混沌!!『影』の暗躍(後編)
森の都『酩都』では、未だ激しい戦いが続いていた。
『おゥらッ!!』
トパーズトロイのハルバード形態の『ヴート』による振り払いにより、ゴーレムライダー隊のゴーレムを一掃していく。
『ぐわあアアァァ!!』
『な、なんのおオオォォ!!』
そんな中でも、ホルンのタンカーチャリオッツを装備したゴーレムだけは武装の総重量によってどうにか耐えていた。
『そんなオモチャでよく戦えるものだな!!』
『タンカーチャリオッツはオモチャなどォではァなァアい!!今まで踏み潰されてきたゴーレムの血涙とライダーたちの汗の結晶なのォであァアる!!』
『そんなショボショボの結晶、ガキ向けの指輪にすら安すぎるね!!むしろ価値を測る事すら阿呆らしい!!』
再び『ヴート』が振り回されると、竜巻と見まごう程の風が巻き起こり、その中心から雷が発生して飛び散りながらゴーレムたちを襲う。
そしてそれが付近の木造物に撒き散らされ、新たな火災の火種となってしまう。
『く、クッソォオ!!ヤツの相手をしていては火が消せない!!』
『何も問題なァアいのであァアる!!タンカーチャリオッツはァアあ!!こんなそよ風など動じないのォであァアる!!』
ホルンが鞍のレバーを倒すと、タンカーチャリオッツの背部から2本の棒が展開し、更にそれが伸びて地面に突き刺さり支えとなる。
『砲おォオ撃いィイ!!撃ちィイ方あァア!!』
『無駄だ無駄だ!!』
竜巻が更に激しくなる。しかし、タンカーチャリオッツはびくともしない。
ホルンは心血を注いだ技術によって獲得された安定感に心置きなく集中し、狙いを定めて大砲に点火する。
『射あァアッッッ!!!!』
そして、放たれた弾は真っ直ぐにトパーズトロイの握り手へと向かい直撃した。
『馬鹿なッ!?』
手痛い一撃を受けて体制を崩すトパーズトロイ。それを見届けたタンカーチャリオッツは支えを引き抜いて再び背部へと収納する。
『若造がァア!!このホルンが、ゴーレムライダー隊随一の射撃のプロであァアる事を知らぬなァ!!竜巻の目を狙って撃つなどォ造作もないのでェあァアる!!』
『知るかボケ魔族が!!』
トパーズトロイは立ち上がり、もう一度『ヴート』を握り直す。だが、その間にタンカーチャリオッツに間合いへ近付かれ、マジックハンドによって握り手ごと掴まれてしまう。
『チェック……であァアる!!』
『そいつは……どうかなぁッ!!』
トパーズトロイは掴まれた握り手を引き寄せると、そのまま振り下ろして掴んでいたタンカーチャリオッツを地面に叩きつける。
『なっッあァア!!』
『忘れるなよ……キサマらの目の前に立っているのは、『栄光の七騎士』の最新鋭機と言う事をなァ!!』
時を同じく、エヴィルドライとエヴィルピクシー、エヴィルスプライトはグラナトロイ、アハートロイ、モリオントロイの連携攻撃に苦戦を強いられていた。
『てェやッ!!』
『くっ!!』
『栄光の七騎士』の3機は円陣を組み、3機のエヴィルを逃がさないように取り囲んでいた。
『まさか人族の機械が……』
『これ程までに手強いとは……』
シュメッタとシュメッテは円陣の隙間から抜け出そうと試みる。
『逃がさないっ!!』
『…………!!』
しかし、アハートロイとモリオントロイが回り込み退路を塞ぐ。そしてそこにグラナトロイが入り込んで空いた隙間を補填する。
『ちぃィ!!しつッこいんだよ!!』
『悪いね!!2度も敗れるわけにはいかないんでね!!』
刃を交えるエヴィルドライとグラナトロイ。素早い振りで手数を増やしつつ攻めるエヴィルドライに対して、グラナトロイは二刀流を駆使してそれを全ていなしていく。
『さあどうした!!この程度じゃあないだろ!!』
エヴィルドライの剣を跳ね返した瞬間の隙を狙いグラナトロイはもう一方の剣を突き出す。
『くっ……!!』
それをエヴィルドライは身を翻してどうにか交わすも、剣は胸部のエヴィルファルケの頭を掠る。
その一瞬、乗っているヒューゲルを庇うよう胸に手を当てたのを更に攻め立てられる。しかし、それを手で払って再び剣を構えて体制を整える。
(くっ、剣の腕ではあっちのが上……振りを細かくしていればどうにか対等に戦えるけど、破壊の力を込めるには隙が無さすぎる……!!)
