表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界軟弱物語  作者: よっきゃ
第四章
PR
45/49

私は異常で隙のない女だが

 私は異常で隙のない女だと言われてきた。


 私自身もそうだと思っている。

 私は隙がない異常な女。


 そして男性を好きになったことがない女でもある。故に男性とキスもしたことがない。

 ただ、私は女性が好きという訳ではない。


 怖いのだ。

 男性が私に対して見せる目付きが。

 そう、まさにこの目の前にいるナイト殿が、その目付きをしていると言えよう。


 なぜ男性は私の胸ばかり見てくるのだ。

 もしくはお尻、ふともも。

 そういった部分ばかり。


「私は胸に顔があるのではないぞ。どこを見ているんだ」


「へへえ、すんまへん。ついそのたわわなデカメロンに目が行ってしまうんでさあ」


「その悪党の子分みたいな喋り方はなんだ! もっと真面目にしろ! 罰として腕立て伏せ三十回だ!」


 思わず唾と檄が飛ぶ。

 ナイトは愕然とした表情を見せたあと、しぶしぶ地面に手を付き腕立て伏せを始めた。

 うむ。ちょっと過激に言い過ぎたかもしれないな。


 しかしなぜ私がこのようなことをしているのか。


 それはこの私が教官役として、パーティ全体の鍛錬管理を行うことになったためだ。

 つまり、この腕立て伏せはその管理の一環としてだ。

 決して私がナイト殿に邪な思いがあって個別に特訓してあげてる訳ではない。



「おっさん、まだ腕立てして二回目よ。なに腕ぷるぷるさせてんのよ」


「そう言うなら俺の背中から降りれくれよ。あとついでに俺の上で紅茶を飲まないでくれ」


「ガタガタうるさい椅子ね。紅茶零しちゃうじゃない」


「あっつ! 熱っ! 零しちゃうじゃなくてもう零れてますからサーチャ様! ……でも、なんかもっと零してもらいたいかも……」


 うむ。サーチャ殿が重しとなり充分すぎるほどの負荷がかかっている。ナイトの発言が気に障るが、概ね筋トレは順調のようだ。


 と、このようにパーティの鍛錬を管理しているのだが、実はこれは仮の姿。表面上の白い私とも言っていい。


 そして裏の黒い姿の私。それはドルチェ王から特認を授かっている騎士としての私だ。


 特認--それは『ナイトとリマの様子を注意深く監視すること』である。


 なぜこのようなことを勅命されたのか。

 それは、二人のどちらかが姫の能力を奪っている可能性があるからだ。


 姫を連れ去ったのは、ブロンザと杖女の二人組だった。

 その姫攫いについてはあの二人ということで確定しているのだが、肝心なのは姫の能力。

 能力が奪われている可能性があるというのだ。


 そしてその能力。

 どんな能力なのかは不明だが、ナイト殿のあの回復力が怪しいらしい。

 確かにあれは上級の治癒術でも無理だ。ブロンザとの戦いの際に負った死に至る程の傷。あんな短時間にあの斬られた傷を回復するなんてできる筈がない。


 何か別のもの、つまり能力でないとあんな回復はできない。


 ナイトはなにやら手鏡を持っていたのでこっそりと調べさせて貰ったが、どうやらあの手鏡は至って普通のものだった。魔道具とかそういった(たぐい)のアイテムではないらしい。よって、手鏡は能力判明への手がかりに繋がらなかった。


 うーむ。しかし、あの回復できる能力をナイト殿が奪ったのか。それともリマが奪ったのか。


 私はリマが非常に怪しいと思っている。

 何故なら、以前北の国にいたネリア姫が失踪したときの付き人がリマの両親だったからだ。


 リマの両親はネリア姫と深い関わりがあった。つまり、リマは両親を通じて姫が持つ固有の能力について何か聞いていた可能性がある。


 なお、このことを裁判で言おうとした途端、リマによって明らかに不自然に遮られてしまった。


 うむ。やはりリマは怪しい。

 リマは姫が持つ能力について何か知っている可能性がある。



 だが、根本的に分からないことがある。

 それは、能力は他人に移せないという事実があるからだ。


 例えば、ブロンザが持っていた身体を鋼鉄に変える能力。

 あの能力はブロンザだけのものであり、その能力を他人に移すことなどできない。


 だが、もしかするとだが、例外として姫の能力だけは移せるのかもしれない。

 何せ、『神授の儀』なんて名前の儀式を姫は受けているのだ。

 その神授が、能力を授かるという可能性だって大いに有り得る。


 それに王が、ナイトとリマを見張れと特命を言い渡したくらいなのだ。

 そのくらいのことがあってもおかしくはない。


 しかし、どうやって能力を奪ったのかについては全くもって不明だ。

 だが、何らかの方法を使って上手く能力を奪ったのだろう。


 とにかく私は、ナイト殿とリマ殿の二人を監視しなければならない。

 それが王から直々の特命だ。


 私は鍛錬管理と監視も兼ねナイトを見た。

 ナイトは筋トレを終わらせていたようで、地面によたっと座りぜぇぜぇと息を切らしていた。


「ナイト、お前はヒョロい。よって筋トレは毎日続けること。それと竿の素振り千回も毎日だ。わかったな?」


「……わかりません、アイラ教官」


「わからないだと! ではお前がそのまま分からないと言い続けて鍛錬を怠った結果を教えてやろう。それはもちろん死だ。なぜそうなるか。それはこれから何度も訪れる悪党との戦いであっさりと敗れるからだ。ブロンザ以上の力を持った悪党がお前を殺しにしたらどうなる? あとは分かるな?」


