仲間と共に新世界へ向けて
やはり姫を追うなら早めがいい、善は急げだ!
というおっさんの一言により、この街を出るのは明日ということになった。
「それではシエル君、この荷馬車を改造でもしようか」
「はい、ナイトさん。それで、どのような改造をなさるのでしょうか?」
「それはだね……。ごにょごにょ……ごにょごにょ」
「おお! なんと! それは楽しみですね! 僕も腕が鳴ります!」
おっさんとシエルは、荷馬車の荷台部分を何やら弄るらしい。
二人とも目をキラキラと輝かせている。まるで子どもみたい。
そんな男達は置いといて、アタシ達女の子一同は買い物へと出かけた。
目当ては女の子専門の防具屋で装備を買うことだ。ここでアタシはカッコかわいいオシャレな服を買う。シエルの彼女として恥ずかしくない格好をするために。アタシは意気込んでいた。
カランコロンカラン。
ドアから小気味良い鈴の音が鳴る。入店者が来たことを告げるその音を鳴らし、レンガ造りの店内へと入っていった。
すると、ふわあっ……と、心地よい華やかな香りが鼻腔を通り抜けた。
さすが女の子専門の防具屋といったところかしらね。
ちょっと見回しただけでも、女騎士専用の胸元が開いた鎧やら、ふりふりしたピンクの可愛いローブやら、チューブトップの服やら、心をくすぐる装備品が目に飛び込んでくる。
あ、そういえばリマはここにあるピンクのローブみたいなの着てるわよね。リマってなんかオシャレとかそういうの気にしてなさそうだけど、案外気をつけているのかしら。
そしてちらっとリマを見る。
リマは緑色のローブをじっくりと見ていた。
どうやら防御力も高く、撥水加工もしてある便利な装備品を確認しているらしい。そして気に入ったのか、リマは試着。
その姿を見たけど、なんだかちっちゃなカエルみたいで可愛いかった。
うん。やっぱりリマは可愛いわね。ほんと危険な可愛さだわ。アタシが保護してあげないと。
と、そんな可愛いリマをちらっちらっと見たあと、次にアイラを見てみた。
アイラは鎧のコーナーを真剣に眺めていた。騎士団の銀鎧はアタシのせいで穴が空いてしまったので、その代わりのを買うらしい。無駄な出費をさせてごめんね、アイラ。
それにしても、アイラはどれにするか決めかねているみたい。あちらこちらの鎧を手に取っている。意外と優柔不断なのかもしれないわね。
どれどれ、アタシが一言アドバイスしてあげますか。
「アイラ、これなんかいいんじゃない?」
「こ、これかっ? いやあ、これは胸元が開きすぎてちょっとな……」
「なに言ってんのよ! アイラのその胸は武器なのよ! それだけで男どもはメロメロになって戦闘どころじゃなくなるんだから! だからこの防具を身に着けなさい! これだけで胸元にも武器を装備できる! アイラにとって最高の装備品なのよ!」
「ううう……。そう……なのか……?」
「そうよ! だからさっさと買いなさい!」
アイラはしぶしぶといった表情で、アタシが推したビキニアーマーとかいう防具を手にした。そして試着室へと入っていった。
よし。あとは購入さえすればアイラのたわわな胸をいつでも堪能できるわね。
お風呂のときのあの感触……。忘れられないわ。ああ、早く堪能したい……。
「サーチャ殿? その、似合っているか?」
着替え終わったみたいで、アイラは衣装室のカーテンをちょこっと開け、隙間からちらりと顔を覗かせた。
「そんなんじゃ全然見えないわ。もっとカーテンを開けなさい」
アタシはそう言うと、ガバッと一気にカーテンを開けた。
アイラはもじもじとしていた。
どうやら恥ずかしいらしい。
でもそんなのアタシには関係ないわ。
「そうね……。機能性を確かめるために一回転してみてくれない? そのあとジャンプも一回よ」
「こ、こうか?」
言われたとおり、アイラはくるりと一回転。
腰元にあるアクセサリーのベルトがふわりと浮く。
そしてジャンプすると、大きな胸がぷるるんと震えた。
それを見たアタシの心も激しく震えた。いけない。何かが暴走しそう。
アタシも試着室に入りカーテンを閉め、
「ええ、その赤い鎧、よく似合っているわ。でも胸元がもうちょっとどうにかならないのかしら」
「ちょっ、サーチャ殿!? やああぁんっ!」
