ＡＣＴion 35 『交差する場所 ２』
店舗中央、据えられた半円卓へクロマは駆け上がった。
（アニキ、造語の訳がきたで！）
ミノムシドアの前、苛立っていたたテンの視線はクロマへ飛び、前へ、プラットボードを抱えた通信係は駆け込んで来る。肩に添付ファイルを張り付けたトニックのホログラムはそこで優雅と踊り、見て取ったテンの眉間は一瞬にして開いた。顔を上げるなり周囲へ鋭く腕を振り下ろす。
（撤収や！ 奴らの移動先が分かった。追跡する！）（アズウェルの位置を、全員の電子地図へ転送や）（ええか、全員、手元の電子地図端末確認せー！ 確保、対象はそこや！ 今から乗り込む！）
上下、二本づつで、通信係と周囲へ同時に綴った。
遅れまじと転送されたデータへ、船賊たちも先を争うように電子地図を開いてゆく。傍らから、メジャーの腕はテンへと突き出されていた。
（テン、ここは飲食店ですよ。今行くと客がいるんじゃないですか？）
（フェイオンほどやないやろ。今度こそ囲む）
メジャーへ上二本の腕で振って、またもや同時に下に本で通信係へも指示を出す。
（連邦に、訳は確認した、今から向かうゆうて伝えろ。それから確保したときの引渡し方法も教えとけ、いうとけ）
（了解っす）
通信係の顔へ満面の笑みは浮かび、一歩さがった場所でメッセージをプラットボードへ読み込ませ始めた。
背にしてテンは大きく四本の腕を広げる。
（ええか、お前らアホやからな、同じ段取りで行くぞ！）
勢いに外套は翻り、位置把握につとめていた船賊たちは弾かれたかのようにテンへ顔を上げていた。
（現場は今回も店や。クロマのチームは裏口から先に突入しろ。こっちは表から客を装って入店する！ ただし、メシ時や。客がわんさとおる可能性が高い。相手の顔は忘れてへんやろうな。今回はマーキングはされてへんから見失いやすいぞ。忘れた言うヤツは現地につくまでもう一回、頭に叩き込んどけ）
テンを見つめる顔はどれも、これからの大仕事を前にこれまでないほど引き締まっている。見回しテンは、ここぞと鼓舞して腕をふるった。
（これが最後や、気合入れて行け！）
動話はそのとき舞踏にも武道にも通じると、翻る外套の動きとあいまって見る者を圧倒する。おかげでテンの腕が空を切ってから船賊たちが答えるまで、しばらくの間さえ空いていた。やがて了解の意を伝え、スパークショットは振り上げられる。見渡しテンは最後にクロマへと視線を投げた。引いたアゴで促せば、クロマは身を翻す。自らのチームを呼び寄せると、裏口から飛び出していった。
店内はあっという間に閑散とする。
（なら、わたしたちも行きましょう。テン）
乱さずメジャーがやんわり動話を揺らしていた。
（よっしゃ……）
乱れた外套の前を整えなおす。テンはその手でミノムシドアを押し開けた。
『なんだと？』
一方、降船準備の整ったトラは光速出口を前に唖然としていた。何しろ砂漠港の貸しドックはどこも満杯だ。
『わしにどこへ降りろと……』
さすがに取る物もとりあえず『Ｏｐ・１』を飛び出してきただけはある。慌てて近場の検索に取り掛かるが、それこそが田舎町という場所柄か。町に隣接する港は砂漠港以外に存在せず、あるとするなら時差が生ずるほども離れた谷あいの、外資系フルオート工場が立ち並ぶ一角、工場専用のドックのみだった。たとえ『アーツェ』にたどり着いたとしてもそれでは意味がない。
おたおたしているうちにオートパイロットは光速を降りる準備を整え、出口への侵入回避可能エリア突破までのカウントダウンを、コクピットのアクリル下部へ高速スクロールさせ始める。インターが要求する船種の申告に応じて船のメインコンピュータがデータを提示し、うちにも船は侵入回避可能エリアを通過した。利用光速料金の精算明細がアクリルへ表示され、瞬間、視界は白く弾ける。広がった光が見る間に点へ収縮すれば、アクリル一面に乾いた惑星『アーツェ』は浮かんでいた。
もちろん、このまま砂塵の中へ不時着するわけにはゆかない。ドック探しを諦めたトラは潔くオートパイロットのスイッチを切る。
『軍基地跡の滑走路を利用するしかあるまい』
しかめ面が、その顔面へさらに深く複雑なシワを刻み込ませた。
多く砂塵を含む大気に、早くもアクリルは摩擦熱で赤く染まっている。
睨みつけてトラは間近と迫った緊急着陸に身構えた。
