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悲報

 虐めの一件はこれにて解決に終わった。

 いや、まだ正式に決まった訳ではないが、それでもここまで追い詰められてしまえばどんな奴でも諦めざるをえないだろう。例外としてあるならば、それは一人になると決意して脱走する者のみ。

 そういった者は総じて強い精神力を持っているものである。しかし、俺が見た最後は力を失いながら警備員達に連れて行かれる姿だった。

 折れてしまえば復帰には強烈な何かが居る。その何かが内側から出て来るならば今後例外へと覚醒するだろうと思うも、全てが自分の思う通りに動くと考えている奴がそんな強力な渇望を新たに抱くとは考えられない。思う通りにならなければ後に待っているのは発狂だけ。

 頭を掻き毟り、歯を噛み締め、目を限界まで開きながら常に絶叫を上げるだけだ。

 典型的な敗北者の末路であり、そうなればもう戻れない。負け犬と認めてしまった者は以前の自分を描けず、今後の生活全てを負け犬として過ごすようになってしまうのだ。

 

 しかし、発狂する理由は誰にでも当て嵌まる。

 俺とて生存不可能になれば叫び声を上げるだろう。情けない顔を表に出してしまうだろうし、本音の言葉でもって相手を罵倒することだって有り得る筈だ。

 嘲笑をしてはならない。それはもしかしたら、未来の自分なのかもしれないのだから。

 男は怒りに我を忘れて行動した。その結果が敗北であり、即ち貴族としての死だ。自分もこうなるだろうと前もって覚悟を決めて生活していかなければ同じになる。

 負けるのは勘弁だ。そう思うことだって嫌悪を感じてならない。

 早急に頭から捨て去り、昼休み直前に渡された緊急の紙を眺める。先の男の事など誰もが忘れるくらいの内容がそこにあり、俺自身衝撃度で言えば此方が大きい。

 

 第二優先地帯・ムラトの壊滅。

 それはつまり、軍事製品を含めた全ての物資に大ダメージを与える事になる。

 商業施設群という名前を取っているが、その実態は移動要塞型施設だ。既に誰もが使用しなくなった解析困難な技術である魔法を使い、都市クラスの建物をそのまま浮かせているのである。

 内部に入るには一度停止し、入国審査をしなければならない。下手な優先地帯よりも警備は厳重であり、その最大の特徴として阿頼耶保持者の審査は特段に厳しい。

 身分証明書の提示に身体検査。使用する阿頼耶の能力を詳細に伝え、更に公爵家の承認を三人分必要とする。

 あそこは貴族の製品や阿頼耶保持者の専用装備を作る場所だ。第一になっていないのがおかしい程の重要性があり、俺自身どうして第二なのかと首を傾げていた事がある。

 そんな場所が潰された。紙によると建物は九割が崩れ、魔法も完全に停止中。生き残った人は僅か百人に届くかどうかといったところであり、元から所属していた警備兵や阿頼耶保持者は全滅している。

 その中には英雄候補も居た。それすら潰されたというのならば、考えられる相手は自ずと絞られる。

 

「星座って奴等の仕業だと思う?」


「十中八九そうだろうな。未だ断定には程遠いが、この大陸で都市を一つ落とすとなると必然的に限られてくる」


「なになに……英雄候補である風のフィルトは、最も粘り続けたものの住民をある程度逃がし終わった段階で潰されてしまった。涙ながらにそう語る住民は多く、彼はとても慕われていたのだろう」


「敵の情報は何処にも無し。現在ムラトは復興中か。被害を考えるに、元に戻るまでに相当な時間を必要とするぞ。せめて職人が生きていたら幸いなのだが」


 テーブルに固まって会話をするのは何時ものメンバー。料理片手に全員が難しい顔をするのは当然であり、貴族であれば誰とてあそこが崩壊した事実に感情を見せる筈だ。

 あそこが完璧に潰されれば、貴族達の求める物が手に入らなくなる。他でも作っている場所はあるが、技術力という一点だけは他の追随を許さないのだ。

 家具や装飾品もそうだが、武器の完成度が違う。俺は一度実家で見ただけだが、見るだけで斬られそうな恐ろしさを抱く刀身はあれだけだ。

 まるで呪われた剣の再現。それをやってのけてしまうのがあの施設であり、英雄の装備の殆どはあそこで作られたのである。

 故に大問題として書かれているのは当然だ。寧ろそう書かれていないのならば頭が沸いているとしか言えない。

 この事態は俺がリーダー格を牢屋に叩き込んだ時から二日後の出来事だ。既に四日は経過しているので紙に書かれている内容よりは何か進展があるだろうが、それでも不安を覚えるのは仕様が無い。

