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劣等種の建国録〜銃剣と歯車は、剣と魔法を打倒し得るか?〜  作者: 日本怪文書開発機構


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 コンラートが頷いた帰結を見よう。

 時は再度、元旦、初日の出の時期に戻る。


 901iがロノブ山に構えた陣地は、それはそれは良く構成されていた。

 もし戦争になれば、敵が大挙して押し寄せて来ることは明らかだったし、それに準備する為の時間も十分あったからだ。


 だが、思う通りにはいかないというのもまた事実である。


「陣地内侵入者!」


 第三中隊第二小隊――いわゆる外郭に配置された彼等は、敵と接触した場合には早期に通報した上で後退するように言われていたが、後退中に『引っかかって』しまった。

 誰かがいきなり叫んだ「陣地内侵入者」というのは、つまり、こちらの用意した警報装置や障害、計画した火力を敵が全部素通りして、土手っ腹の上でタップダンスを踊られているというのが大体の意味である。


「クソ、早いな、不意遭遇に注意。おい、中隊系どうなってる」

「マルマル、マルマル、こちらマルニィ、送れ! マルマル、マルマル! 駄目です。有線が沈黙してます」

「無線で呼び出せ!」


 小隊長の脳裏に過ったのは、夜間にもう相当浸透されていたのではないか――ウチ(小隊)の任務はソレを警戒することだったが、もしかしたら――というシナリオであった。

 丹田のあたりがスッとして、次いで全身がずぶ濡れになったような寒気と震えが一瞬襲ったが、取り敢えず命令を出すことによって義務を果たそうとする。それが彼の義務で、本能的恐怖から将校の威厳を沸き立たせる唯一の方法だったからである。


「クソ、拳銃持ちは薬室に弾を入れろ。どこに居るか分からんぞ」


 国家市民軍では、携行時は薬室を空にしておき、使用が予期される場合にのみスライド(遊底)を操作して薬室に弾を入れておけという規則になっていた。設計上はファイアリングブロックが付いていたが、あまり信用されていなかったのだ。


 ポイ、と、視界の端から何かが投げ入れられた。


 手榴弾だ。


 そう叫ぼうとした瞬間、ソレは炸裂して、小隊本部を丸ごと吹き飛ばした。



****



 宣 戦 布 告


 内閣総理大臣 ロイス・ドーン・アシャル

 建国歴11年 1月1日


 政府は、ヴィンザー帝国政府がドーベック国政府に対して挑発的な戦争行為を行ったのにしたがって、ドーベック国憲法第九条第四項の規定により、ヴィンザー帝国政府とドーベック国政府との間に戦争状態があることを宣言する。

 政府は、国家議会に、ドーベック国憲法第九条第五項の規定により、直ちにこの布告を承認するよう求める。

 内閣総理大臣は、これにより、ドーベック国政府の武力及び資産の全部に命令して、ヴィンザー帝国政府との戦争を成功裏に終結させるために必要とされるあらゆる行動をとることができる。


 以上



 武 力 出 動 命 令


 国家市民軍の全部の出動を命ずる。

 国家市民軍は、これにより、国家市民軍法第八十八条の規定により、我が国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。


 内閣総理大臣 ロイス・ドーン・アシャル



 法務幕僚が中央から届いた電報を黒板に貼り付けて「今じゃないだろ!」と怒られる傍ら、砂盤の前では赤い菱形のコマが長い棒でツンツンと操作されて南下が展示されていて、その脇でB(旅団)長は眉間にシワを寄せていた。


 こちらの認識としては『やっと』戦争が始まったが、既にその主導というのは帝国が行使していて、こちらとしてはそれ(ケツ)どうにか(舐めてキレイに)しなければならないからである。


「戦況どうだ」

「芳しくありません。R1上では戦車大隊戦闘団が頑張ってくれていますが、南北街道上ではGOP(全般前哨)が敵浸透部隊によって大きな被害を出しています」

「あいつら浸透なんかするようになったのか。1i(連隊)は何と?」

「現位置を死守する、と」

「戦車を東にも回した方が良かったかな、クソ」


 50口径90mm戦車砲と13mm機関銃、7mm車載機関銃で武装し、これら全部を載っけた車体に100mmの装甲板を帯びさせ、860馬力で以て、50km/hでぶん回す。

