悪霊の誘い
寮たちは海辺の調査と浄化を終え、前の拠点、集会所へつ向かった。
***海辺の平穏***
「ふー。」陽菜が、一息呼吸おいて続ける。
「……今日は、これくらいにしておいたほうがいいわね」
寮も、周囲を見回してからうなずく。
「ああ。一旦、引き上げよう。封印も終わったし、これ以上無理をする必要はない」
祐一たちも、ほっと息をついた。
春香が微笑む「みなさん、お疲れ様でした」
六人は、慎重に洞窟を後にし、来た道を戻り始めた。
***最初の拠点・集会所***
車で移動し、最初に拠点としていた集会所へと向かった。
到着すると、特別変わった様子も無かった。
祐一が
「ここも休憩場所として使えるかな」
春香が周囲を見渡して
「ここの結界を再強化しましょう」
橘美紀が「私もお手伝います」と答える。
祐一が少し、驚いたように
「春香さんと橘さんの力だったら、心強いです」と答えた。
***結界の再強化***
春香と美紀は、集会所の四隅へと向かった。
それぞれの場所で、札を貼り、霊力を込めていく。
春香が、静かに詠唱を始める。
「……天地四方、守護の光よ。
この地を清め、邪なるものを退けたまえ……」
美紀も、別の角で同じように呪文を唱えた。
やがて、四隅すべてに結界が張られる。
目には見えないが、確かに空気が変わった。
小川が、感嘆の声を上げる。
「すごい……なんか、空気が軽くなった気がする……」
「本当ですね」亜里沙も、驚いた表情でうなずく。
春香が、満足そうに微笑んだ。
「これで、少しは安心できると思います」
***重い気配***
集会所から帰る間際、寮が車に乗り込もうとしたとき――
ふと、足を止めた。
「……待て」
全員が、動きを止める。
陽菜が、眉をひそめる。
「どうしたの?」
「……重い気を感じる」
寮は、ゆっくりと周囲を見回した。
「あっちだ」
寮が指差した方向には、木々に隠れるようにして、古い建物が見えた。
廃墟になった家だ。
祐一が、息を呑む。
「あんなところに……家が……」
「行ってみよう」
寮は、すぐに歩き出した。
他のメンバーも、警戒しながら後に続く。
***廃墟の調査***
廃墟に近づくと、その荒廃ぶりが見て取れた。
壁は崩れ、屋根は半分以上が落ちている。
窓ガラスは割れ、扉は外れて地面に転がっていた。
陽菜が、警戒する。
「……何か、いるの?」
「わからない」
寮は、慎重に建物の周囲を歩き始めた。
春香、美紀、陽菜も、それぞれ別の方向から調べていく。
祐一、亜里沙、小川は、少し離れた場所で警戒を続けた。
しばらくして――。
橘美紀が、首を傾げる。
「……おかしいですね」
「何が?」寮が尋ねる。
「重い気配は確かにあったんですが……今は、何も感じません」
春香も、うなずく。
「私も同じです。霊的な存在は……今は、いないみたいです」
陽菜が、建物の中を覗き込む。
「逃げたのかしら? それとも……」
「念のため、清めておきましょう」
春香は、そう言って建物の前に立った。
そして、静かにお経を唱え始める。
その声が、廃墟全体に響き渡った。
数分後――。
春香が、お経を唱え終える。
「……これで、この場も清められました」
寮は、建物をもう一度見回してから言った。
「ここも、封印の影響を受けていた場所の一つなのかもしれないな」
***判断***
寮は、腕を組んで考え込んだ。
「……この調子で、一つ一つ浄化していくのも手だけど……
肝心の、あの女性の亡霊を見つけ出すのは難しいな」
陽菜が、同意する。
「ええ。相手が動き回っているなら、後手に回るだけよ」
春香も、不安そうに呟く。
「彼女は……何を求めているんでしょうか……」
沈黙が流れる。
やがて、寮が決断した。
「一旦、引き上げよう。
今日はもう十分だ。明日、改めて作戦を練り直す」
「わかりました」
祐一たちも、うなずいた。
***追跡***
六人が車に乗り込み、新しい拠点の集会場へと向かおうとしたとき――。
小川が、窓の外を指差した。
「あっ……! あれ……!」
全員が、視線を向ける。
道路の脇に、黒い影が揺らめいていた。
悪霊だ。
しかし、それはすぐに移動し始めた。
まるで、誘うように――。
寮が、すぐにハンドルを切る。
「追うぞ……!」
車が、急発進した。
悪霊の影は、道路沿いを移動し続けている。
寮は、慎重にスピードを上げながら、その後を追った。
「逃げるのかしら……?」
陽菜が、疑問を口にする。
「いいえ……」
春香が、真剣な顔で答えた。
「逃げていません……誘い込んでいるんです」
その言葉に、全員の表情が引き締まる。
***山道へ***
悪霊の影は、やがて山道へと入っていった。
車も、それを追って山道を登り始める。
道は次第に狭くなり、木々が両脇に迫ってくる。
祐一が、腕時計を見る。
「……もう、夕方が近い……」
空は、すでにオレンジ色に染まり始めていた。
亜里沙が、不安そうに呟く。
「大丈夫でしょうか……?」
小川も、緊張した面持ちで周囲を見回す。
「なんか……嫌な予感がする……」