『どうしたよ!!全然動きが鈍いよ!!』
グラナトロイは二振りの剣で『ツェアシュテールング』を受け止めると、それを弾いてエヴィルドライの胴体に蹴りをお見舞いする。
『っがぁっ!!』
エヴィルドライはそのまま吹き飛ばされ、全身を泉に打ち付け派手に飛沫を上げた。
『隙ありだ!!』
エヴィルドライが立ち上がろうと身を起こしたその時、グラナトロイが翼を足で押さえ付けるように立ち『ファキュラ』を突きつける。
『くぅ……っ』
『一生動くなよ!じゃなきゃタダで済まないからな!!』
『アンタら……自分たちがやっている事が分かっているのか!?』
唾を飲み、冷や汗を垂らしながらも問うレイレス。しかし、エンツィアはニヤリと笑って返した。
『へっ、そんなの分かりきってら!!大義だよ!悪しきを正すための大義……そっちこそ、こんな場所で兵器なんか隠し持ってちゃダメだろ!!』
『こんな場所だからこそ!!……なんで機械で乗り込んで来ちゃうんだよ……っ!!』
エヴィルドライは『ファキュラ』の剣先を掴み、ゆっくりと押し返していく。
『っ……!!』
エンツィアは言いようの無い覇気に戸惑うも、負けじと『ファキュラ』を押し返す。
『ここには……戦いの事なんか知らずに暮らしてる人と魔族がいるんだよ……!!それなのに、戦争の火を振り撒いてアンタらは……いや、アンタは何がやりたいんだよ!!』
『何って……そんなの、国が決める事ったろ!!俺はただ、ただ……!!』
次第に押されつつあるエンツィア。だが、エヴィルドライの顔面を踏み付けて再び切先を喉元に突き返す。
『がっ……!』
『そっ、それに!!ここにいる人たちはみんな避難が終わっているはずだ!!』
『避難だと……!!』
『ああそうさ!!先行してった仲間が、避難が完了したから行けって……!!じゃなきゃ火なんて点ける訳ない!!』
『バカが!!そんな事間に受けたのかアンタは!!』
レイレスは知っていた。この泉に来るまでの道中、彼らは『酩都』にて何人かの人影を目撃していた。それから時間はあまり経っていないため、避難など終わっている筈もない事を……。
『間に……?っざっけんな!!俺の仲間がそんな事する訳ないだろ!!そっちだっていい加減な事言うなよ!!』
エンツィアはもう一振りの剣を振り上げて突き立てようとする。しかし、そこにアハートロイの光の矢が飛んで来てーーーー。
数秒前、エヴィルピクシーとエヴィルスプライトはアハートロイとモリオントロイの妨害を受けてエヴィルドライの援護が出来ないでいた。
『泉を荒らす者、邪魔をしないでください!!』
エヴィルピクシーは光刃を振り回し、飛んでくる光の矢を打ち返して防ぐ。
『こっちは早く降参して欲しいだけなんだけどなあっ!!』
対するアハートロイも負けじと、正確に狙いを定めてボウガン形態の『エルンテ』を連発する。
そのすぐ横では、ネイルハンマー形態の『アンムート』を軽々と振り回しながら光の釘を打ち出しているモリオントロイにエヴィルスプライトが翻弄されていた。
『…………』
『何を寡黙に気取ろうと、森を侵すのなら容赦はしません……!!』
エヴィルスプライトは展開していた障壁を回転させると、モリオントロイへ向かってそれを複数投げつける。
『…………』
しかし、その障壁は最も容易く『アンムート』に砕かれてしまう。
だが、それこそがシュメッテの狙いであった。
割れた障壁の破片は目眩しとなり、モリオントロイの視界から一瞬だけ姿を消したのだ。
『!!』
そして気が付いた頃には、エヴィルスプライトとエヴィルピクシーは背を合わせて魔力を充填していたのだ。
『シュメッテ、分かってるよね?私たちではここをどうにも出来ない!!』
『シュメッタ、分かってるよ。だからせめて、突破口だけは切り開く!!』
2人は高めた魔力を手の平に集中させると、その魔力を凝縮させて解き放った。
『『ディフュージョン・リヒテン・ゲトライデ』ッ!!』
そしてその魔力の塊は複数の光弾となり、アハートロイとモリオントロイへと向かって飛んで行く。
『…………!!』
だが、その光弾が直撃する寸前、目の前に岩の壁が現れて全て防いでしまう。モリオントロイの『アンムート・ボーデン・ヴァント』である。
それでも『ディフュージョン・リヒテン・ゲトライデ』の威力は凄まじく、防ぎ切った所で岩の壁は完全に粉砕される。
しかし、シェフレラはその瞬間を捉えて瞬時に『エルンテ』を構え、相手へ向かって光の矢を一発放った。
『撃ぇっ!!』
『今ッ!!』
『ふッ!!』
矢が放たれた瞬間……直撃する直前でエヴィルピクシーとエヴィルスプライトはそれを回避。そして……その矢の向かう先には、今にも剣を振り下ろさんとするグラナトロイの姿があった。
『ざっけんな!!』
『エンツィアさん!!避けて!!』
『なっ……!?』
剣を振り下ろす瞬間、アハートロイの放った矢がグラナトロイの胸部装甲……操縦席のある部位を貫いた。
同時刻、泉の寺院。
「か……は、っ……」
硝煙の匂いが立ち込めるその場所で、ゼーエンは胸を押さえながら滲み出てくるそれで白い肌と髪を赤く染めていた。
「どうだい?人の叡智とは、こうも残酷な事にすら進歩するんだ」
『影』は手にしたピストルに再び弾を込めると、再びそれを発砲して寺院に赤を散らせていく。
「呆気ないね。千里眼の使い手が、目の前の事に気を取られて死ぬとは。まあこれで仕事は終わり……?」
その時、『影』は違和感を感じる。否、むしろ感じなかった。
それは彼らの仕事の経験上、普段から嗅ぎ慣れたものが感じられなかったのだ。
「……ふうん、やってくれるじゃん!」
『影』が横たわるゼーエンの亡骸を踏みつけると、それはまるでモヤのようにふわりと崩れると、その場から跡形もなく姿を消したのだった。
そう、今まで『影』が戦っていたゼーエンは、魔法で形作られた半実態の『幻』だったのだ。
「まあいいや、どうせ本物は近くに居るんだ。それにまだ最終手段もあるし、ね」
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