ep.12
カツ、カツ、カツ。暗闇の中で、音が鳴り響く。ガチャッ、という音と共に光が溢れた。その先には、どこまでも深い黒の小さな部屋の中。その部屋から浮いている白い女が居た。老女であろうか、白に見紛う輝く銀髪、痩せ細った病的な白い肌、白と赤に袖は七色に重なっている装束を纏っている。何より特徴的なのは、鉄球と繋がっている鎖に両手両足が繋がれていた。しかし瞳の光は失っておらず、部屋に入ってきた男に挑戦的な視線を送っていた。
「フランチェーラ、話す気になったか。」
「何を言うてるんやい、そんなん有る訳があらへんやろう。」
「このっ、……!」
「はははははっ、学習しいひんなぁ。今は精霊王様はうちん味方やで、無駄なことに時間を裂くのんはどうか思うなぁ。」
男はずっと手許に持っていた鞭を女に向けて振るったが、不思議なことが起きる。女の周りに、半円状のバリアとでも呼ぶべき膜が現れて鞭を弾いたのだ。それを見て、女は豪快に笑う。ただただ、笑う。そして、急に真顔になったかと思うと、言葉を発した。
「精霊王様はお怒りどすえ。今でこそ静観されてますが、このままではお怒りのままに動かれるさかいね。ええ加減、我々を受け入れてくださらな、この国から魔術消える。決断の時どす。ようよう考えとくれやっしゃ。」
「魔術が消えるはずがないっ、精霊王様が我らを見放すはずがないっ!」
「閣下、お時間でございます。」
もういいっ、とキレ気味に言い放ち閣下と呼ばれた男は呼びに来た男を従えて部屋を去る。バンッという大きな音を立てて立ち去ったのを確認した女は、弧を描く様ににやぁっと笑う。しかし次の瞬間、笑みを消して虚空を見つめ始めた。そして、祈るように固く手を握っている女のその瞳は、心なしか光を放っているように見える。
「ええ、ええ、分かっとります。こないな不甲斐あらへん状況ではございますが、必ずや姫様をお救いいたします。……そうどすか、姫様はご無事でいてはりますのん。なるほど、坊動いたのどすなぁ、このフランチェーラ安心いたした。」
虚空を見つめたまま、時々頷きながら何者かと会話するように呟いていく。
「ええ、ええ、必ずや姫様をお連れいたします。御子様もきっとお連れいたします。……そういえば御子様はどないなさるんどすか?……ああ、なるほど。御子様は……の再来でいてはるのんどすなぁ。そらそら、喜ばしいこっとす。おめでとうございます。……ええ、ええ、このフランチェーラ、最期までお手伝いいたします。」
そして呟きが終わった途端に、瞳から光が失われていく。次の瞬間、唐突に女は倒れた。
「そろそろこの老体には厳しなってきたな。せやけど、姫様をお助けするまでは何としても生き残らな。精霊王様の御望みを叶えるためにも……。」
倒れながらも、女の瞳には力強さが残っており、言い聞かせるように、自身を鼓舞するようにつぶやき続けていた。




