪――!」


霊光が弾ける。


女の身体が、光に包まれる。


ギィィィィ……という、金属を引き裂くような音。


次の瞬間、女の姿は霧のように崩れた。


祐一は床に落ちる。


「ゲホッ……ゲホッ……!」


激しく咳き込む。


首が焼けるように痛い。


陽菜が駆け寄る。


「見せて」


祐一の首筋には、くっきりと五本の指の痕が残っていた。


赤黒く、皮膚が変色している。


春香が震える声で言う。


「……あの霊、昨夜の女とは違います」


寮は周囲を見回す。


「……違う」


静かな声。


「今のは、、、」


そのとき。


床に残っていた裸足の足跡が――


消え始めた。


まるで、水に溶けるように。


亜里沙が顔を上げる。


「……この場はおかしい。。。」


陽菜が、目を細める。


「さっきの声……」


祐一が、ゆっくりと言った。


「……僕だけに聞こえていました」


沈黙。


次の瞬間。


建物の奥から、ゆっくりと、床を擦る音がした。


ズ…………


五人は、同時に視線を向ける。


廊下の奥は、暗い。


何も見えない。


だが――


確実に、何かがいる気配が広がった。


祐一の喉が、ひりつく。


さきほど消えたはずの声が、今度は建物全体から囁いた。


「……まだ……終わっていない……」


そして、その声は、五人の中の誰かの声とよく似ていた。



***囲い***


廊下の奥の闇が、わずかに揺れた。


寮が一歩前に出る。


「霊光弾」


低い声。


放たれた霊光が炸裂し、闇が弾ける。


耳を刺すような悲鳴。


空気が一瞬、震えた。


そして静寂が広がった。


寮は目を細める。


「……浄化した」


だが、その言葉に確信はない。


祐一の首の痛みは、消えていなかった。


むしろ、じわりと熱を持っている。


亜里沙が呟く。


「今のは……」


寮が周囲を見回す。


壁。天井。床。


「……これは、罠か」


その瞬間。


外から音がした。


ザッ……


ザザッ……


五人は同時に振り向く。


入口の隙間から見える木々の間。


白い影が、立っている。


一体ではない。


二体。


三体。


目を凝らすと、それは人影だった。


白い着物。


動かない。


ただ、建物を囲むように立っている。


春香が小さく息を呑む。


「……増えてる……」


陽菜が目を閉じ、感知する。


次の瞬間「囲まれてる」



寮が外へと踏み出した。


空気が重く感じられる。



外へ出た瞬間――


景色が、変わっていた。


さっきまで見えていた山道がない。


車を停めたはずの方向が分からない。


木々の配置が違う。


建物の周囲には、円を描くように白い女たちが立っている。


顔は見えない。


全員、うつむいている。


「……完全に囲まれているな」寮の声が響く。


祐一の喉が焼ける。


さっきの女は、囮だったのか。


ここへ入るための。


白い影の一体が、ゆっくり顔を上げた。


その顔は、さっき浄化したはずの、あの若い女だった。


だが、口元が裂けている。


目は、真っ黒だ。


そして、同時に、全ての白い影が囁いた。


「……どうして……」


「……どうして……」


「……どうして……」


声は、重なり、歪み、やがて五人の声に変わる。


祐一の声。


亜里沙の声。


春香の声。


「……どうして、助けてくれなかったの?」


祐一の心臓が強く跳ねる。


助けてくれなかった?


誰を?


そのとき。


建物の背後で、土が崩れる音がした。


ドサッ――


振り向く。


そこに、峯川の姿が立っていた。


泥まみれで、無表情で、こちらを見ている。


「……お前たち」


声が、低く響いた。


「先に行くなって、言ったよな」


陽菜が震える。


「……違う」


「あれは……峯川じゃない」


峯川の首が、ゆっくりと、ありえない角度に傾いた。


パキ……と音がする。


建物の周囲の女たちが同時に前へ出た。


逃げ道はない。


空気が、濃くなる。


寮が小さく呟く。


「……ここは、空間ごと閉じられている」


祐一の首の痕が、じわりと黒く滲んだ。


まだ、何も終わっていない。


いや――


ここからが、本番だった。



***転位***


白い影たちが、一歩踏み出したその瞬間――


突如。


周囲の空気が震えた。


ボソボソボソボソ……


低い声。


一人ではない。


十でもない。


何十、何百という声が、地面の下から、木々の間から、空から、同時に響き始めた。


それは呪文だった。


古い。


聞き取れない。


だが、意味だけが脳に直接流れ込む。


「封じよ」


「縛れ」


「繋げ」


「戻すな」


霧が、一気に濃くなる。


視界が白に染まる。


冷気が肺を刺す。


祐一の耳鳴りが激しくなる。


足元が消える。


地面が遠ざかる感覚。


落ちる――?


いや、違う。


引き剥がされる。


身体が、何か"から、剥がされる。


陽菜が叫ぶ。


「これ……空間転位じゃない!」


寮が歯を食いしばる。


「次元が……重なっている……!」


霧の中で、白い影たちの姿が滲む。


だが、その姿が変わっていく。


着物が裂け、鎧の残骸が現れ、兜の割れ目から黒い霧が漏れ出す。


落ち武者。


いや――


それだけではない。


首のない影。


腕のない兵。


腹を裂かれた女。


無数。


祐一の足が、再び地面を踏む。


だが感触が違う。


硬い。


湿っている。


霧がゆっくりと晴れた。


そこは――


朽ちた建物ではなかった。


建物はある。


だが、壊れていない。


新しい。


灯りが灯っている。


夜ではない。


空は赤い。


血のように。


五人は、同時に理解する。


「……ここは……」


春香が震える声で呟く。


「……あの日」


建物の奥から、悲鳴が響く。


「逃げろ!!」


男の怒号。


刃の音。


ドンッ――!


扉が内側から蹴破られる。


武士姿の男が飛び出してくる。


その背後から、矢が胸を貫いた。


血が飛ぶ。


だが――


その血は地面に落ちない。


空中で止まる。


時間が、歪む。


祐一の視界が揺れる。


背後で、先ほどの白い女が立っている。


だが今度は、若い。


生きている。


彼女は、五人を見ている。


まるで――


最初から、知っていたかのように。


女が口を開く。


「……やっと、来た」


ゾッとする。


「……何百回も、やり直したのに」


寮が低く言う。


「……繰り返しの結界」


陽菜が息を呑む。


「私たち、招かれたんじゃない」


亜里沙が小さく呟く。


「……組み込まれた」


その瞬間。


祐一の首の痕が、熱を帯びる。


黒い紋様が広がる。


そして、彼の口が――


意思とは関係なく、動いた。


「……今回は、成功する」


自分の声。


だが、違う。


全員が凍りつく。


霧の奥で、何百もの影が一斉に振り向いた。


空が、さらに赤く染まる。


この場所は過去か?


それとも、過去を喰らう何かの内部なのか?


祐一の目が、一瞬だけ黒く染まった。




 購読、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