酩都炎上、そして(前編)
15年前ーーーー。
「友よ……ウチは、この子を立派な魔王にしてみせるでありんす。それが……あんさんへのせめてもの罪滅ぼしでありんすから……」
そして現在。
光など何ひとつない、埃の積もる部屋でひとりゼーエンは目を覚ました。
これまでの長い時の中、『本物』の彼女はこの場所から身動きひとつせずに分身を送り続けて行動していたのだった。
しかし、弦月の森が危機に陥った今、ゼーエンはある決断を下すために立ち上がったのだ。
「さぁて……いてて、流石に歳には勝てないでありんすなぁ……とかく、急ぐでありんす」
その頃、泉ではレイレスたち5人と『栄光の七騎士』の3人との戦闘の最中、エンツィアの駆るグラナトロイが胸部装甲に矢が被弾。あわや生死の危機にあった。
『そんな……エンツィアさん!!』
自らの放った矢が仲間に当たり焦るシェフレラ。
しかし、グラナトロイは両手の剣を手放すと、矢の刺さった胸部装甲を掴んで力任せにそれを剥がして投げ捨てた。
『クっ……ソ!!』
矢は確かに装甲を貫いていたものの、操縦席に乗るエンツィアには直撃していなかった。だが、その頭部からは飛び散った破片によって傷付き血が流れていた。
それを見たレイレスは、乗り手の姿に驚く。
『子供……?』
(そんな……歳だって俺たちとそんな変わらないじゃないか!!)
『だからなんだってんだよ……ッ!!』
エンツィアは痛みに頭を押さえるも、それ以上にレイレスの言葉が許せず怒りをぶつける。
『俺を騙す……?何のために!!何で俺の仲間がそんな事を……適当な事言うな!!』
エンツィアは怒りに任せてエヴィルドライを踏みつける。
『くっ……!!』
『ああそうだ!!俺を油断させるために騙そってんだな!!卑怯だぞ!!』
『じゃあアンタはその目で見たのか!!避難していく人たちを……アンタは、何も見ずに火を付けたのか!!』
『そんなの、そんな事……!!』
言葉に詰まるエンツィア。それをチャンスと捉え、エヴィルドライはグラナトロイの脚を掴んで払い、倒れた隙を突いて立ち上がった。
『がっ!!』
『エンツィアさん!!』
『エルンテ』を構えるシェフレラ。しかし、目の前にエヴィルピクシーとエヴィルスプライトが立ちはだかり妨害される。
『そこ退いて!!エンツィアさんを助けなきゃ……!!』
『水を挿してはなりません』
『魔王様は手を出しません』
『何を根拠に!!』
しかし、シュメッタとシュメッテの言った通りに2人はただ睨み合うだけであった。
暫し硬直状態になる戦場。
その時、何を思ったかエヴィルドライの頭部からレイレスが姿を現して見せた。
『なっ……子供……!?しかも、さっき建物に居た……!!』
驚いたエンツィアは思わず操縦席から身を乗り出す。
『レイレス!?』
『王子、いったい何を……!!』
「2人とも、ここは僕に任せてくれないか?」
『しかし……』
レイレスを案ずるヒューゲルとネーゲル。だが、レイレスは何も言わずにエンツィアを鋭い眼差しで見つめる。
そうして黙って生身で向かい合う2人だったが、先にレイレスがその沈黙を破った。
「……頼む、ここは素直に引いてくれないか。僕だって誰彼と無闇に殺したくはないんだ」
「ぼ、僕……?いや、そうじゃないな……違う、違うんだ……ああもう!!」
混乱極まるエンツィア。ヤケになって何度も操縦席のモニターを叩いた後に、荒げた息を整える。
「はあ……はあ……訳わかんないよ、何もかも!何が本当のことで、何が嘘っぱちなんだ……!!」
「じゃあその目で見たらいいじゃないか……まだ間に合うかも知れない。犠牲になった人たちを除いてね」
しかめ面で睨み付けるレイレス。その眼光にエンツィアは冷や汗が止まらなくなる。
「な……そんな、訳が……だって俺、レンシア先輩が全員逃したって……樹々で見えなくて分からなかったんだ!!知らなかったんだよ!!」
「だったら目を逸らすなよ!!言い訳している暇があんのかよアンタは!!」
