咲き初める想い(4)
夕食を食べ終えたチドリは、シャイル、ステラ、ファリアの三人と共に風呂に入っていた。
満点の星空の下で入る露天風呂は格別だった。聞けば、これも先代の魔道士によってつくられたのだという。湯面には色とりどりの花びらが浮かべられていた。
「はー……なんか、どっと疲れたわ。泣くのって、案外体力使うのね」
「二人とも、赤子のように泣いておったのう」
「……目がヒリヒリする」
「後で冷やした方が良いですわ。腫れてしまっていますもの」
「服も涙でグショグショだしね」
四人が顔を見合わせて笑う。
チドリは胸のつかえが取れたような、清々しい気分を味わっていた。
「ねえ、チドリ……お兄様に、伝えるの?自分の気持ち」
ステラがそっと尋ねる。しばらく夜空を見つめてから、チドリはしっかり頷いた。
「……怖いけど、言うよ。このままの状態でお城にいるより、きちんと告白して玉砕して、お友達に戻れたらいいなって思ってる」
(なんでフラれる前提なのかしら……)
疑問に思ったが、笑顔のチドリに水を差したくはなかった。
「……でもまだ、決心がつかないの。告白なんて初めてだし…………だ、誰かを好きになったことなんて、なかった、し」
チドリの頬が染まる。三人がニヤリと笑った。
「へぇ~?そうなのぉ?」
「え、あ、いや」
「チドリは、あの王子のどこが好きなのかえ?」
「まあ!それは私も聞いてみたいですわ~!」
「え!?」
「ほらほら、白状しなさいよぉ」
ステラがチドリの脇腹を擽る。チドリはたまらず奇声を上げて身を捩った。
「ス、ステラ!ちょ、ちょっとやめ……ふびゃっ!」
「おほほほ!言わないならこのままよ!」
「や、やめ、い、言う!言うから!離してっ!」
「それで、どこがお好きなんですの?」
「え、えっと、あの、や、優しいとこ……とか?」
「無難すぎるわよ!」
「ぎゃあっ」
そのうち、擽られ過ぎてチドリの息が上がった。湯の縁にグッタリともたれ、恨めし気にステラを睨む。
「も、もうダメ……のぼせた、かも……」
「先に上がってる?涼んでていいわよ」
「ステラのせいなのに……」
「白状しないチドリが悪いのよ」
「もー……」
ふくれっ面のまま、チドリが一人湯から上がった。その背が脱衣所に入るのを見届けてから、三人が額を寄せ合う。
「どう思う?あれ」
「ふむ……完全に玉砕する気でおるの」
「前向きに後ろ向き、って感じですわね」
「ホントよね……でもまあ、告白する気になってくれてよかったわ」
「傍目から見れば、完全にすれ違いを起こしておるようじゃからのう」
「あとはレアン様次第、ですわね」
「そこなのよねー……お兄様も、何か相当な勘違いして落ち込んでるみたいだし」
「それならば、妾に良い考えがあるぞ」
ヒソヒソと話すシャイルの声に耳を傾けた二人の表情が、パッと明るくなった。
「すごい……!シャイルさん、そんなことできるの!?」
「これでも一国の魔道士じゃからの」
「その方法なら、誰の邪魔も入らなくて済みますね!」
「よーし……じゃあ、それでいきましょ!」
星空に向け、三人は小さく拳を突き上げたのだった。
着替えを済ませたチドリは、珠桜の部屋を訪れていた。
夜空の下、いくつかの蝋燭が幻想的に桜の花を照らしだしている。淡い橙色の火の明かりが、薄紅を染めていた。
その根元に腰を下ろし、幹に頭をもたれさせる。優しい香りに包まれ、心が穏やかになっていく。
空気が揺らぎ、精霊王達が姿を現した。
「みんな……?」
『チドリ……!も、もう大丈夫なのか!?』
『ずっと泣いてて、皆心配してたのよぉ……慰めてあげたかったけど、出て行けるような雰囲気でもなかったし……』
『…………心配、したぞ』
『全く、蜂に刺されたような目をしおって……』
『元気に、とは言わないけど、せめて笑えるようになってよかったよ』
『う、うん……安心、したよ』
六人の言葉に、チドリの頬が緩む。
「ありがとう、皆」
『いいのよぉ。チドリちゃんが笑ってくれて、私達もほっとしたわぁ』
翠妃がチドリの頭を撫でる。それに続いて、紅焔と琥珀もチドリを撫でた。
夜桜の下で、チドリは何とも言えない満たされた気持ちに浸る。
まだほんのり熱い瞼を、花風が優しく冷ましていった。
「咲き初める」の「初める」は「はじめる」ではなく「そめる」と読みます(^_^;)一応、言わせて頂きたく……すみません(-_-;)




