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異世界軟弱物語  作者: よっきゃ
第三章
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王様はアタシ達が好みです

 翌日。

 治癒術の甲斐あってかアイラの傷はすっかりと癒えた。傷跡のないことを確認したアタシは、心にずっとつっかえていたわだかまりのようなものがようやく溶けた気がした。

 今はスッキリサッパリといった気分。本当に良かった。


 それにしても、治癒術は偉大だと思う。

 どんなに大きな怪我を負っても、綺麗に治してしまう。

 もっとも、致死レベルの怪我はどうにもならないけども。


 アタシも治癒術を学ぼうかな。とりあえずリマに教えて貰おうかしらね。



 それから数時間後。

 回復したアイラをはじめ、今回の事件に関わりのあった面々は裁判所で判決を受けた。

 結果はもちろんアタシ達の『勝訴』。


 これにより、正式に勝ちが決まったのだ。

 裁判長が鳴らす甲高い木槌を音色を気持ちよく聞き終わり、裁判は閉廷した。


 リマとおっさんを見ると、安堵の表情をしていた。シエルも同様だ。


 しかし今回の判決を受けて、アタシは被告人だった二人よりも気にかけている人物がいた。

 それはアイラだ。

 なぜなら、アイラはこれまで無敗。

 一度も負けたことがなかったからだ。


 今回の裁判でも、アイラは勝つ寸前までいっていたと思う。

 それなのに、何の因果かは分からないけど、アタシ達にとって絶妙なタイミングで真犯人が登場。結果としてアイラは敗北することになった。


 初敗北を喫したアイラ。

 アタシはそれによりアイラが塞ぎ込んだりしないか、それが心配だった。


 しかしアイラは何ともないという顔をして、


「この結果になるのは運命だったんだ。お前達は勝者らしく胸を張れ」


 と、讃えてくれた。


 そうだった。アイラはこんなことでは落ち込まない強い人物。アタシが憧れる強い人物だった。

 どうやら弱いアタシの取り越し苦労のようだったようだ。


 アタシは言われたとおり胸を張り、法廷内を見渡す。もうこの場所に重苦しい空気は漂っていない。

 今ここにあるのは、アタシにとっての安息の場だ。


 こうして、法廷での一幕は終わりを告げた。




 --




 法廷を出たアタシ達は、王の間の前に来ていた。


 重厚な扉が目の前にどしんと待ち構えている。その扉の両脇には、それぞれ厳つい顔をして立っている二人の兵士。



 この先に王様がいる。変なこと言っちゃったりしたらどうしよう……。



 アタシは、法廷とはまた違う緊張感と不安感を前に、押し潰されそうになっていた。


「サーチャ、怖いの? 震えてるよ?」


「ち、違うわよ! 謁見を前にして喜んでいるのよ! 身体が勝手に!」


「そうなんだ。じゃあ僕も、一緒に喜ぼうかな」


 シエルはそう言うと、アタシの手を握ってきた。その途端、ふっと震えが止まる。


「どうしたの? もう喜ばないの?」


「よ、喜び終わったのよ! その、アンタが握ったせいで……」


「ふふふっ。二人とも、ほんと可愛いね」


 リマがニマニマしながらアタシ達を見てきた。おっさんはにちゃにちゃとした、ねっとりとへばりつくような目でこちらを見ている。


「ちょっと二人とも! こっちじゃなくて前を向きなさいよ!」


「みんな、これから王に謁見をするのだぞ。気を引き締めろ」


 アイラの鋭い指摘が入る。

 すると一転、みんなの目の色が変わった。本気モードに切り替えたのだろう。


 うん。アタシも緊張してられない。気を引き締めなきゃ。村の代表として王と会うつもりで、もっとピシッとしなきゃ。



 両頬をピシッと叩く。

 よし。いける。大丈夫。



 気合いを入れたアタシは、そのまま王の間へと進んでいった。



 --



 王の間は、白で整えられた空間だった。

 大理石で施された円柱が複数、一定間隔で並んでいる。また、天井も高く、上には何やら絵画らしきものが描かれている。

 そのどれからも、厳格な雰囲気が感じ取れた。



 アイラを先頭に進んでいく。

 床には赤い絨毯が真っ直ぐに延びていた。その赤い絨毯を挟んで両側に五人ずつ、甲冑を来た騎士が整列している。

 そして騎士達は誰一人としてピクリとも動かない。それはまるで銅像のようだった。甲冑の中には誰も入っていないのかと思うほどだった。



 そんな甲冑の騎士と赤い絨毯の先には、三段ほどの段差があり、その上には絢爛な椅子に座ったおじさんがいた。