怒鳴りつけるレイレスだったが、後ろでは再びシェフレラのアハートロイが『エルンテ』を構える。
『あなたたちの言い分は分かりました。その言葉を信じるかどうかはこっちで決めさせてもらいますけれども』
内心焦りつつも、負けてはいけないとシェフレラは勇気を振り絞りエンツィアを庇う。
アハートロイはゆっくりとグラナトロイの前まで歩み寄る。それを更に守るようにモリオントロイも横から出てくる。
「頼む、ここは素直に引いて欲しい」
『引いて、我々に得はあるのですか?』
「少なくとも……これ以上彼は戦えない。僕も戦いたくはない」
「っ……!!」
それを聞いたエンツィアは操縦席へと再び乗り込み、『ファキュラ』と盾の剣を手に取りエヴィルドライへと差し向ける。
『ナメるな……!!七騎士の俺がこの程度で!!』
「お前……ッ!!」
その声色から彼が強がっているのは明らかだった。しかし、レイレスはその物分かりの悪さに再びエヴィルドライへ乗り込んだ。
しかし、差し向けられたその剣はゆっくりと下ろされる。
『でも……アンタの言う通りだ。俺は自分の目で確認せず、無闇に火を付けた……だけど』
エンツィアは『酩都』の方へ機体を向ける。
『もし出まかせだったら今度こそ容赦ないからな』
そして振り返らずにそう残し、七騎士の3機は泉から消えて行った。
レイレスたちはその姿を黙って見送る。そして……。
『よし……今のうちに結界を張ろう。他の事はその……後……ッ』
そう言ってエヴィルドライに魔力を充填し始めるレイレス。しかし、突然崩れ落ちて合体が解除されてしまう。
その瞬間にシュメッタとシュメッテは即座に飛び付き、倒れそうになるエヴィルアインを抱える。
『ぐっ……流石に合体の時間が長すぎたか……!!』
『申し訳ありません……我々がもっと配慮して特訓を施していれば……』
『本来であれば、特訓を済ませてから時間を置く筈だったのです……』
申し訳なさそうに謝罪する2人。レイレスは息が上がりつつも、首を横に振って謝罪を受け入れる。
『いいや、仕方ない。これは不測の事態だったんだ。それよりも、今はどうにか現状を……』
「その心配は必要ないでありんす」
すると、泉の麓の方向から聞き慣れた声が聞こえて来る。
皆がその方向を見ると、そこには表情の見えなくなるくらいに頭まで白い布を被った、手に深い皺のある老婆の姿があった。
『ゼーエン様……!!』
『目を覚まされていたのですか……!!』
『ゼーエンさん?あれが……?でも、だってありゃあどう見ても……』
レイレスは困惑するが、それを他所にゼーエンはさっさと話を進めて行く。
「とにかく今は坊らは森から出るでありんす。ここに居ても今の坊じゃ結界は張れはしないでありんしょうから」
『で、でも……!!』
「なぁに、ちと労は要するでありんすが、念の為第二案がありんす。坊たちは何も気にせずに立ち去るでありんすよ」
そう言って泉の中の方へと歩みを進めるゼーエン。訳も分からずにレイレスは呆気に取られていると、横からエヴィルピクシーとエヴィルスプライトがエヴィルアインを抱えて飛び立つ。
『お、おい!!ちょっと待ってくれよ!!』
『問題ありません。後の事はゼーエン様に任せて大丈夫です』
『心配ありません。お付きの2人は既にこの通り回収済みです』
エヴィルピクシーとエヴィルスプライトの脇には、確かにエヴィルファルケとエヴィルウォルフが抱きかかえられていた。
乗っているヒューゲルとネーゲルは、分離の衝撃と疲労で気を失っているのか全く反応を示さない。
『でも……ゼーエンさん置いて行っていいのかよ!!森だってまだ燃えて……』
彼らが飛ぶ目下では、森の木々が広がる火の手を受けている。
本来であれば、これを止めるのは自分の責であった筈なのに、と……。
しかし、ここにいる者はその事を何一つ責めはしない。何故なら……。
『あなたは我々の王なのです。魔王のいない宵ノ国など、あってはなりません』
『あなたはこの国のために生きるのです。それが、ゼーエン様と、あなたの母の託した思い……』
