04 鉢合わせ
害獣について
害獣
古来より存在するとされる、人類に害を為す異形の総称。
大小様々な魔力を保有しており、その危険度に応じて分類される。
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魔蟲
初級程度の魔力を保有する小型個体群。
毒や寄生能力を持つ個体もおり、人体へ深刻な被害を及ぼす危険がある。
魔物
初級程度の魔力を保有する個体群。
高い攻撃性を持ち、一般人であれば死に至る危険性がある。
魔獣
初級〜中級程度の魔力を保有する大型個体群。
個体によっては村一つを壊滅させるほどの脅威となる。
恐害獣
中級程度の魔力を保有する危険個体群。
極めて高い戦闘能力を有し、町に壊滅的な被害を与える例も存在する。
指定型恐害獣
中級〜上級程度の魔力を保有する特定危険個体群。
国家機関より討伐指定を受けた存在であり、都市機能を半壊させる危険性を持つ。
厄災獣
上級〜彗星級程度の魔力を保有する超危険個体群。
国家戦力級の対応を必要とし、都市を壊滅へ導く恐れがある。
天災獣
聖級以上の魔力を保有する規格外個体。
その出現自体が“天災”として扱われ、複数都市を滅ぼす危険性を持つ。
魔族・悪魔族
聖級〜王級の魔力を保有する知性種。
独自の文明・魔術体系を持ち、個体によっては一国を滅ぼす力を有する。
神獣
帝級以上の魔力を保有する超越存在。
自然法則すら捻じ曲げる力を持つとされ、複数国家を滅亡へ導く危険性を秘める。
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※「七終覇」は上記分類に属さない。
世界そのものを終焉へ導く可能性を持つ、例外指定存在である。
「お前は、我が一族唯一の汚点。二度とこの地を踏むことを許さん。出ていけ、忌み子よ」
頭の中で、この言葉が何度も反芻する。
白銀の髪を掴まれ、何度も地面に叩きつけられた痛み。
冷たい視線。
向けられる嫌悪。
—ごめんなさい。
こんな姿で生まれてきてしまって。
私の居場所は、私が物心つく前から無かった。
そして、これからもずっと。
私の居場所は無い。
そう思っていた。
—あの日までは。
—
馬の蹄の音が、一定のリズムで鳴り続ける。
がたん、と馬車が揺れた。
「し、師匠」
「んー?」
向かい側に座るラティ師匠が、眠たそうに返事をする。
「お尻が、痛いです‥」
「あと2時間は我慢ね」
「鬼ですか?」
「失礼な。美人なお姉さんと言いなさい」
どこがだ、と言い返す気力もない。
馬車に乗るのは初めてだが、こんなに揺れるとは思っていなかった。
長時間揺られ続けてきたせいで、僕の下半身の感覚はほぼ消えかけている。
そんな僕を見て、ラティ師匠は楽しげに笑った。
「な、何で笑ってるんですか」
「ウェルの辛そうな顔を見れる機会はそうそう無いからね」
「‥‥」
気分を紛らわせるため、窓の外を眺める。
広がるのは、湿った森と荒れた道。
目的地の村までは、もうそれほど遠くないらしい。
僕たちは今、恐害獣の討伐依頼受け、家から馬車で4日ほど離れた村に来ていた。
今までの討伐依頼は、基本的にラティ師匠1人で受けていた。
けれど、僕が10歳になった事で、今回初めて害獣討伐への同行を許された。
「でも、何でよりにもよって恐害獣何ですか」
「ん?」
「初依頼なんですよ。もう少しこう‥弱めの相手とか」
「そうかなぁ」
ラティ師匠は腕を組み、少し考える素振りを見せる。
「最近のウェル、質量で押し潰す魔法ばっかりだからね。今回の相手は丁度良いと思うよ」
「む」
否定できない。
黒鰐。本来魔獣の黒鰐が変異を起こす事で生まれるとされている。体長は20mを超え、表面の黒い鱗は並の攻撃では傷一つ付けられない。
しかも速い。
これまでに4つの冒険者パーティーが討伐に向かい、複数の死者が出ているらしい。
正直、初依頼としては重すぎる。
「まぁ、死なない程度には頑張って」
「その基準が怖いんですよ」
—
「いやぁ、本当に助かります。まさかラティ様に来ていただけるなんて」
村長は何度も頭を下げながら言った。
かなり切羽詰まっているのだろう。
村の空気も重い。
通りを歩く人々の顔には疲労と怯えが浮かんでいた。
「今回の依頼を受けるのは、私じゃなくてこの子だけどね」
ラティ師匠がこちらを指差す。
村長の顔が固まった。
「‥え?」
「私の一番弟子」
沈黙。
数秒遅れて、村長は引きつった笑みを浮かべる。
「い、いや‥ラティ様のお弟子様であれば実力は疑いません。ですが、流石に幼すぎます。大人として子供をあの沼へは向かわせるのは‥」
「この子は私の一番弟子だよ」
ラティ師匠は笑ったまま言う。
それだけだった。
なのに。
部屋の空気が、一瞬で張り詰めた。
村長の方がぴくりと震える。
「‥失礼しました」
それ以上、何も言わなかった。
「今回討伐していただきたいのは、黒鰐です」
村長は咳払いして話を続ける。
「これまでに村人が2名死亡。そして討伐へ向かった冒険者たちも‥5名が死亡しました」
「‥」
「遺体のほとんどは、見つかっておりません」
部屋の空気が重くなる。
「一昨日あたりからは、この村の近辺でも目撃されるようになりまして‥」
—
一通り話を聞き終え、僕達は目撃情報のあった沼地に来ていた。
空気が湿っている。
草木は異様なほど静かで、虫の音一つ聞こえない。
「さて、ウェルはどう思った?」
ラティ師匠が沼を眺めたまま聞いてくる。
「そうですね‥」
視線を周囲に巡らせる。
水面は濁り、奥の様子はほとんど見えない。
「剣での物理攻撃は、ほぼ通らないでしょうね。しかも水上での機動力も速い」
普通に戦えば不利だ。
けれど—。
「恐らく、問題ありません」
そう答えた瞬間だった。
—バキッ!
