第七章 聖雷の咆哮と四人の決意
森を抜けた四人は、岩場と疎林が混じる険しい山道を進んでいた。
雨はようやく小雨に変わっていたが、空は依然として重く暗い。
黒崎零は先頭を歩き、鬼哭丸の柄に右手を置いたまま、周囲の気配を鋭く警戒していた。
体中の傷はシルフィアの回復魔法で表面上は塞がっていたが、深い疲労が残っていた。
ルリアは零の背中に軽く寄りかかるようにして歩き、時折小さく息を乱していた。
天城蓮は少し後方を歩き、二本の刀を腰に差した軽やかな足取りで後方を警戒している。
シルフィアはルリアの横を歩き、杖を握りしめながら淡い緑色の魔力を絶え間なく放ち、皆の体力を少しずつ回復させ続けていた。
「もう少しでこの山を越えれば、隠れ里に近づけます……」
シルフィアが静かに言った。
零は低く答えた。
「油断するな。
聖王国はすでに総力を挙げてきている。
次に来るのは、ただの追撃隊ではないはずだ」
その言葉が終わらないうちに、空が不自然に明るくなった。
遠くから聞こえてくるのは、重く低い雷鳴のような音。
地面が微かに震え、聖なる光の気配が急激に膨れ上がる。
零の表情が一瞬で引き締まった。
「……来た。
聖雷騎士団の本隊だ」
その瞬間、尾根の向こう側から白銀の波が現れた。
百三十人を超える大部隊。
重装聖騎士が整然と盾を連ね、神官騎士が二十五名、後方には大型の魔導砲まで展開されている。
中央に立つのは、ガルド・ヴァルハラの兄であり、聖雷騎士団副団長「ライオス・グラン・ヴァルハラ」。
冷酷で計算高い男だった。
ライオスは白銀の鎧に雷の紋章を刻んだマントを翻し、低く響く声で宣言した。
「鬼哭の零……魔王の落とし子ルリア。
お前たちをここで終わらせる。
聖王の名の下に、魔族の血を絶やす」
エレナ・ソルティアもその隣に立ち、冷たい笑みを浮かべた。
「穢れの王女……今日こそお前の運命は終わるわ」
戦闘が始まった瞬間、空から聖なる雷が落ちてきた。
零は即座に鬼哭丸を抜き、青白い光を最大限に放って雷を切り裂いた。
しかし雷は一本ではなく、次々と落ちてくる。
蓮が二刀を交差させて防御し、シルフィアが緑色の結界を全力で展開する。
「零! これは聖雷だ! 威力が高い!」
零は低く唸った。
「わかっている。
皆、円陣を組め! ルリアを中央に守る。
蓮は右側面、シルフィアは回復と防御に集中しろ。
俺が正面を抑える!」
聖雷が連続で落ち、地面を焼き、岩を砕く。
重装騎士たちが盾壁を形成しながら前進し、神官たちが雷と炎を同時に浴びせてくる。
零は鬼哭丸を振り回し、雷を切り裂きながら敵の波に斬り込んでいく。
ルリアは岩陰で体を縮こまらせながら、三人を見つめていた。
彼女の紅い瞳は恐怖と、零たちへの想いで潤んでいた。
零の視線が一瞬ルリアに向いた瞬間、聖雷の一撃が零の左肩を直撃した。
激しい痛みが走り、零の体が大きくよろめく。
「零——!」
ルリアの悲痛な声が響いた。
その叫びが、零の胸に熱いものを呼び起こした。
(……守る。
ルリアを、蓮を、シルフィアを……皆を守る。
たとえこの体が限界を迎えようとも……俺は侍だ!)
零は歯を食いしばり、鬼哭丸を両手で構え直した。
青白い光がこれまでで最も強く輝き、聖雷の奔流を切り裂きながらライオスとガルドに向かって突進した。
戦いはまだ始まったばかりだった。
四人の逃避行は、ここからさらに過酷な局面を迎えようとしていた——。




