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魔王合体エヴィルドライ  作者: 南ノ森
酩都炎上、そして
21/28

出立!!弦月ノ森へ(前編)

 先の戦いから3週間後。両国は兵と兵器を多大に失ったために、部隊を調整するための休養期間を設けていた。

 その最中、暁ノ国は宵ノ国付近の各地に前線基地を配備……現在は戦闘に向けて兵力の配備に勤しんでおり、宵ノ国のゴーレムライダー隊はその動向を偵察していた。

 そんなこともあり、一国王であるレイレスはとんでもなくヤキモキしていたのであった。

「いやー……どうすんの、これ?」

「どう、って……どうなのさ?」

 レイレスとネーゲルは机に置かれた地図を睨む。

 地図には、ゴーレムライダー隊の調査隊が記載した前進基地の場所が記してあった。

 前進基地は、宵ノ国の国境付近に13個、弓形に配置されている。

 その上、兵力の差で言えば圧倒的に宵ノ国は不利であった。

「例えばさ、均等に兵を分けたら……」

「そうなると、兵が足りずに全滅まっしぐらがオチだろうね」

「それじゃあ、どこかの基地に戦力を集中させれば……」

「戦力の薄いところから殲滅されておしまいだね」

「だよねぇ……」

 ああでもない、こうでもないと議論をしているが、これがなかなか進展しない。

「なにを悩んでるのですか、作戦会議だなんて……王なら王らしく、作戦参謀に任せればいいものを」

 頭を抱える2人に、ヒューゲルが紅茶を運んでくる。

「いやさぁ、みんなが手を拱いているのに、僕らだけ何もせず踏ん反り返ってるなんて性に合わなくてさぁ」

「うんうん、それにアタシら『ソッキン』だからさ、手伝いたいじゃん?」

「側近って……それは小さい頃のごっこ遊びでしょうに」

「遊びのつもりで言ってんじゃないよ!」

「ほう、作戦会議でありんすか」

 すると突然、何処からかゼーエンが音もなく後ろから現れる。

「うおっ!?びっくしたァ!?」

「なっにゃんでここにいるんです!?」

「噛んだでありんすね」

 暑くもないのに扇を仰ぎながら笑うゼーエン。その様子に気を悪くした3人だったが、それはそうとゼーエンが来た理由も気になるのでぐっと堪える。

「で……今日はどう言ったご用件でいらっしゃったんでしょうか……」

「何でレイレスの坊が謙ってるでありんすか。まあ……強いて言うなら、お願いって所でありんすねぇ」

「お願い……?」

 3人は頭を捻る。そんな事も気にせずゼーエンは間に入り、扇で地図を指す。

「ほれここ、弓形の国境線のちょうど真ん中あたりに弦月げんげつノ森があるでありんす。ここは中立地帯でありんすから、不可侵条約によって例えどのような理由があろうと、攻撃的理由での侵入及び、許可のない出入りは禁じられているでありんすよ」

「でもさ……もしその中立を破って入られちゃうかもだろ?」

「それは心配ご無用でありんす」

 ゼーエンはそう言って椅子を寄せて座る。

「なんせこの森は、ドーナツ状に魔脈がぽっかりと抜けているでありんす。雑兵の扱う陸戦兵器ならば魔脈からの魔力供給が得られずに侵入不可……故に、力不足の飛翔機や少数しかない空戦兵器でも来ない限りは安心安全でありんす」

「なるほど……つまり、空から入られちゃうじゃねーか!?」

「そう。しかし、何故暁ノ国は敵国である宵ノ国のこの一帯だけ中立を保っているのか……そこには、暁ノ国のインフラ事情にあるでありんす」

 ゼーエンは弦月ノ森の奥側、樹が少なく岩肌が多い位置を扇で示す。

「ここ数十年、暁ノ国はインフラの殆どを化石燃料と魔脈供給で補っているでありんす。16年前までは上流階級がそれをほぼ独占的に使役していたのでありんすが、16年前の休戦後、下流階級にもインフラを回すために急遽、魔脈供給に必要な魔石が必要になったでありんす。そこで、魔石が豊富に取れる鉱脈のある弦月ノ森を中立地域として選んだのでありんすね」

