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『鬼神の刀と桜の誓い』〜異世界転生侍、魔王の娘を守る〜  作者: 蒼狐


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第六章 血に染まる桜と新たなる相棒

戦いの余韻がまだ洞窟の中に重く残っていた。

地面に横たわる白銀の鎧の山、血と泥が混じり合った赤黒い水溜まり、そしてその上にゆっくりと落ち続ける薄紅色の桜の花びら。

朝の光が洞窟の入り口から差し込み、すべてを冷たく、しかし鮮やかに照らし出していた。


黒崎零は鬼哭丸を鞘に収め、荒い息を整えながらゆっくりと立ち上がった。

体中の傷が熱く疼き、黒い羽織は血しぶきでべっとりと重く張り付いている。

左肩の深い切り傷から血が滴り落ち、右腕にもいくつもの浅い傷が刻まれていた。

それでも零の瞳はまだ鬼のように鋭く、侍の意志が揺るいでいないことを示していた。


ルリアは岩壁に寄りかかったまま、紅い瞳を大きく見開いて零を見つめていた。

戦いの激しい振動で零の羽織が大きくずれ、雨に透けきった純白のドレスがほとんど意味をなさなくなっている。

白い胸の膨らみが荒い息遣いで激しく上下し、薄い布地越しに硬くなった淡いピンク色の突起がくっきりと浮かび上がっていた。

傷口から溢れた血が太ももの内側を長く、艶やかに伝い落ち、朝の光にぬるりと光を反射している。


「零……本当に、大丈夫……? はぁ……っ、零の傷……血が止まらない……」


ルリアの声は甘く掠れ、痛みと安堵が混じり合っていた。

零は膝を折り、彼女の傍らに座り込んだ。

指が自然とルリアの脇腹に伸び、傷の具合を確かめる。

白い肌が大きく露わになり、柔らかな胸の下部まで視界に入った瞬間、ルリアの体がびくりと震えた。


「ん……っ、零の指……まだ熱い……戦いの後なのに……身体が、じんじん疼いて……」


ルリアの細い指が零の手に弱々しく絡みつき、甘く切ない吐息が零の頰に直接かかった。

戦闘直後の興奮と痛みが混じり、二人の息遣いが濃密に重なり合う。

零の胸に熱いものが込み上げ、侍の理性がわずかに揺らぐのを感じた。


(……守るだけだ。それ以上は許されぬ……

 この柔らかな感触、この吐息……今は傷の手当てに集中しろ)


零が低く答えたその時、洞窟の外から新たな足音が聞こえてきた。

重い聖騎士のブーツ音ではない。軽やかだが、確かな戦士の歩み。

零は即座に鬼哭丸の柄に手をかけ、体を起こした。


「まだ……来るのか?」


しかし現れたのは、白銀の鎧をまとった敵ではなかった。


森の木々の間から、血にまみれた若い男がよろよろと姿を現した。

年齢は零と同じくらい、二十歳前後。

黒髪を短く切り、左目に古い刀傷が走っている。

装備は零に似た黒い着物風の旅装に軽鎧を重ね、腰に二本の刀を差していた。

右手に握った刀からはまだ血が滴り落ち、左腕には深い切り傷が開き、血が袖を赤く染めている。


男は洞窟の入り口で零と目が合い、驚いたように立ち止まった。


「……おい、侍か? その格好と刀……お前も現代日本から来たのか?

 聖騎士の追撃隊をあんなに斬り倒したのは、お前一人でか?」


零は構えを解かず、低く答えた。


「黒崎零だ。お前は?」


男は苦笑を浮かべ、刀を鞘に収めながらゆっくりと近づいてきた。

左腕の傷を押さえ、痛みに顔をしかめながらも、目は戦士らしい鋭さを保っていた。


「俺は天城 蓮。

 この世界に飛ばされて五年目。元は日本の高校剣道部……お前と同じだろ?