『ゼーエンさんと、母さんの……』
彼らは燃える森を憂い、後ろ髪を引かれる思いでこの場を後にするのだった。
その頃、『酩都』での激戦……。
『く……ッッッ!!』
『あっハハハ!!カスが、無駄な抵抗をするから苦しんで死ぬことになるのだよ!!』
灼熱の炎に囲まれた『酩都』の大通りでは、トパーズトロイ1機に対し大勢のゴーレムライダー隊のゴーレムが撃破され、ボロボロの姿を晒していた。
それはホルンのタンカーチャリオッツも例外ではなく、装甲は歪んでしまい、背面の砲身も折れており、更には左腕は欠落してしまっていた。
しかし、彼も、彼のゴーレムも未だ諦めてはいなかった。
『無駄……か……!!否ッッッ!!決して無駄などではァないのであァアる!!』
『今更強がりか?それとも死ぬ覚悟が決まって頭でも湧いたか?』
『そんなものッ……死ぬ覚悟など、最初から出来ていたのであァアる!!そもそもォ我々では騎士の機械に勝てないのはァ承知だったのであァアる!!』
『なら何故立ち向かってくる?やはり獣種の魔族は頭がカラッポなのか?』
揶揄するランタナだったが、ホルンの目付きは真剣だった。
『王を護る事……国を護る事……それが我々ゴーレムライダーの使命ッ!!例え勝てぬ相手と知っていようがッ、決して恐れぬと誓ったのであァアる!!それに……』
タンカーチャリオッツが足元に落ちた左腕を拾い上げると、ホルンは情熱の籠った眼差しでそれを見つめる。
『我々民が王に頼りきりになるなどッ……矜持が立たんのであァアるッッッ!!』
そして、その左腕をトパーズトロイ目掛けて豪速球で投げつけた。
『はっ、やはりバカだったか。弱者風情が護るなどいきがりおって』
しかし、当然そんなものは軽く振り払いあしらわれてしまう。
そして……そのまま振り下ろされた『ヴート』の一撃を受けてしまう。
『振り下ろしたな愚か者がァアッ!!』
『まだ強がるか?』
『キサマ、忘れているようだァなあァア!!タンカーチャリオッツがッ、大砲を背負っている事をなァア!!』
そう言うとタンカーチャリオッツは『ヴート』を必死に掴む。そして、ホルンは大砲の装填部にありったけの火薬と砲弾を詰め込むと、一滴の躊躇もなく導火線に火を付けた。
『あばよ相棒ッッッ!!地獄でまた会うのであァアる!!』
そして、導火線が火薬に引火し、激しい爆発が起こった。
へし折られてひしゃげた砲身からは弾が発射される事はなく、代わりに詰め込まれた砲弾がありったけの火薬による爆発と共に飛び散る。
勿論、それにゴーレムが耐えられる筈もなく、トパーズトロイの目の前で粉々になってしまった。
『なっ……があァァァッ!!』
同時刻、エンツィアたち3人は燃える森を彷徨っていた。
『はあ……はあ……』
『ちょっと、エンツィアさん!どこまで行くんです!!』
『…………』
辺り一面、赤……。
赤……。
赤…………。
木々に光を遮られた森は、唯一の光源である炎の光を一面に広げて真っ赤に染め上げていた。
その炎の海の景色に、エンツィアの心臓が激しく高鳴る。
(これが……これが俺のやった事なのか……?火って、こんなに早く燃え広がるもんなのか……?)
やがて、3人の目の前に広い空間が見えてくる。その空間も、愛も変わらず赤く染まっていた。しかし……3人はそれを見て驚愕する。
『あ……ああ……っ!!』
そこには、死屍累々の景色が広がっていた。
燃え盛る炎に逃げ惑う者。倒れた建物や木々の下敷きになり、炎から逃げられずに燃えながら身悶えする者。何か分からない赤黒い塊……。
人それを『地獄絵図』と言う。
更に、グラナトロイの胸部装甲が破損している事により、焼けた木や血肉の臭いがエンツィアの鼻の奥へと突き刺していく。
『…………』
『まさか……本当にまだ人がいたなんて……!』
『あぁ……ああぁ……っ……うわああああぁぁぁ!!!!』
宜しければご評価、ご感想いただけれは幸いです。
読んでいただきありがとうございました!
後編もお楽しみください!!