寮が、ハンドルを握りながら言った。
「もしかして……誘い込まれた……?」
その瞬間――。
前方の悪霊の影が、ぴたりと止まった。
そして――。
ゆっくりと、振り返った。
影が、車のほうを見ている。
まるで、確認するように――。
次の瞬間。
影は、一気に加速し、山の奥へと消えていった。
寮は、すぐに車を止めた。
「……ここまでだ」
陽菜が、窓の外を見る。
「どうするの? 追う?」
「いや」
寮は、首を振った。
「夕暮れ時に、山の奥へ入るのは危険すぎる。
しかも、相手は明らかに僕たちを誘導している」
春香も、うなずく。
「罠の可能性が高いです」
美紀が、静かに言った。
「でも……これで、彼女の居場所の目星はついたんじゃないでしょうか?」
寮は、山の奥を見つめながら答えた。
「ああ。おそらく……あの山の中に、彼女がいる」
祐一が、緊張した声で尋ねる。
「どうしますか……?」
寮は、しばらく考えてから――。
ゆっくりと車を後退させ始めた。
「今日は引き上げる。
明日、朝から……準備を整えて、山へ入る」
陽菜が、少し不満そうに言う。
「逃がしていいの?」
「今追っても、危険すぎる」
寮は、きっぱりと答えた。
「相手の土俵で戦うのは愚策だ。こちらが有利な状況を作ってから、挑む」
車は、ゆっくりと山道を下り始めた。
夕日が、山の稜線に沈もうとしていた――。
***引き返す途中***
車が山道を下る中、亜里沙が疑問を口にした。
「どうして……あんな事をしたんでしょうか?」
寮は、ハンドルを握ったまま、前を見つめて答える。
「いや、分からない。ただ……僕たちを誘い込もうとしていた」
陽菜が、腕を組んで言う。
「罠を張るつもりだったのかしら」
「おそらくな」
寮は、静かに続けた。
「どちらにしても、引き返そう。今は、無事に戻ることが最優先だ」
祐一も、うなずく。「そうですね……」
***障害物***
その時――。
前方の道に、何かが横たわっているのが見えた。
寮が、すぐにブレーキを踏む。
車が、急停止した。
「……木だ」
小川が、窓から身を乗り出して確認する。
「倒れてる……道を完全に塞いでますね」
寮は、ため息をついた。
「さっきまでは、なかったはずだが……」
春香が、不安そうに呟く。
「もしかして……」
「ああ。おそらく、僕たちを足止めするためだろう」
陽菜が、苛立った様子で言う。
「やっぱり、罠じゃない」
小川が、車を降りながら言った。
「仕方ない。木を切って、取り除こう」
そう言って、車の後部に積んであったツールボックスからのこぎりを取り出す。
「僕と部長、それと、寮さんで交代で木を切ろう」
祐一も、車を降りて続ける。
「他のみんなは、車で待機してくれ」
春香が、心配そうに言った。
「分かりました。気をつけてください」
亜里沙も、車を降りながら答える。
「私は、車の周囲を清めます」
「頼む」
寮は、のこぎりを受け取ると、すぐに作業を始めた。
***木の撤去作業***
三人は、交代で木を切り始めた。
ギシギシと、のこぎりの音が山道に響く。
祐一が、汗を拭いながら呟く。
「けっこう……太い木ですね……」
「ああ。時間がかかりそうだ」
寮も、息を切らせながら答えた。
小川が、周囲を警戒しながら作業を続ける。
「早くしないと……日が暮れちゃいますね」
一方、亜里沙は車の周囲に護符を配置し、静かに浄化の術を唱えていた。
春香と美紀、陽菜は、車の中から周囲を警戒している。
時間が過ぎていく。
10分、20分、30分――。
ようやく、木が切断され、道の脇へと押しやられた。
祐一が、大きく息を吐く。
「……やっと……終わった……」
「お疲れ様」
小川も、疲労困憊といった様子だ。
寮は、のこぎりをツールボックスに戻しながら言った。
「よし。急いで戻るぞ」
全員が、再び車に乗り込む。
車は、再び山道を下り始めた。
***集会所・異変***
その頃――。
他のメンバーたちが待っていた集会所では、新たな異変が現れ始めていた。
峯川が、窓の外を見ながら呟く。
「……なんか、変だな……」
松井あゆみが、不安そうに尋ねる。
「どうしたの?」
「いや……外が、妙に暗い気がする」
広末も、窓に近づいて外を確認する。
「本当だ……まだ夕方のはずなのに……」
星川が、時計を見る。
「時間は……まだ、そんなに遅くないはずなんだけど……」
その時――。
突然、結界が微かに震えた。
全員が、はっと顔を上げる。
「今の……!」
広末が、緊張した声で言う。
峯川が、すぐに札を手に取る。
「結界が……反応してる……!」
松井が、震える声で尋ねる。
「何かが……近づいてるの……?」
外の空気が、次第に重くなっていく。
まるで、何かが集会所を取り囲んでいるかのように――。
星川が、護符を握りしめながら呟いた。
「……早く……寮さんたち……戻ってきて……」
静かな恐怖が、集会所を包み込んでいった――。
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