「つまり……下手に侵入すればあっちも大事な戦力に影響が出る、と」

 ふむふむと相槌を打つ3人。だが、ゼーエンは首を縦に振らなかった。

「まだ安心は出来んせん。相手方も先刻の戦いで消耗していたと言え、中立地域である弦月ノ森の付近に前進基地を構えている以上はそれ相当の動きをするはず……故に」

 今度は森の中心、木々が覆い尽くした緑色の箇所を扇で囲う。

「3人にはここに来てほしいでありんす。この場所は魔力を帯びた泉が沸いていて、それを飲んで育った木々が泉を守るように枝を伸ばしているでありんす。ここに更なる魔力が注がれれば……或いは結界が張れるやも知れないでありんす。その為にもやはり、エヴィルドライの力が必要になりんすよ」

「でもさ……そうなると、あっちも魔石が採れなくなって、協定破棄って事になり得るんじゃ……」

「そこは心配ありんせん。例え今協定破棄になっても、戦いが終わればすぐにあの人が結び直してくれるでありんすよ」

「あの人……か」

 3人は同じ人物の顔を思い浮かべる。かつて暁ノ国の王として国を収め、今は逃亡の身となり弦月ノ森へと身を潜めているクレイブラット王の事だ。

 レイレスは彼の顔を思い浮かべた途端、どこか懐かしむような顔をする。

「ふふふ、そんなにあの人に会いたいでありんすか」

「まあ、ね……あの人とはさ、母さんの事をもっと聞きたいから」

 レイレスは照れるも、素直に気持ちを吐き出す。その様子が微笑ましく思い、3人はニヤニヤと笑う。

 その様子にレイレスは更に顔を赤くし咳払いをする。

「と、ともかく!!弦月ノ森に行って結界を張れば敵軍の進路を限定出来るんでしょ?だったら今すぐ行かなきゃ!!」

「ええ、そうでありんすねぇ」

「でしょ!?」

「と言う事でお三方、ウチは森で待っとります故、ご足労ですがお願いいたしやす」

 ゼーエンはそう言うと、瞬く間に霞へと化して消えてゆく。

 いったい何が起こったのか理解出来ずに呆けていた3人。数秒遅れて、ようやく目の前で起こった事に反応し始める。

「えっ、はっ?消えた!?」

「おおおおちおちおちつおされつ」

「魔法で分身してただけじゃん」

「えっ」「えっ」

 ネーゲルのアッサリとした一言で、レイレスとヒューゲルはきょとんと目を丸くする。

「知っ……てたのか?」

「うん。だって全然臭いしないし。それにちょくちょく使ってたよ、分身」

「ま……まさか今まで気付けなかったなんて……」

「そんな事よりかさぁ、呼ばれてるんだから早く行こうよ、弦月ノ森に!!」

 こうしてレイレス一行は、ゼーエンの誘いを受けて弦月ノ国へと向かって行くのであった。


 同じ頃、暁ノ国では『栄光の七騎士(ロイヤルセブン)』が前進基地への移動に向けて準備を進めていた。

「あっれぇ?まだこんだけしか進んでないの!?」

 しかし、その状況はあまり芳しくない様子であった。と言うのも……。

「そうなんだよエンツィアちゃん!!こないだの戦いで兵力がゴッソリ削れちゃったじゃん?訓練生の研修もまだかかるしさぁ、補給足りてないのよ!!」

 輸送車に荷を積んでいた中年の憲兵がそうボヤく。

「そっかぁ……でも、憲兵の方から回して貰えないんすか?」

「出来たら良いんだけどさぁ、これから厳しくなるから城の防御固めるからって、王様が回してくんないんだよ〜」

「まぁじかぁ〜……じゃあなんで前進基地なんて配置するかなぁ」

 頭を捻っても答えは出ない。荷物にもたれ掛かって天を仰ぎ、更にその向こうの地平線を見上げると、そこにはシェフレラとバンブスがこちらを見て立っていた。

「ちょっと、いいかな……?」

「うぇ?」


 突然、2人に建物の影へと呼ばれたエンツィア。周りに誰も居ない事を確認すると、シェフレラは小声で話し始めた。

「バンブスさんは……人と魔族との間に産まれたそうです。産まれは戦時中でしたが、親御さん同士も仲が良かったそうで……それから戦争が終わって、成り行きで憲兵に志願したそうで……」

「…………」

「そう、だったんだ……」

 先の遠征の帰り支度の時、シェフレラとバンブスを呼びに行ったエンツィアは偶然、バンブスに血を与えている所を目撃。その事を秘密にしてもらうために約束を取り付けていた。