 おじさんは錫杖を手に持ち、赤いマントを羽織っている。冠を頭にちょこんと乗せている。そして身体中から醸し出されている高級ワインのような気品。


 それを感じ取ったアタシはすぐに脳内で訂正した。あれはただのおじさんじゃない。王様だと。



 アイラが床に膝をつき、頭を下げた。

 それに続いてみんなも同じように膝をつき、頭を下げる。アタシもみんなに倣って同じ動作をした。



「そんな堅苦しくせんでええよ。ほらほら、頭も高くない。高くなーい」



 その言葉を聞き、みんなは頭を上げた。


 それと同時に、空気感も和やかなものに変わった。どうやらあの王様な気さくな心の持ち主らしい。



「王様。もっと威厳をですね……」


「威厳なんて、いい加減でいいのよん」


「いい加減ではいけません」


「えー! いいじゃーん! いい加減でもいいじゃーん!」



 王様の隣にいた大臣らしきおじさんと言い争いを始めた。幼子のように駄々をこねる王様。あやす大臣。

 しばらくの間、茶番劇が続いた。




 その後、王様からちゃんとした話が始まった。王様の話は幾つかあった。



 まずは、ブロンザ撃破のお礼だった。

 なにやら、世界を股に掛ける荒くれ者だったブロンザを今回アタシ達が倒したことで、王様は大層驚かれたらしい。そしてそれに対する褒美をくれるとのこと。


 褒美の内容は後ほどのお楽しみのことだったが、どんな物を貰えるんだろう、どんな美味しい物を食べられるんだろうと、アタシはワクワクを隠しきれなかった。



 次に王様は、今後も旅を続けるアタシ達に対し、とある依頼をしてきた。異例ともいえる王様からの直々の依頼。その内容は二つだった。


 一つは、『世界に蔓延る悪党を懲らしめて捕縛。そしてドルチェ城の牢屋に入れる手伝いをしてほしい』というものだった。


 なんでも王様は、悪党が牢屋に入って絶望の淵に立たされているのを、檻越しから毎日眺めるのが趣味だという。

 ちなみにここ最近は、牢屋に入ったブロンザを眺めているらしい。

 ただ、ブロンザはまだ絶望に落ちてはいないとのこと。


 早く絶望しないかなあ、どうやって絶望させようかなあ、と王様は口にしていた。


 とまあ、つまりこの依頼は、『他人の絶望大好き人間の趣味を助ける』のと、『世界から悪党を退ける』という、一石二鳥の意味があるものだった。


「それにしても絶望した顔を見るのが好きだなんて、だいぶ危ない悪趣味を持った王様ね。変態なんじゃないかしら」


 と思わず口走りそうになったけど、言う直前でシエルと目が合い、どうにか抑えることができた。シエル、ありがとう。



 そして二つ目の依頼は、『姫の跡を追ってほしい』というものだった。


 話によると、アタシ達の戦いっぷりを耳にした王様が心底惚れ込んだらしい。それで特認でアタシ達をパーティとして雇いたいとのこと。そして姫を追ってほしいとのこと。


『悪党の捕縛』と『姫を追う』という王様直々の依頼。


 通常なら問答無用で受けるべきだと思う。

 しかし、この二つの依頼について、アタシ達は受けるかどうか話し合うことになった。


 王の間の隅でしゃがみこんで身を寄せ合い、アタシ達五人は小さな円になる。そして話し合いを始めた。司会進行はおっさんだ。



「ではこれより緊急会議を始める。一同、礼」


「おっさん。早速だけど一つ意見をいいかしら。なんなのこの茶番は」


「茶番とはなんだ! 茶番とは! もういい! サーチャ君は廊下に立ってなさい!」


「……おい、真面目にやるぞ。それで依頼についてだが、私は受けるべきだと思う。というか王の依頼を断るなど言語道断だ」


 アイラが逸れそうになった話をすぐさま軌道修正。そしてもっともな意見を述べる。


「そうよね。王様の依頼を断るなんて聞いたことないわ。だからアタシも依頼は受けるべきだと思う。というか『悪党捕縛は断る! だけど姫は追う!』なんてことを王を前にして堂々と言えるのはおっさんくらいよ!」


「しかしなあ、二つとも受けるということは、俺達に多大なる危険が付き纏うということにもなりかねないんだぞ。姫を追えばブロンザのような悪党とまた戦闘になることもあるかもしれないし。だが自ら悪党と戦うこともないだろう。なるべく危険は回避するべきだと思う。ということで俺は、姫を追うけど悪党捕縛は避けるに一票だ」


 と、次はおっさんも真面目に発言。


 うーん。そう言われたら確かにおっさんの言う通りかも……。


 自ら進んで悪党とは戦いたくないわよね。ブロンザを倒せたのも奴に油断があったからって感じだったし。


 しかし王様の依頼を断ったらどうなるのかしら?