 この時代に於いて、端的に化け物と言って良いのが国家市民軍の戦車「TK-91」であったが、集中運用したのは理由があった。

 まず、橋梁が多い盆地東側では運用が制約される。

 西のマブロク山地から流れ出た数々の小川がデトゥール川に流れ込むという地形特性上、東に行けば行く程、大規模な橋梁が多くなる。西ではギリギリ車体の長さで以てヨッコラショと超越できていたような小川が、東ではパワーパックを丸ごと水没せしめて全廃の原因になり得るというのが容易に想像されたのだ。

 これを克服する為には、工兵部隊を随伴させて架橋してやれば良いのだが、今回旅団(B)長は、工兵部隊を旅団直轄運用とした。何故か、今回の戦闘で、旅団唯一の勝ち目が『待受の利』であり、それを最大限発揚する(要するに、地形特性をしゃぶり尽くす)にはソレが最善だったからである。

 次に、コレが最大の問題であるが、故障があまりにも多かったのである。

 これは後に明らかになることであるが、例えば全速前進中に急速停止する時、流体クラッチがエンジンと車体の慣性をまともに吸収、機械的破損こそしないが粘度をはじめとする特性が変化し、以後クールダウンするまでガッコンガッコンとエンストが多発する等し、結果的にパワーパックがくたばる(具体的に言うと異常振動でコンロッドが折れる)という持病を抱えていたのだ。(これは飽くまで不適切操作の一例であって、要するに変速機系に設計上の欠陥があったのだ。何故こうなったかというと、エンジンのトルク不足を変速機で補おうとする設計思想に無理があったというのが簡単な結論となる。ディーゼルは魔法の箱では無いのだ)


 そういう訳で、TK-91が配備されている戦車大隊は、大隊直下にある整備中隊(戦車回収車を持っている)と一緒に行動しないといけないという制約――要は擱座中自然にクールダウンして、コンロッドを交換すればまた動くのである――があり、結果的に戦車部隊をバラバラにして運用するというのは出来なかったのである。


「西北地区警戒情報、西北地区警戒情報。敵航空機兵を認む」


 方面系を取っていた電話手(軍曹)が、淡々と警報を読み上げる。

 要するに航空軍のレーダーだか哨戒機だかが敵航空騎兵(ワイバーン)を捕捉したので教えてきたということである。そしてその情報は航空軍を経由して国家市民軍総軍、国家市民軍国境警備軍総隊(いや、今は地上軍隷下部隊だから地上軍か? 兎も角、中央系のどこかだ)、旅団という風に情報が降りてきたのだ。

 で、情報には鮮度というものがあり、それが劣っているモノは食えないどころか腹を壊す。要するに彼ら(敵航空騎兵)は既にウチら(90B)の上空に居たのだ。


「敵騎来襲!」

「空襲警報! 赤警報!」


 程なくして、高射砲兵の連中が警報を発出した。本当に来たのだ。


「あいつら運用基盤持ってないんじゃ無かったのか?」


 バババババ、というAA(対空機関砲)が発砲を始めた音を聞いて、本当に来やがった、という思いと、ウチの対空警戒は優秀だな、という思いと、二系(情報)はマジで何をどうしたんだよクソという思いとが同時に去来する。


 ドカン、と衝撃があって、あらゆるモノに降り積もっていた土埃が一挙に踊り立ち、土煙としてゆっくりと腰を据えた。ペッ、ペと地面にネトネトした唾と砂とが混じった液体を吐き出し、指揮所内を見渡す。ここが直撃を受けたということでは無さそうだ。幕僚らはまだまだ悪態をついていて、元気そうだったからだ。


 私は爆撃を受けると人がどうなるかというのを知っている。妻のように、冷たくて臭くてヌルヌルした肉塊になるのだ。


「南北街道は大丈夫か? 避難民は」

「東橋が攻撃されました。損害不明」


 東橋は、フォレバ山地とラフェク台地の間を流れるキーファ川に掛かる3つの橋のうち、最も東に掛かっているものだ。


「航空軍にさっさと追い払うように言え! 工兵は橋を補強しろ!」


 これまで、我々にとって致命傷になりうる大動脈というのは、文民保護の失敗とか、山地の失敗とかであった。

 しかし、敵は大()動脈もあるよというのを初手で示してきた。


 これは負けるかもな、と一瞬間だけ脳裏に過った。

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