「はぁ……はあ……」
「そこまでよっ!」
背後のカーテンが一気に開けられる。
振り返った先に立っていたのはリマだった。
それからリマの制圧により、たわわなひとときはすぐさま終わりを告げた。
アイラは結局、騎士団の銀鎧と似たような薄手の白鎧を購入した。でもちょっとだけ胸元が開いているタイプの鎧だったので良しとしよう。うん。
そんな他人のことはさておき、アタシは黒と白の二種類の魔導師の服を購入した。
アタシ好みのゴシックな服。
ふふふっ。これを着て旅をするのが楽しみね。シエルはどんな反応するのかしら。
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防具屋でのショッピングを楽しんだアタシ達は、荷馬車の元へと帰ってきた。
しかしそこにあったのは、荷馬車ではなかった。
「なにこれ……。家? 家なの?」
間違いない。荷台部分が家になっている。
アタシはかつて荷馬車だったと思われるモノをぐるりと一周。
するとそこには、しっかりと屋根や天窓が付いた立派な家があった。
「俺達にかかればざっとこんなもんよ! どうだ? この移動式馬車家は? 凄いだろ?」
自慢げにおっさんが鼻を鳴らす。
うん。確かにこれは凄い。まさか家になるとは思わなかった。
「中は二階建てにしてみたんだけど、どうかな? あ、一階と二階の移動はハシゴで行うんだよ。まあロフトみたいな感じだね」
「予想外だわ……。本当に凄い……」
シエルの案内を聞きながら荷台という名の家を覗く。
内壁は荷馬車の白布をそのまま使っているらしい。触ってみると、ぼわんと衝撃が吸収された。
そしてなんといっても、ハシゴだ。
荷馬車の隅にハシゴが設置してあり、そこを登ると二階へ登れるのだ。
二階には窓が二つ。内壁に付いている小窓と、上方に付いている天窓があった。
「ナイトさんにしてはやりますね。本当に改造とかは得意なんですね」
「うむ。これはなかなか凄いぞ。ナイト殿とシエル殿は大工だったりしたのか?」
「俺は大工ではないぞ。ただシエルは独り暮らしていた時に木材を加工して、椅子とか机とか作っていたという話を聞いていたんでな。それで荷馬車を家に改造してみないかって話をシエルとしたんだ」
なるほど。あのごにょごにょはこの改造計画のことだったのね。
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それから、家の中に道具や家具やらを入れ込み、旅の準備を進めた。
その間、アイラは最終的な騎士団の脱退手続きなどを行いに城へと行ったり、アホ毛のアホらしいお見送りの言葉があったりと、終始騒がしかった。
そんなこんなで準備が終わった時には、翌日の朝になっていた。
ふわあっ、と一つあくびをする。
そして濡れた眼をこしこし擦っていると、
「……チャ! サーチャ!」
聞き覚えのある声を発しながら、二人の人物がこちらに近づいてきた。
あれは、アタシが見た事のある人物。
というかあれって……!
「パパ! ママ!」
「サーチャ! 元気だったかい? 心配していたんだよ?」
心配そうな顔をしたパパが、アタシに飛びつくように抱きついてきた。
あ、顔が塞がってちょっと苦しいかも。
その苦しさから逃れるように顔をずらし横を見る。するとそこには、浮かない顔をしたママがアタシを見ていた。
「ねえ、パパ? ママ? どうしてこの街にいるの?」
「それは新聞でサーチャのことを知ったからさ。悪党を懲らしめたお嬢様って載ってたんだよ。とまあ、それよりどうしてこんな街にいるんだい? 屋敷を抜け出したりなんかしてさ」
「そうよ、サーチャ。どうして屋敷を抜け出したりなんかしたの?」
「そ、それは……」
屋敷を抜け出した理由。
きちんとパパとママに言わないといけないよね。逃げ出さずに、ちゃんと。
「パパ、ママ。聞いて。アタシは世界を知りたかったの。まだ見たことのない未知の世界を見たかったの。だから屋敷を飛び出したの。……あ、その、黙って出ていってごめんなさい」
「やっぱり本当だったんだね……」
「や、やっぱり?」
「うん。メトリから話は教えてもらっていたよ。世界を知るために屋敷を出ていったって」
教えてもらっていた?
