表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の猫と創生の魔女  作者: 金林明莉
第一章 白銀の猫
PR
5/14

第5話 君だから

 髪飾りを預ける約束をしてからも、二人の日々は変わらず続いていた。朝になれば森で会い、一緒に過ごし、夕方になればそれぞれの帰る場所へ戻る。そんな穏やかな毎日だった。

     ◇

 その日、ソルはいつものように樫の木の下でアイリスを待っていた。首元では、小さな青い髪飾りが風に揺れている。陽の光を受けるたび、青い石が深い青を滲ませた。

 アイリスは思わず足を止める。

「……やっぱり、すごく似合う」 嬉しそうに呟くとアイリスはしゃがみ込み、少し離れて眺める。

「すごく似合う。」

 ソルは不思議そうに首を傾げた。その拍子に青い石がきらりと光を返す。

「ほら。」

「また光った。」

 嬉しそうに微笑む。

「君が付けてる方が、もっと綺麗に見える。」

 ソルは少し照れたように視線を逸らした。

「ふふ。」

「照れた。」

 白い尻尾が一度だけ揺れる。その様子がおかしくて、アイリスの口から小さな笑いがこぼれた。

     ◇

「今日はね。」

 アイリスは足元に咲く花を見つめる。

「いいもの作ってあげる。」

 白い花。青い花。黄色い花。小さな花を一本ずつ摘み取り、丁寧に編み込んでいく。

 ソルは少し離れた場所から、その様子をじっと見つめていた。

「もう少し。」

「動かないでね。」

 やがて、小さな花冠が出来上がる。

「できた。」

 満足そうに頷く。

「ソル。」

 呼ばれると、ソルはゆっくり近付いてきた。

「ちょっとだけ。」

「お願い。」

 アイリスはそっと花冠をソルの頭へ乗せる。白銀の毛並みに色とりどりの花が咲く。首元には青い髪飾り。思わず見惚れてしまうほど綺麗だった。

「……世界で一番、似合ってる。」

 ソルは固まったまま動かない。

「気に入った?」

 前足をゆっくり持ち上げる。

「あっ、だめ!」

 花冠を外そうとするソルを、アイリスは慌てて止める。

「もう少しだけ!」

 困ったように鳴くソル。その表情があまりにも可笑しくて。アイリスは堪えきれず笑い出した。

「あははっ。」

「ごめん、ごめん。」

「もう外していいよ。」

 花冠を外すと、ソルは大げさなくらい首を振り、毛並みを整え始める。

「そんなに嫌だった?」

 ソルはちらりとアイリスを見る。その少しだけ拗ねたような表情が可笑しくて。アイリスはまた笑った。

 その笑い声は、森いっぱいへ優しく響いていった。

     ◇

 花冠を外したあとも、二人は樫の木の下でゆっくりと過ごしていた。吹き抜ける風が心地よい。ソルはアイリスの隣で丸くなり、静かに目を閉じている。

 アイリスはその背中をゆっくり撫でながら、小さく口を開いた。

「今日ね。」

 少しだけ嬉しそうに笑う。

「院長先生に褒められたの。」

 ソルは耳をぴくりと動かす。

「洗濯物を畳むのが早くなったねって。」

 アイリスは照れくさそうに笑った。

「ちょっと嬉しかった。」

 少し間を置く。

「でもね。」

 笑顔が少しだけ小さくなる。

「私。」

「頑張れるから褒めてもらえたんだよね。」

 膝の上へ視線を落とす。

「もし。」

「何もできなくなったら。」

 風が木々を揺らす。静かな沈黙が流れた。

「誰の役にも立てなくなったら。」

 小さく笑う。

「私。」

「ここにいてもいいのかな。」

 その言葉は独り言のようだった。

 ソルはゆっくり立ち上がる。

 そして。

 アイリスの手へ、自分の額をそっと寄せた。ふわり、と柔らかな毛並みが触れる。

「……また慰めてくれるの?」

 ソルは静かに喉を鳴らした。

 ごろ、ごろ。

 優しい音が森へ溶けていく。

 アイリスは目を細めた。

「ありがとう。」

 ゆっくりと頭を撫でる。


「君は。」

「何もできなくても。」

「君だから、一緒にいたいって思うよ。」


 その言葉に。

 ソルは少しだけ目を見開いた。

 人としてではない。王族としてでもない。白い猫である自分自身へ向けられた、初めての言葉だった。

 ソルは何も言わない。

 言えない。

 けれど。

 その青い瞳は、いつもより少しだけ優しく細められていた。

 風が二人の間を静かに吹き抜ける。

 

 アイリスは知らない。

 自分が何気なく口にしたその言葉が。

 ソルの胸の奥へ、深く残り続けることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