第六章 森の追跡と新たな出会い
洞窟を後にした四人は、再び雨の降りしきる森の中を進んでいた。
雨はまだ激しく、木々の葉を叩く音が絶え間なく響いている。
零は先頭を歩き、鬼哭丸の柄に右手を置いたまま、周囲の気配を鋭く警戒していた。
ルリアは零の背中に軽く寄りかかるようにして歩き、時折小さく息を乱していた。
天城蓮は少し後方を歩き、二本の刀を腰に差した軽やかな足取りで後方を警戒している。
シルフィアはルリアの横を歩き、杖を握りしめながら淡い緑色の魔力を絶え間なく放ち、皆の体力を少しずつ回復させ続けていた。
森は深く、木々が密集して視界をほとんど奪っていた。
足元は泥と落ち葉でぬかるみ、零の黒革旅靴がずぶずぶと沈むたび、冷たい水が染み込んでくる。
雨が木の葉を叩く音、遠くで獣の遠吠えが響き、時折木々の間から聞こえる金属の擦れるような音が、零の神経を尖らせていた。
聖騎士団の残党がまだ追ってきている可能性は高かった。
零は右腕でルリアの体を支え、左手に鬼哭丸を握ったまま、いつでも抜けるように構えていた。
(守ると決めた以上、絶対に守り抜く。
侍として、一度背中を見せたら終わりだ)
森を進むことおよそ一時間半。
ようやく木々が少し開け、小さな川が流れる開けた場所に出た。
零は足を止め、低く言った。
「ここで少し休む。
水を補給して、傷の具合を確認する」
ルリアは木の根元に腰を下ろし、ほっと息を吐いた。
「零……みんな……ありがとう……
私、みんなに迷惑ばかりかけて……」
蓮が笑いながら水筒を川で満たした。
「気にすんなよ、ルリアちゃん。
俺たちは零に巻き込まれただけだ。
それに、魔王の娘を守るなんて、なかなか面白い冒険だぜ」
シルフィアはルリアの傷をもう一度確認しながら、穏やかに言った。
「ルリア様は無理をしないでください。
私の魔法で、皆さんの体力を保てますから……」
零は川の水で顔を洗いながら、静かに周囲を見回した。
「油断するな。
追手はまだ近い。
この川を渡ったら、少しペースを上げて隠れ里を目指す」
四人が水を補給し、短い休息を取っていると、突然、森の奥から重い足音が響き始めた。
零の表情が一瞬で引き締まる。
「来る……今度は十人以上だ。
皆、戦闘準備」
蓮が二本の刀を抜き、軽く構えた。
「了解。右側面は俺がやる」
シルフィアは杖を握りしめ、緑色の魔力を立ち上らせた。
「防御結界を張ります。ルリア様は私の後ろに」
ルリアは木の根元に身を隠しながら、小さく頷いた。
「零……みんな……気をつけて……」
聖騎士たちが木々の間から一斉に姿を現した。
十人以上の軽装と重装が混じった追撃隊だった。
先頭の騎士が聖剣を構え、叫んだ。
「魔王の落とし子を見つけた! 生け捕りにしろ!
侍どもは殺せ!」
戦闘が始まった。
零が正面から鬼哭丸を抜き、青白い光を放って突進した。
最初の重装騎士の盾を横薙ぎに切り裂き、血しぶきを上げさせる。
蓮が右側面から高速で回り込み、二刀流で敵の側面を崩していく。
シルフィアは後方から緑色の結界を張り、ルリアを守りながら回復魔法を準備した。
零の鬼哭丸が雨を切り裂き、聖剣を弾き返し、鎧の隙間を的確に抉る。
血しぶきが零の黒い羽織に飛び、肩に新しい傷が増える。
しかし零の動きは止まらない。
「守る……この少女を、絶対に守る!」
零の剣が閃くたび、桜の花びらが雨に打たれながら舞い落ち、戦場を赤く染めていった。
戦いは激しく続き、四人は連携しながら敵を次々と倒していく。
しかし敵の数はまだ多く、戦いは長引きそうだった。
零は歯を食いしばりながら思った。
(このままでは……いずれ限界が来る。
もっと仲間が必要だ……)
雨の中、四人の逃避行は、激しい戦いを経て、さらに過酷なものへと続いていく——。