そうだ。パパは文通をして屋敷と連絡をとっていたんだった。
だからメトリからアタシが出ていったことも聞いていた、ということらしい。
「メトリはとても反省していたよ。『私が一方的に考えを押し付けていたせいで、こんなことになってしまった。本当に申し訳ない』って。そしてこれについてはパパとママも同じことが言えるね。『サーチャはまだ子どもだと決めつけ、可能性を信じずに、屋敷に押し込めていた』ことをね。サーチャ。すまなかったね」
「サーチャ。ちょっと見ない間に大きくなったわね。随分と成長したように感じるわ」
「パパ……ママ……」
「サーチャ。行ってきなさい。そして思う存分旅をしてきなさい。でも一つ。絶対に怪我したり、危険なことをしたらダメだからね」
パパはそう言うと、頭をよしよしとしてくれた。まるで小さな子どもみたいに。
アタシ、てっきり怒られるかと思ってた。
怒られて、家に連れて帰られるかと思ってた。
でも違った。
パパとママはアタシを信じて、しっかりと受け入れてくれた。
だめ。どうしても止まらない。
涙って、どうしてこんなにもとめどなく溢れるの?
アタシ、やっぱりまだまだ弱いなあ。
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それから、親子揃ってひとときの団欒を過ごした。色んな話をした。
特にパパとママの出張先での笑い話はとても面白かった。なんでも、あんみつ城というところで黒魔法の家庭教師をしばらくしていたらしいんだけど、そこでのドジっ子お姫様の話は本当に面白かった。
アタシも旅先での面白い話、ワクワクする冒険の話、沢山の話ができるようにならないとね。そしてその土産話をしっかりと屋敷に持ち帰らないと。
その後、シエルのことをパパとママに報告した。
最初は訝しげにシエルを見ていたけど、アタシが熱心にシエルのことを延々と話したところ、何かが折れたみたいに二人ともシエルのことを認めてくれた。
パパは最後には、
「シエル君、我が家のお転婆娘をよろしく頼むよ」
なんて言って固い握手を交わしたりしてた。
あ、それと、ママからは旅の餞別として『魔法大全集』という本を貰った。
これは、ママの血筋に代々伝わる大事な物らしい。なんでも、この世の全ての魔法が載っているのだとかなんとか。
まあ本当かは疑わしいけど、あとでじっくりと読んでみようかしらね。
とりあえずは『マモール』っていうみんなを守る魔法を覚えようかしら。なんか覚えやすそうだし。
こうして、アタシ達の楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
パパとママはこのあと村の屋敷に戻るらしい。
「村で待ってるよ、サーチャ」
「ケガだけはしないでね」
パパとママが去り際まで心配して話しかけてする。
「大丈夫だから心配しないで。それより、二人とも健康に注意してね」
そう告げると、やっと安心したらしく、アタシの元から離れていった。
アタシはその去っていく後ろ姿を最後まで見届けた。
パパ、ママ、元気でね。
アタシも元気に頑張るから。
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「さてさて! サーチャの両親も見送ったし、それじゃあ姫を追う果てしない旅に出るとしようか!」
おっさんが出発の号令をかける。
アタシ達はこれから、ドルチェ王国より南に行った所にある、『剣尊都市ヘリクダール』という街へ行くことにしていた。
アイラの話によると、なにやらブロンザの出身がその街らしいので、そこに姫を連れ去った可能性があるかもしれないのだとか。
また、この街では良い武器が豊富に売ってあるとのこと。
つまり、姫を探しつつ武器も買って戦力補強をするということらしい。
そんなことを考えているうちに、ドルチェ王国の門が見えてきた。いよいよ出国だ。
するとその時、後ろから何かが聞こえた。
振り返ると、街中ではいつもの喧騒が繰り広げられていた。
それはただの日常から出された音だったのかもしれない。だけどアタシには、『行ってらっしゃい』と言っているように聞こえた。
本当にこの街では色々なことがあった。
何度も泣いた。何度も諦めそうになった。
でもその度に仲間が助けてくれた。
本当に頼もしい仲間だ。
だからアタシも恩返ししないとね。
みんなを助けられるように。
アタシは、一番助けてくれたシエルを見た。
すると、シエルとちょうど目が合う。
このとき、まるで想いが繋がっているんじゃないかと思った。
そして、想いだけじゃなくもっと繋がりたい。そう思った。
「ねえ、シエル。手を繋がない?」
「手を? もちろん」
シエルはそう言うとアタシに手を差し伸べる。
その手を握ったところ、随分と逞しく感じられた。大人の手みたいだった。
「手を繋いで一緒に門を抜けましょ」
「うん、わかった」
と、そう言っている間にも門が近づいてくる。もう出国は目と鼻の先だ。
「じゃあいくわよ!」
「せーのっ!」
こうしてアタシ達は次の街へと歩みを進めた。
次の街では何が起きるのだろう。どんな世界が待っているのだろう。
アタシ達の冒険はこれから新たに始まる。
物語は新たな始まりを迎える。そして続いていくんだ。世界の果てまでも……。