 

 ウィンターが懸念した、職人が生きているのかどうかも当然不安の中に入っている。

 職人が居なければ技術を受け継ぐ者は誰も居ない。弟子が偶然生き残っていたのならばまだ種は消えないかもしれないが、それが入ってまだ一年程度の弟子であればとても使えたものではないだろう。

 今俺達が気にしているのは、酷い話であるが職人の生存と敵についてだ。

 住民は確かに可哀そうだと思うし同情もするが、それでも懸念としては此方が大きくなってしまう。俺達が生きていくには彼等の存在は必要不可欠であり、故に優先順位も高くなるのだ。

 だが、そんな中でフィルトと呼ばれた人物は例外無く住民を逃がす姿勢を見せた。

 それは素晴らしい精神性だ。合理主義に染まらない姿は感情を動かし、皆に理想の英雄としての存在を示していた。

 あれこそが真の英雄。そう言われれば確かにと頷かせ、結果的にだが貴族達の印象を多少は上向きにさせている。死んでしまったのが惜しいくらいの人物だ。もしも知り合いになれたのならば、その時は是非とも彼の精神性について学びたかった。

 

 食堂は既にこの話題で持ちきりだ。大概は世間話の良いネタくらいにしか思われていないようだが、それでも一部の生徒達は真面目に事態を受け止めている。

 中には何処かへと手紙を出す姿も見られた。その大体は三年のみだが、学園の中でもこうした活発な動きが見られたならば今頃王宮はどうなっているのだろう。

 グラムから教えられた星座。それが真実であるとは未だ俺達は考えていない。他に良い呼称ば浮かばなかったからそれを適当に当て嵌めているだけで、知らなければ別の呼び方をしていた。

 紙にも特異個体の出現かと書かれているし、どうやら星座の連中達はやはり隠されているらしい。

 国民を不安にさせない姿勢は大事だが、こうまで被害が大きいと逆に隠すべきではないように感じる。それは俺自身が被害を明確に受けていたからこそなのだろう。

 獅子が来るのならば少なくとも覚悟はした。準備ももっと考えただろうし、仲間達に対する言葉も自然と厳しいものへと変化していたのは間違いない。

 怪物を殺せるのは同じ怪物だけなのだから、ああいった生物が襲い掛かってくると知った時点で俺達は腹を括って対峙するしか他に選択肢は無いのだ。


「すいません、お待たせしました」


 銀の盆の上に置かれた料理を持ちながら、グランの声を聞く。

 空いている席へと腰かけるも、俺達の顔と持っている物で雰囲気を察したのだろう。笑っていた顔を真剣なものへと変えて、彼もまたこの話し合いのような何かに参加していく。

 

「それ、あの移動要塞が落ちた事件ですよね」


「そうだが、何か知っているのか?」


「いえ、そこまで色々知っている訳じゃないんですけど……」


 自信無さげに告げる彼の言葉は、全員を更に考えさせられるようにしてしまう。

 要塞と名付けられるだけあり、あそこの装備は全てナグモよりも上だ。移動出来る都市の時点で離脱も考慮に入れられるが、その動作自体は遅いので足のある者であれば追い付くだろう。

 しかし、それを最初から考えているからこそ外側を守る装甲は分厚く硬い。阿頼耶保持者の中でも特別火力の高い者でなければ貫けず、しかもその壁には阿頼耶によって様々な能力を付与されている。