「2、3年くらい前の話です……隊の訓練を終えて帰る道、酔っ払いたちに絡まれた事があったんです。その時に初めてバンブスさんと出会いました。バンブスさんが『帰れ』って言った時……その酔っ払いたちは何も言わずに何処かへ行ってしまったんです。それがバンブスさんが無口な理由でした」

「て事は……バンブスさんは、声で人を従わせる力がある……って事すか?」

「うん……」

「…………」

 興味津々にバンブスを見つめるエンツィア。そんな様子にシェフレラとバンブスは気不味い空気を放つ。

 その時、ここでふとエンツィアが何か思いついたような顔をする。

「あ、じゃあさ!!試しに『絶対に遅刻するな』って言ってもらっていいっすかぁ?」

「ぅえっ、えぇっ!?どっどうしてそうなるかなぁ!?」

「いやぁ〜、もし本当なら試して欲しくってさぁ」

「だからってこの流れで言う事かなぁ!?」

 流れを乱され調子が狂うシェフレラ。しかし、それが沈んでいた心に余裕を持たせる。

「ま、それはそれとして。こんな事話してくれるってことは、俺のこと信じてくれてるって訳なんですよね?なんでっすか?」

「なんでって……だってエンツィアくん、いい人でしょ?」

「いい人かどうかはともかく……俺、口軽いっすよ?知ってるでしょ?」

「でもあの時……遠征の帰りに、誰にも言わなかったから」

 シェフレラはそう言って微笑む。

「参ったな……そこまで言われたら、何がなんでも秘密守んなきゃなぁ」

 エンツィアは照れ笑いし、軽く頭を掻いた。

「でも気をつけてくださいよ?最近国内に潜んでいる魔族が強引に検挙される事件が多いですから、バレたら只事じゃ済まないっす。俺嫌ですからね、仲間が理不尽に捕まっちゃうの」

「うん、分かってるよ」

「ならいいですけど……」

 やれやれと言った感じに笑うエンツィアだったが、ふと思い出して手で胡麻を擦り始める。

「ところで……最後に『絶対に遅刻するな』って言って……」

「……そういうの、自分でどうにかしなよ」

「あ、やっぱり?」

「…………」


 同じ頃、仄暗い場所にてディステルは肖像画を描いてもらっていた。

「兄様……何故今絵を描いてもらっているのでしょうか?」

 画角の外側からガーベラが問う。ディステルは身動きひとつせず素直にそれに応える。

「ベラよ。我が城には兄上の絵は何枚あると思う?」

「はぁ……確か、8枚かと」

「そうだ。0歳、3歳、5歳、10歳、15歳、そして20歳からは10年刻みで計8枚……それに対して私には10歳までの絵が存在しない。私が城から逃げた妾の子だからだ」

「それがどうされたのです?……私は戦地へ向けて準備せねばならないのですが」

「意地だよ。王の意地さ……。分かってくれとは言わないが、ひとつでも前王に劣るものがあると癪なのでね」

「…………」

 あまりの器量の小ささに言葉を失うガーベラ。

 しばらく作業が進むと、ディステルは立ち上がり絵の出来栄えを確認する。

「どうだ、順調に進んでいるかな?」

 絵を覗き込んでみるとそこには、金属の枷に拘束され地に伏しているヒドラを前に、気取って椅子に腰掛けているディステルが描かれていた。

「うむ、素晴らしい」

 満足げに頷くと、先程まで座っていた椅子のある方へと目を向ける。

 そこには、絵と同じ構図でヒドラが拘束されていた。

 ディステルは愉悦に浸った表情で笑うと、ゆっくりとヒドラの方へ歩み寄って行く。

「椅子は動かすなよ。この後も続けて描いてもらうからな」

 そして、ヒドラの真ん中の頭が繋がれている場所まで近付いて立つ。

 ヒドラの口には複数の管が繋がれており、その管から流れた薬剤によってスヤスヤと寝息を立てていた。

「愛い奴め……その寝顔が拝めんようになるのが残念だよ」

「……では、急ぎますので」

 ガーベラは苦虫を噛み潰したような顔でそう言い残し、戦地へと向かって行った。

宜しければご評価、ご感想いただけれは幸いです。

読んでいただきありがとうございました!

後編もお楽しみください!!

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