ep.11
しばらくは、毎週月・水・金曜日更新(予定/予定は未定)
「もう一度いいかしら?王国立魔術師団の医療班長が、主治医?あの方が?」
「そう仰られても、魔術師団からの通達でございますれば。断ることも出来るかとは存じますが、あの方が診てくださるのはむしろ安心ではないかと。」
「なにか、嫌な感じがするわね……。ミーナを保護するよう言ってきたり……、いいわ。それならこっちにも考えがあるわ。」
「では、影の者を?」
「ええ、手配してちょうだい。お父様に伝えるのも忘れずにね。」
承知致しました、という声を聞きながら椅子から立ち上がり窓辺に立って空を見上げる。既に夜の帳が降りており、不安を誘うような色ね、とぽつり呟いた。
***
嵐は、突然やってきた。
「いつも御苦労ね、ベル。」
「……この度も、世話になる。ルミナス嬢。」
どういう状況なんですか、コレ。
大貴族ヴェルデットロ公爵家嫡男であるベルナルト・マジカ・ヴェルデットロ様が、ロッソィーノ家の屋敷へと姿を現した。なお、ルミナス様とヴェルデットロ様の会話や使用人の方々の落ち着きようからして、珍しくなさそうであることが推察される。個人的には今一番お会いしたくない方なので、勘弁願いたいところではある。
ルミナスさまから小声で聞かされることには、学園時代から悩まされているストーカー、というと畏れ多いが、ルミナスさまにご執心なあの方からのアプローチの一環らしい。
「相変わらずの腰巾着ぶりだな、平民。」
「……ヴェルデットロ公爵ご子息様におかれましてはご機嫌麗しいようでございまして、羨ましい限りでございます。」
目には目を、嫌味には嫌味を、が私の信条である。ヴェルデットロ様の落ち着いた深い深い碧の髪色が見えた瞬間から礼をとって頭を垂れてはいるが、ちょっぴりカッチーンときたのだ。今までは女、と呼ばれていたのだがとうとう平民呼ばわりすることにしたらしい。そういえば、学園時代は腰巾着と呼ばれていたので、まともな呼ばれ方をしていないかもしれない。腹立たしく思うこと自体が不毛か、とそっと溜息をついた。
改めて、ヴェルデットロ様の御姿を盗み見る。天使の輪が見えるほどの艶のある碧色の髪で、少し癖っ毛なのかわざとなのかところどころ跳ねて遊んばせている。背は高く、私自身そこまで高くないのは有るが、少し見上げるほど背丈がある。無論、女性受けバツグンの精悍な顔立ちで、しかし女嫌いであり泣かせた女は星の数ほどいるとか聞いたことがある。瞳も深い深い碧色で、吸い込まれそうハート、みたいな発言をする学友は山のようにいた。名乗りの通り、マジカの名を賜っている元同僚でもあり、成績優秀で非の打ちどころのない名実ともに公爵家の嫡男だけある完璧人間なのである。いや、女の扱いがなってないので、完璧とは言い難いかもしれない。
「……アイツの思う通りにするのは癪だけども、姉さまの顔を立てなきゃいけないし。適当に過ごしてちょうだい。」
「そうさせてもらう。」
「いつも通りにお願いするわ、ヴェルデットロ公爵次期当主。」
「……わかってるさ、ロッソィーノ侯爵次期当主。」
次期当主同士で思うところがあるのか、私にはわからない会話をしていたが、ともかくヴェルデットロ様がロッソィーノ家の屋敷に滞在することは確定らしい。再び、そっと溜息をつくのであった。
勘違いで無ければ、この子の父親と過ごすことになるのかぁ、とお腹に手をやりながらなんだか憂鬱な気分になった。