「……わかりました、アイラ教官」


「その鼻の下を伸ばした顔。腑抜けた声、なよなよとした姿勢。どうやらお前は分かっていないようだな。そして私の顔はお前の視線の先にはない。その視線の先にあるのは私の胸だ」


 そしてまた腕立て伏せが始まる。

 うむ。しかしこのナイトという男は鍛えがいがあるな。


 こいつは一見エロいことしか脳がなさそうに見えるが、戦闘において窮地に立たされたときの頭の回転。あれは目を見張るものがあった。ブロンザとの戦いでは見事だったといえよう。


 今は自己流のめちゃくちゃな竿さばきだが、もっと流動的にさばくことができれば、きちんとまともに戦えるだろう。

 こいつは上手く鍛えてやれば立派な騎士になれる素質がある。


「ナイト、その腕立てが終わったら褒美をやるぞ」


「ほ、褒美ですか、アイラ教官」



「ああ、褒美だ。それはだな……今後も私がたっぷりとシゴいてやることだ。ということで次は腹筋百回だ」


「腹筋百回なんてしたら俺の腹筋は崩壊してしまいます。でも、アイラ教官にシゴいてもらえる……。ごくり」


 腹筋は嫌だと言いながらも、なぜか鼻の下を伸ばすナイト。

 この男、何か別のことを考えてないか?

 まあいいか。私の知ったことではない。


「ナイトさん。私は今すぐに褒美をあげますね」


 リマはそう言うと肩を抱き、唇をナイト殿に近づけた。



 リマは突然ナイト殿とキスしようとする傾向がある。これまでに何度もそういった場面を見た。

 だが、実際にキスをした場面というのは見たことがない。


「この地獄の特訓を続けるよりかは、いっそキスを受けるのもアリかもな。リマ、キスしようか」


「ほ、ほんとですかっ!? やったやった!」


 リマは大喜びしてぴょんぴょんと小動物のように跳ねた。可愛い。思わず抱きしめたくなるような可愛さだ。ドルチェ王国の道具屋に売ってある若い女子に大人気の人形--うさぴょんみたいだ。


 しかしこのリマという女、底が知れん。

 何かを隠している気がしてならない。


 そしてナイトという男。なぜこんなにも異性のカラダに興味が湧くのだ。それが全然わからん。


 やはり男性を好きになったことがかないから私にはわからんのか?

 うーむ。さすがにキスはできないが、肌が触れ合えば何か芽生えるのか……?


「ナイト、私の褒美だが、そ、その……もう一つあってだな……。は、ははは、ハグをしてやろうかと……思うのだが」


 ハグをすると伝えようとしただけなのに、思わず照れてしまったではないか。

 やはり私もまだまだだ。もっとこっち方面を鍛える必要がある。


「リマ、さっきのキスの件はキャンセルで」


 私の言葉を聞いたナイトは、リマとの口約束を破棄。

 するとリマはあからさまに態度を一変させ「ちっ」と一言だけ残した。


 リマの白っぽい肌と髪。外面は白でできているが、それとは裏腹に内面は相当腹黒いようだ。


 まあ、特命を受けている今の私も、同様に腹黒なのかもしれないが。


 しかしリマという女、やはり何かを隠しているな。もしや、キスが何か能力に関する重要なキーとなっているのか?


 しかし、キスは好きな人とするものだと聞いている。

 リマやナイトは誰とでもできる性格なのかもしれないが、私には誰とでもキスなんてできない。


 キスできるような好きな人か。

 こんな私にできる日がくるのだろうか。


「おっさんにアイラの胸は渡さないわよ。アイラとハグするのはアタシなんだから」


 サーチャ殿が突然の宣戦布告。

 私はこれまで何度もサーチャ殿に揉みしだかれた。特に最近はほぼ毎日だ。

 なぜ揉むのか聞いたところ、揉み心地と私の反応が良いのだという。

 しかし、サーチャ殿にはシエル殿という男性がいながら、私の胸だけは渡さないというのは一体なんなのか。


「サーチャはどんどんメトリさんみたいになっていってるね」


「そ、そんなことないわよ! メトリは男嫌いの女好きだったけど、アタシは、その……し、シエルも大好きなんだからねっ」


 その言葉を最後に、二人とも顔を真っ赤にしてしまった。


 そんなサーチャ殿とシエル殿。

 この二人が横に並んで、どこか恥ずかしそうに話す姿を見るたびに、つい私の心はぴゅあぴゅあしてしまう。


 純粋な気持ちになるというか、なんというか。ああ、これが恋なのかなあ、とか思ったりする。


 これはサーチャ殿から聞いた話なのだが、シエル殿は普段は大人しめだが、やる時はやる男らしい。

 何度もサーチャ殿の危機を救ってくれたりだとかなんとか。

 また、サーチャ殿がシエル殿を一方的に好きだったらしいのだが、先に告白したのはシエル殿だったとか。


 そんな二人は現在、ふふふっと笑いあっている。いい光景だ。



 そろそろ私も恋をするべきなのか……?