 二刀流でやってる。聖騎士どもに利用されて、嫌気が差して逃げてきたところだ。

 ……仲間とはぐれて、単独で戦ってたが、かなりキツかったぜ」


零は一瞬、蓮の目をじっと見つめた。

その瞳に偽りがないことを確認し、わずかに構えを緩めた。


「侍として、一度守ると決めたら背中を見せない。

 お前はどうする? 聖王国側に与するつもりか?」


蓮は肩をすくめ、洞窟の中に入ってきた。


「冗談じゃねえよ。俺はもう聖騎士の『正義』なんて信じてない。

 守りたいものを守る……それだけだ。

 お前が守ってるのは、魔王の第七王女……ルリア・ヴァル・ノクティスだろ?

 噂は聞いたことがある。最高額の賞金首だってな」


ルリアが零の後ろで小さく息を飲んだ。

零はルリアの肩を優しく抱き、蓮に向かって言った。


「そうだ。俺は彼女を守ると決めた。

 それに逆らうなら、お前も斬る。

 だが……侍の掟に、仲間を拒む理由はない。

 傷の手当てを手伝えるなら、加われ」


蓮は洞窟の壁に寄りかかり、左腕の傷を布で簡易的に縛りながら笑った。


「ありがとよ、鬼哭の零。

 お前の名前は、この世界じゃ少し有名だぜ。

 桜の花びらの中で敵を斬る侍……ってな。

 俺も、ようやく守りたいものが見つかった気がする。

 この世界で、孤独に剣を振るうのも限界だったからな」


ルリアが零の袖を弱々しく引き、潤んだ紅い瞳で蓮を見た。


「……零の仲間……になるの?

 私……怖いけど……零が信じるなら……信じる……」


零はルリアの傷をもう一度確認しながら、低く言った。


「まずは傷の手当てだ。

 蓮、お前も座れ。血が止まっていない。

 すぐにここを離れる。聖騎士の残党が来る前に、近くの隠れ里か中立の村を目指す。

 道中、追手が来たら……お前も戦う覚悟はあるな?」


蓮は二本の刀の柄に軽く手を置き、にやりと笑った。


「当然だろ。

 俺の二刀流は、お前の鬼哭丸と相性いいと思うぜ。

 お前が正面から斬り込むなら、俺は横から回り込んで隙を突く。

 ……それに、魔王の娘を守るってのは、相当な覚悟が必要だ。

 俺も、その覚悟に少しでも加われるなら、光栄だよ」


零は蓮の言葉を聞きながら、ルリアの傷に新しい布を当てた。

指が白い肌に触れるたび、ルリアの細い腰が小さくくねり、甘い吐息が漏れる。


「ん……っ、零……優しく……

 蓮さんがいるのに……はぁ……っ、身体が熱い……」


蓮はそれを横目で見て、軽く吹き出した。


「へえ……お前ら、ただの護衛と保護対象じゃねえな。

 まあ、いいさ。俺は邪魔はしない。

 ただ、零……お前が侍の掟をどれだけ守れるか、ちょっと見てみたいぜ」


零は苦笑を浮かべ、鬼哭丸の柄に手を置いた。


「侍の掟は揺るがない。

 守ると決めたら、命を賭す。

 仲間が増えようと、それは変わらん」


洞窟の外では、血に染まった桜の花びらが朝風に舞い、三人の影を静かに照らしていた。


天城 蓮の登場は、零とルリアの逃避行を、

ただの二人きりの物語から、

より過酷で、しかし新たな絆が生まれる物語へと変えようとしていた。


零は内心で思った。


(……これで終わりではない。

 仲間はまだ増えるかもしれない。

 守るべきものが増えれば、俺の刀はさらに重くなる。

 だが、それでも……俺は侍だ)


ルリアは零の胸に軽く体を預け、蓮をちらりと見ながら小さく微笑んだ。


「零……蓮さん……これから、よろしく……ね……」


三人は傷の手当てを終えると、すぐに洞窟を後にした。

血の臭いが残る森を抜け、朝の光の中を進み始める。

後ろには倒れた聖騎士たちの亡骸と、赤く染まった桜の花びらが静かに残されていた。


しかし、これは始まりに過ぎなかった。

聖王国連合の追撃はさらに激しさを増し、

零、ルリア、蓮の三人を試す新たな戦いが、

すぐそこに待ち受けていた——。

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