背後の森から、木々を薙ぎ倒すような轟音が響く。
反射的に振り返る。
森を突き破るように、一台の馬車がこちらへ向かってきていた。
そして、その後方。
巨大な黒い影が、地面を這いながら迫っている。
「‥っ、襲われていたのか」
すぐに魔力を練る。
だが、迂闊に魔法は撃てない。
逃げている人間ごと巻き込む可能性がある。
間に合うか。
走るべきか。
ここで迎撃するべきか。
判断を誤れば、死人が出る。
思考がまとまるより先に、黒い巨体がさらに速度を上げた。
—
「お嬢様っ、こちらへ!」
ワナは叫びながら、お嬢様を無理やり乗せた。
「もう‥私達だけになってしまった」
護衛の騎士も。
メイドたちも。
皆、死んだ。
アルシェリア様は、生まれた時から“魔女の生まれ変わり“と蔑まれてきた。
僅か13歳で家を追われ、それでもようやく、新しい地へ向かえるはずだった。
せめて。
せめてこの子には笑っていて欲しかった。
なのに。
背後から、ぬるりとした殺気が迫る。
黒鰐。
その巨大な顎が、もうすぐ背中へ届く。
少しでもスピードを出す為、ワナは荷台との連結を切り放し、アルシェリア様の後ろへ飛び乗った。
「‥ワナ」
「なんでしょうかアルシェリア様」
前に座る少女の身体は、小さく震えていた。
「もう、私は構いません。貴方だけでも逃げてください」
「何をおっしゃるんですか!」
思わず声を荒げる。
「私の命は、アルシェリア様に捧げると決めております!絶対に、お一人にはしません!」
アルシェリア様は何も言わなかった。
ただ、小く俯く。
その時だった。
ワナは前方に、二つの魔力反応を感じ取る。
片方は、以上な程大きい。
—あの人なら。
そう思った瞬間。
背後から、凄まじい咆哮が響いた。
速い。
辿り着く前に、追いつかれる。
だめだ。
間に合わ—。
その瞬間。
目の前に、一人の女性がいた。
金髪のエルフ。
陽光を溶かしたような髪。
こんな状況にも関わらず、一瞬だけ目を奪われる。
だが次の瞬間。
視点が跳ねた。
気づけば、自分たちは宙に投げ出されていた。
黒鰐はそのまま馬を噛み砕き、地面を抉りながら直進する。
数秒遅れて、地面に着地した。
「ぁ‥」
何が起きたか理解できない。
ただ、自分たちが助かったことだけはわかった。
「ありがとうございます‥!」
ワナは地面へ両手をつきながら、頭を下げる。
だが、すぐに顔を上げた。
「早く!早くあの子の所へ行ってあげてください!」
金髪の女性は、不思議そうに首を傾げる。
「なんで?」
「なんでって‥!」
ワナは思わず叫ぶ。
「あの子じゃ、黒鰐には勝てない!」
「貴方なら倒せる!だから、助けに行かないと‥」
だが。
彼女は動かなかった。
ただ、静かにその戦場を眺めている。
「わ、私からも、お願いします」
お嬢様も震える声で懇願する。
「どうか、あの方を‥」
その時。
金髪の女性は、ふっと笑った。
「‥なんでなんだろうね」
視線の先。
そこには、黒鰐へ向かっていく少年の姿。
「ウェルは、いつもこうなる」
その言葉の意味を、まだ二人は理解できなかった。
—
一般攻撃魔法を放ち続ける。
だが。
奴には傷ひとつ付けられない。
顎を大きくを開け、こちらに向かってくる。
僕は風魔法でなんとか体を横に弾く。
直後。
轟音。
地面が砕け散る音が聞こえた。
「‥ッ!」
間髪入れずに一般攻撃魔法を繰り出す。
額から汗が拭う。
「‥ッ硬すぎる」
再び撃ち込む。
爆音。
だが、奴は煙を突き破り、こちらへ迫ってくる。
避けて、撃ち込んで、それを繰り返す。
だが、奴は笑っているように見えた。
恐らく気づいている。
僕の魔力は、もうすぐ尽きるということに。
再び撃ち込もうとした瞬間、意識が一瞬白く弾ける。
足が揺れる。
視界が霞む。
その隙を奴は見逃さなかった。
顔を上げるとそこには—巨大な暗闇があった。
‥もう、逃げられない。
咄嗟に魔法を放つ。
だが、その光は虚しくも暗闇の喉奥へ飲み込まれていった。
次の瞬間。
僕は胴から二つに裂けていた。
長らくお待たせしました。今回から前書きに、物語で詳しく明言されていない世界のことについてのプチ情報を書いていこうと思います。勿論、見なくても十分楽しめる様にしていく所存ですが、読むことでもっとこの世界にのめり込んでいけると思っています。さて、今後の投稿ついてですが、基本的に毎週日曜日の夜9時頃にしていきたいと考えています。投稿は前後するかもしれませんが、どうか温かい目で見ていただけると嬉しいです。