 しかし、恋はするものではなく、落ちるものだと聞くし……。だめだ。やはりわからん。



 と、色恋沙汰に頭を悩ます私だが、他にも悩ませているのとがあった。


 それは、私には正しく世界が見えているのかについてだ。


 杖女からの、


「アナタはちゃんと世界が見えているのかしら」


 という一言。


 あの棘のような言葉が、心の奥底にぶすりと刺さっていた。


 確かに私達騎士団の誤ちにより、ナイトとリマを誤認逮捕したことは否めない。

 姫攫いの事件全体が見えていなかったともいえよう。


 また、私の剣は本当に活かされているのか、という騎士道に関する私の在り方も悩みとなっていた。


「俺は真に俺の剣を活かすことができる道を選んだ。その結果、悪の道を走ることになっただけだ。俺はこの剣を活かす道を悪いと思ったことはない」


 ブロンザは自信を持ってこう答えた。

 そして自分の剣は活かされていると答えた。



 だが私は?


 私の剣は何かを救えているのか?

 誰かを救えているのか?

 私が救っていると思っているだけで、自己満足になっているのではないのか?


 うむ。これもわからん。

 世の中は分からないことだらけだ。


 そうして私が悩んでいる間に、鍛錬を兼ねた休憩時間は刻々と過ぎていった。



 --


 馬車だとやはり到着までが早い。

 あと二日ほどで目的地であるヘリクダールに辿り着こうとしていた。


 現在馬を操っているのはシエル殿とナイトだ。

 おんな三人は馬車内、いや、ここは家内とでも言っておこうか。

 とにかく、中で寛いでいた。


 旅は順調。天気も快晴。

 馬車の窓から入り込んでくる風は少し強いが心地よい。


 頭の後ろに纏めた髪が揺らめく。

 その乱れそうになった髪を手で軽く抑えたところ、


「アイラってほんと絵になる美しさよね」


 と、サーチャ殿がぽつりと一言。


「ほんとです。綺麗で女性的で……。とにかく羨ましいです。それなのに、なんで相手の男性がいないんでしょうか。それが不思議でなりません」


 リマも話に乗っかってきた。

 恋バナだ。私の苦手な恋バナが始まってしまった。


「わ、私のことはいいんだ……。それより、リマ殿も相手の男性はいないと聞いているが」


「私は男性二人の……ゲフンゲフン。いえ、何もないです」


 リマ殿は何を言おうとしたんだ?

 怪しい…...非常に怪しい。


「男性二人の……の先は何なんだ?」


「まあ、ちょっと言いにくいんですけど、男性二人の価値観くらいは比べたりしないといけないなーと思いまして。ほら、一人だけを好きになってしまうと、その人のことしか分からないじゃないですか。でも二人のことを知れたら、それぞれ違う価値観を持った男性のことも知れる。そのうちの自分の好みだった価値観の男性を選ぶ。そういったことも必要かなと思いまして」


 チラッとサーチャを見たあと、リマは私に視線を移した。


 む……。

 この女、意外に男性のことについて考えていたんだな。


 しかし、二人の男性か……。

 今の私は二人の男性を比べるような芸当はできないだろう。


「ふーん。そういう考えもあるのね。でもアタシは、誰がなんと言おうとシエル一筋だから」


 顎を上げてきっぱりとサーチャ殿は言い放った。


 うむ。私もサーチャ殿のように、一人の男性に夢中になるタイプかもしれない。


「でもリマ殿はナイトのこと好きなんだろ? ほら、いつもキスしようとするし」


「あ、あの行為はペット契約上でのあれこれのせいでありまして……。まあ契約の内容というのはちょっと言えないんですけどね。ただ、私がしたくてキスを迫ってるわけじゃないですよ。だからナイトさんのことも好きじゃないです」


「そ、そうだったのか……。ついてっきり、ナイトのことを好きだからああいうことをしているのだとばっかり……」


 この時、私は気づいてしまった。

 なぜか安心してしまった自分がいたことに。


 なんなのだ?

 なぜ安心したのだ?

 リマはナイトのこと好きじゃないと聞いただけなのに……。


 パカッパカッと一定のリズムで馬車の蹄鉄音が鳴っている。その音がどこか遠くから私の耳に入ってくる。


 しかし、その一定の音とは裏腹に、私の心はどくり、どくり、と不自然な乱れを起こしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