ep.14
早めに昼食を済ませることで無理に時間を作って、廊下を可能な限り早足で進む。目的の扉の前に立つとひと呼吸してから、そっと扉をノックした。するとゆっくりと扉が開き、中から彼女につけた侍女の一人が静かに頷き、部屋の外に出てくる。
「――ミーナは、どう?」
「今はご気分は悪くないようで、ぐっすり眠っていらっしゃいます。」
「そう、……。」
それはよかった、と独り言つ。彼女には負担をかけてばかりだから、と情けなく思いながら。
わたくしルミナス・ロッソィーノの親友、ファルミーナは才能豊かな女性である。市井の民出身でありながら、水と土のダブルという珍しい魔力属性を持ち、膨大な魔力量を誇り多彩な魔術を操るまさに天才なのだ。わたくしが彼女と友になってから様々なことがあり乗り越えて来て、彼女の後見のような役割をロッソィーノ侯爵家として行ってきた。わたくしにとって、それまでするほどに彼女は大切な存在なのである。
それにも関わらず、と思わず舌打ちしたくなる。彼女を傷モノにした愚か者がいるのだ、これは由々しき事態である。しかし、ミーナは相手について口を割らないし、ミーナの行動を浚ってもこれといって決定打に欠ける情報しか出てこない。そもそも、ミーナが男と長時間一緒に居たという事実があまりにも出てこないのだ。どうやって子を授かるというのだろうか、と頭を抱えていた。
そんなミーナは、急に妊娠初期の症状が出て、伏せているので状況を直接確認しに来ているという訳である。
「……あの、お嬢様。少し気になることがございます。」
「言ってみなさい。」
「少し、フィオナが魔力酔い気味なのです。彼女は特に酔いやすいので特段気にすること無いかと思いますが、基本ファルミーナ様と一緒に居るだけで魔力酔いは少し不思議に思いまして……。」
「確かに、それは可笑しいわね。」
魔力酔いは、名の通り魔力に酔ってしまうことだ。人酔いに近いだろうか、膨大な魔力を持つ者の傍や魔力持ちが沢山いる場にいると、魔力に中てられて気分が優れなかったり場合によっては吐き気を覚えるなどの症状が出る。
しかし、フィオナは天下のロッソィーノ家の使用人であるのだ。当然魔力への耐性はある者であるし、ミーナと接したことがある中での選りすぐりがシエルとフィオナなのだ。魔力酔いが起こるとは到底考え難かった。
「――ともかく、ミーナに関してちょっとした違和感があったらすべて報告しなさい。この件に関しても報告書にして出しなさい。」
「かしこまりました、お嬢様。」
ミーナが妊娠してから嫌な感じが続いているわね、と誰に言うでもなくぼやいた。
***
「ほな、集会を始める。議題は、……――」
「村長はん、そんなんより姫様現れたってのはほんまかい?」
子どもは寝ている夜更け。イニーツィオの地の集会場では、この町の大多数の大人が集まっていた。そしてざわめいていたが、姫様という単語にぴたりと静まり返った。
「そら、……分からへん。せやけど、御鈴が希求共振したことは事実で間違いあらへん。」
「せやったら、あの大御鈴が希求共振したのは姫様居てくださって、儀式をなされたちゅうことで勘違いやなかったと?」
「……分からへん。」
その場は静まり返った。誰もが沈痛な面持ちで、それ以降言葉を発しようとしなかった。
「確かめるしかあらへんのちゃいますか。姫様にお会いして、場合によっては……──。」
ぽつりと呟いた男の発言に、それは危険だ、我らの安寧はどうする、と皆好き好きに発言し始める。そんな中、村長と呼ばれた男は目をつむり考え込むように言葉を発すること無かった。