「この反逆者め!お前らは反逆罪適用でぜんい牢屋行きだ!」


 とか言われてぶち込まれたりしないのかしら。


 うーん。やはりここは二つとも依頼を受けるべき……?


「僕もナイトさんに同じく、お姫様の跡は追うけど、悪党の捕縛はしないに一票です」


「私はあんまりそういうのには関わりたくないから、正直に言うとどちらも嫌かなあ。やっぱり平和が一番だよ」


 しみじみとリマが語る。

 そしてシエルはおっさんと同じ意見らしい。

 あ、アタシもやっぱりシエルと合わせようかな……。


 いやいや、なんでもシエルと合わせすぎは良くないわよね。やっぱり自分を持っておかないと。うん。


「えー、皆さんの意見をまとめたところ、二つの依頼を両方受けるに賛成が、アイラとサーチャの二人。悪党捕縛は積極的にしないけど姫は追うの意見が、俺とシエルの二人。どちらも嫌が、リマ一人のみ。ということは……」


「うむ。姫だけを追うとするか。そして悪党とはどうしても戦わなくてはいけない場面だけ戦う、そして捕縛するという方向で行こう」



 ということで、あっという間に話がまとまった。


 それを早速王様へ伝える。


 王様も無理強いはしなかったので、その意見が無事に通り、アタシ達は姫を追うことを優先することになった。そして悪党捕縛はついでにやるということになった。



 それから依頼に関する話が終わったあと、個別にアイラだけ王様から呼ばれ、何やら話をはじめた。


 話し終わったアイラになんの話だったのか聞いたところ、今までいた小隊からアタシ達のパーティに加わって行動することでの、色々な手続き関係の話をしたとのことだった。



 まあ、お城とか騎士とかってお堅いイメージがあるから、色々と手続きが必要なのだろう。裁判のときもあのアホ毛が弁護士に関する手続きを何かとしてくれてたみたいだったし。


「それで褒美なのだがね」


 王様が唐突に口を開いた。

 ついにアタシが待ち望んだ話が始まった。期待に胸を膨らます。


「それは城の外に出ればわかるぞい」


 王様はそう言うと、にやりと笑った。

 どうやら城の外で何かが待っているらしい。




 --




 甲冑の騎士に連れられ、城外に案内されたアタシ達。

 そこで待っていたのは--


「ブルルルッ!」


「ヒヒーン!」


 天まで届くかと思うほどの元気な鳴き声。

 それは目の前にいる二頭の馬から発されたものだった。

 そして馬に連結してある荷台。

 つまりこれは荷馬車だ。


 そしてこれが褒美……。



 ああ、無情。

 ああ、無念。

 正直に言って残念だった。



 てっきり美味しい物が食べられるのかと思ってた。美味しい料理と美味しい紅茶を堪能できるのかと思ってた。


 てか、決して食い意地が張ってるという訳ではないと思っているんだけど、アタシ、食いしん坊なんかじゃないよね?



「おお! 馬じゃないか!」


「やっと馬っていう唯一信頼してくれる仲間ができましたね、ナイトさん」


「リマは俺のこと信頼してないのか?」


「そりゃあもちろん信頼してないですよ。まあ、キスしてくれたら信頼してあげなくもないですけどね。だからナイトさん、早く私を信頼させてくれません?」


 おっさんとリマはいつもの調子だ。


 そしてリマが顔を近づけキスしようと迫り、おっさんがそれから逃げるといういつものシーンが始まった。


 ほんとこの二人はすぐにイチャイチャするわね。


 仲良くてちょっと羨ましくも思うけど、アタシは流石にシエルとこんな風に公然イチャイチャはできそうにないなあ……。



 と、見るだけで熱くなりそうな二人のやり取りを冷ややかに眺めていたところ、


「荷馬車の中に沢山の食料があるな。それと金が入った袋も数袋積んである。至れり尽くせりだ」


「えっ、食りょ!……コホン。あ、アタシにも食料とやらを見せなさいよ」



 思わず食料にがっつく姿を晒してしまいそうになった。危ない危ない……。



 冷静を装ったアタシはアイラとともにその食料を物色。


 ふむふむ。食べ物は日持ちしそうな乾物が多めだけど、ちゃんと紅茶があるわね。

 うん。あの王様もなかなかやるじゃない。


 こうして、王様からの褒美を貰ったアタシ達は、次の旅へと向けて準備を進めることにしたのだった。

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