 一例として挙げるならば頑強。要塞を要塞足らしめている最重要な部分であり、五層に展開されている壁全てにそれが付与されているのだ。

 突破は困難を極め、今まで化外の攻撃を受けようともまるで壊れる気配を見せなかったらしい。

 更に移動用の魔力を使用しての自動攻撃に自動回復。警備兵も攻撃を回避出来るようにと、ある英雄が能力を付与しているそうだ。

 一般人でも化外を倒せるようにするその付与は驚異的であり、弱点として挙げるならば最初から限界値が定まってしまっていることだろう。

 しかしその限界値自体も高く、少なくとも俺達が戦った中で大型までの肌ならば貫通が出来たそうだ。

 流石の性能と褒める他無く、であるからこそ誰もがそれを欲しがるだろう。


 実際付与の件については今も殺到しているようだ。予約は一年以上先まで続き、今はムラトの復興に力を入れているようだからそれは更に伸びるだろう。

 今俺達が欲しいと思っても絶対に手には入らない。まぁ、俺達の場合は元々の性能でやる他無い訳だ。

 他人の力は今後確実に必要となってくる。候補として挙げておくには十分だろう。

 尤も、その防御すら突破してムラトは崩壊してしまったのだが。一体どれだけの攻撃を浴びたのか、まるで予想がつかない。

 建物の壊れ方としては上から潰されるような形と書かれており、それをそのまま受け取るのであれば大質量が上から降って来たという事になる。

 都市を潰す大きさとなれば有名になっている筈だ。にも関わらず世間に広がっていないという事は、少なくとも本体の大きさ自体はそこまでではない。攻撃時のみ本性を露わにするような存在だと仮定するのが一番現実的で、だが止める手段がある訳ではなかった。

 

「一番の問題点は大質量をどうやって止めるのか、ですね。私の能力で止められるならそうしたいのですが、把握に少々時間が欲しいです」


「その間に敵の攻撃が届く危険性があるし、そもそも効くかどうかも解らねぇ。本性を見せる前まで姿を見せないタイプだったらかなり厄介だぜ」


「純粋な火力で押し切る?」


「止めておこう。それでは足りなくなった時の手札が存在しなくなる。大質量相手だ。ノースが全力を出さねば止められぬと仮定しても、それは一回だけのこと。二回目や三回目があるようではまず負ける」


 俺の全力というよりもオリオンの全力と仮定するのが正解だが、確かにウィンターの言う通り一回しか最大火力の攻撃は出せないだろうと俺は考えている。

 俺の耐久力は阿頼耶保持者の中でも一般の域を出ない。もしも突出しているようであれば寿命は削られなかっただろう。故に、本当の意味でオリオンが全力を出せば身体が崩壊しかねない。

 それに一回しか成功しないようでは駄目だ。相手の弱点も解っていないというのに、これではただ防ぐ事しか出来ない。

 相手の位置を特定し、その上で全力攻撃を仕掛ける。全て熟そうと思えば、索敵要員に最大攻撃だけが英雄級の者が三人程必要ではないかと考えていた。

 この攻撃の部分だけは数の上限がある訳ではない。多ければ多い程に一回で敵を殺す事も可能になるだろう。それでも、攻撃力が英雄級に近い者を探すというのは無理に近い。

 俺の知っている限りでは可能性として高いのはグラムぐらいなもの。本人の全力を未だ知らない身としては、やはり不安の部分が大きいか。

 

「ま、俺達が出る事は無いだろ。どう見たって学生の領分を超えてるんだ。考えるだけにしといた方が気分的にも大分楽さ」


「出るって……何でですか?」


 ライノールの言葉に、直後グランが疑問をぶつける。

 そういえば彼には何も話していなかった。最近は特にそういう話も来なかったものだからついしていなかったが、もしかすれば同じ行動をしているが為に彼も巻き込まれるかもしれない。

 ここで突き放すのは無しだろうから、まぁ話すのは確定か。サウスラーナが隠すのが下手ねと言っていたが、どうせ隠したとしても気付かれる。

 時期が経てば気付く者も必ず出るのだ。まして共に行動しているのであれば、気付く確率は更に跳ね上がるだろう。落ち込んでいるライノールの肩を叩いて慰め、俺はグランへと事の詳細を明かした。

 その話が進む事に彼の顔色も変化し、最終的には青くなる。

 学生が生死の境を彷徨うような真似をしていたのだ。それを想像すれば、彼の反応も頷けるもの。

 全員が納得の顔をするも、直後机を叩いて此方に顔を寄せたグランが鋭く言葉を放つ。


「何してるんですかッ。限界は確り見極めないと死にますよ!?」


 それが酷く普通の内容だったことに、何故だろうか。

 皆で顔を合わせてから笑いが出てしまった。

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