第二十二章 絶望の淵と銀の救い
ガルド・ヴァルハラが大剣を構え、ゆっくりと近づいてくる。
その重い足音が、雨音と雷鳴の中で不気味に響いた。
零は片膝をついたまま、鬼哭丸を杖代わりにして体を支えていた。
視界がぼやけ、息をするのも苦しい。
右太ももと左腕からの出血が止まらず、地面を赤く染めている。
蓮は右膝をつき、二刀を地面に突き立てて体を支えながら荒い息を吐いていた。
シルフィアとシルヴァーナは魔力を使い果たし、膝を着いたまま動けない。
ルリアは岩陰から這い出し、震える声で叫んだ。
「零……! みんな……!
もう……やめて……!」
ガルドは冷たい笑みを浮かべ、大剣を振り上げた。
「これで終わりだ、鬼哭の零。
お前の桜は、ここで散る。」
その瞬間——
森の奥から、鋭い銀色の光が飛び出した。
「——させない!」
低い、しかし力強い女性の声が響き渡った。
銀色の短い角と、淡い紫がかった黒い戦闘衣を纏った女性が、雷の間を高速で駆け抜けてきた。
身長は165センチほど。引き締まった戦士の体躯に、腰には一本の直刀を差している。
彼女は零とルリアの間に飛び込み、両手を広げてガルドの攻撃を阻んだ。
「ルリア様……!
私はアリア・ヴァル・ノクティス。
魔王軍の生き残り、近衛騎士です。
第七王女をお守りするために参りました!」
新たに現れた女性——**アリア・ヴァル・ノクティス**は、ルリアの遠い血族であり、魔王城の近衛を務めていた戦士だった。
冷静沈着で剣術に優れ、魔力よりも身体能力と戦闘技術に長けている。
アリアは即座に直刀を抜き、ガルドの大剣を迎え撃った。
ガァンッ!
二つの刃が激しくぶつかり、火花が散った。
アリアは低く叫んだ。
「皆さん、少しの間持ちこたえてください!
私が時間を稼ぎます!」
零は血に濡れた顔を上げ、アリアを見た。
「……新たなる仲間か……
今は……助かる……」
蓮が苦笑しながら立ち上がろうとした。
「よし……また一人増えたな……」
シルフィアとシルヴァーナも、わずかに残った魔力で回復魔法をかけ直す。
しかし、聖雷騎士団の猛攻はまだ続いていた。
エレナ・ソルティアが苛立った声で叫んだ。
「また新たな穢れが……!
すべて焼き払いなさい!」
ガルドは大剣を振り回し、アリアに向かって襲いかかる。
アリアは直刀を巧みに操り、ガルドの攻撃を弾きながら反撃を試みる。
零は歯を食いしばり、鬼哭丸を握り直した。
「まだ……戦える……」
彼は最後の力を振り絞って立ち上がり、弱々しくも技を放った。
「——桜一閃……!」
青白い光が弱く閃き、近くの騎士を一人切り倒す。
戦場はさらに混沌とし、六人となった一行は、絶望の淵で必死に抵抗を続けていた。
雨と雷が激しく降りしきる中、新たな仲間アリアの加入により、戦いは新たな局面を迎えようとしていた。
しかし、聖雷騎士団の圧倒的な数は、まだ五人を——いや、六人を容赦なく追い詰め続けていた。




